2020年11月23日 (月)

「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」:被害者からの脱出

監督:フランソワ・オゾン出演:メルヴィル・プポーフランス2019年 フランソワ・オゾンがいつもの作風を封印  カトリック教会の聖職者による少年への性的虐待事件(実話)をシリアスに描いたものである。 とある司祭に虐待の被害を受け、数十年経過した後に告発した3人の男性をリレー形式に取り上げている。彼らは社会に広く呼び掛け、被害者団体を作って加害者の司祭だけでなく隠ぺいした教会をも告発するのだった。だが、教会からは無視、社会からの反発など様々な困難が続く。 中年...

» 続きを読む

| |

2020年11月21日 (土)

ヘンデル「リナルド」:戦わぬ主人公に勝利はあるか

演奏:バッハ・コレギウム・ジャパン会場:東京オペラシティコンサートホール2020年11月3日 コロナ禍の中、BCJによる『リナルド』が上演された。指揮は鈴木優人である。神奈川でもやったが、私は初台の方に行った。チケットはだいぶ後に取ったので座席はかなり後ろの方。もちろんオペラグラス持参だ。そもそもは海外から歌手を招くはずだったが、コロナウイルスの影響で全員日本人のキャストとなった。 過去にこの作品を見たのは、NHK-BSで放映されたグラインドボーン音楽祭でR・カーセンが演出...

» 続きを読む

| |

2020年11月14日 (土)

「ランド」全11巻

著者:山下和美講談社(モーニングKC)2015~2020年 2014年に連載が始まった『ランド』が遂に終了した。 舞台は江戸時代末期か明治初期ぐらいのように見える農村、そして名主の住む町である。きわめて旧弊で不可解なしきたりや禁忌が存在し、お告げに人々はおびえ、生贄を捧げ、互いを見張っている。実際、「この世」の東西南北にはそれぞれ巨大な異形の神が存在して人々を監視しているのだ。 この世界には老人がいない。住民は50歳まで病にもならず運良く生きながらえるとそこで寿命となって亡...

» 続きを読む

| |

2020年11月 8日 (日)

映画落ち穂拾い 2020年後半その1

「悪の偶像」監督:イ・スジン出演:ハン・ソッキュ韓国2019年 政治家が息子のひき逃げ事件の隠ぺいをはかる(;一_一)……というのなら、政争サスペンスだろうと思って見に行った私が悪かった。 登場人物が全員モンスター化するという斜め上どころか異次元突入の展開である。暴力てんこ盛りの終盤に至って、これは社会派ものではなくて『コクソン』と同系統だと判明したのだった。「全員怪物」って「全員善人」と同じくらい詰まらない状況だと理解していただきたい。またやたら長いんだ...

» 続きを読む

| |

2020年10月30日 (金)

「日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー」

経産官僚の暴走と歪められる公文書管理著者:ヒロ・マスダ光文社新書2020年 「クールジャパン」の美名(?)の下に、映画・アニメに税金をつぎ込んで企画された事業を複数取り上げ検証している。その総額1000億円超……(!o!)ただし民間が関わっているためにちゃんとした情報公開はなされていないという。 税金から出された予算がことごとく怪しい人物や団体(それらは互いにお仲間同士)へと流されていき、結局制作現場には益なく一銭も渡らずに終わるのが明らかにされるのであった。なにせ作品の企...

» 続きを読む

| |

2020年10月26日 (月)

「透明人間」:見えなきゃ怖いが見えたらもっと怖い

監督:リー・ワネル出演:エリザベス・モス米国2020年 『アップグレード』がB級ぽいとはいえ好評だったリー・ワネル、新作は立派にA級の完成度だった。既に古典と化している透明人間ネタとストーカーの恐怖を合体させた発想はお見事である。 DV男である恋人の豪華な邸宅から女が密かに逃走する。友人の家に匿ってもらうのだが……誰もいないはずが何かの気配が(>O<)「誰かがいる、見張られている!」とヒロインが主張しても、観客以外の人物にはその恐怖はノイローゼか精神錯乱としか見え...

» 続きを読む

| |

2020年10月24日 (土)

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」:結婚は女の墓場か花道か

監督:グレタ・ガーウィグ出演:シアーシャ・ローナン米国2019年 恥ずかしながら原作未読であります(^^ゞということで事前にあらすじと作者オルコットの生涯について解説してある求龍堂グラフィックの「若草物語 ルイザ・メイ・オルコットの世界」を図書館で借りてきて、手っ取り早く予習した。 その上でこの映画を見ると、作者自身の実話とジョーを完全重ね合わせたメタフィクションの構造となっている。で、公開決定時から「なんじゃ、この邦題は~ 」と非難轟轟だったタイトルが...

» 続きを読む

| |

2020年10月13日 (火)

「その手に触れるまで」「ルース・エドガー」:男のいない男たちの世界

「その手に触れるまで」監督:ダルデンヌ兄弟出演:イディル・ベン・アディベルギー・フランス2019年 「ルース・エドガー」監督:ジュリアス・オナー出演:ナオミ・ワッツ米国2019年 今回のお題は「構ってほしい、異文化のはざまに立つ良い子の少年」である。共通項は「女教師」「母親」「女の子」だ。 『その手に触れるまで』はカンヌの常連ダルデンヌ兄弟がやはり監督賞を獲得した新作。ベルギーに暮らす移民(モロッコ系?)の少年アメッド、少し前まではゲームに夢中だったのに今はネットでイスラム...

» 続きを読む

| |

2020年10月 4日 (日)

「コリーニ事件」:裁かれる法

監督:マルコ・クロイツパイントナー出演:エリアス・ムバレクドイツ2019年 ドイツの弁護士兼作家のフェルディナント・フォン・シーラッハのミステリー小説の映画化。原作は未読。 新米弁護士が国選弁護士として引き受けた事件はなんと、彼が子どもの頃に世話になった人物の殺害事件だった。しかも、犯人は動機や関係など一切黙秘という不可解さ。それでもなんとか弁護しようと奮闘する。 謎の解明に向かう後半にから終盤になって畳みかけるような展開に意表を突かれた。米国とはまた違うドイツの裁判模様も...

» 続きを読む

| |

2020年9月28日 (月)

「ハリエット」:聖女か闘士か紙幣の肖像か

監督:ケイシー・レモンズ出演:シンシア・エリヴォ米国2019年 米国で公開された時から「懐かしい(#^.^#)」と思ってぜひ見たかったものだ。なぜ懐かしいかというと、子どもの頃小学校と中学校の図書館に新日本出版社の児童向け世界全集が入っていて(『世界新少年少女文学選』)、その中にこの映画の主人公であるハリエット・タブマンの伝記『自由への地下鉄道』があった。それを気に入って、子どもなので何度も何度も繰り返して同じ本を読んだ。……とはいえ、××年も前の昔のことであり、内容はあまり...

» 続きを読む

| |

2020年9月22日 (火)

「囚われた国家」:売国ならぬ売星の輩

監督:ルパート・ワイアット出演:ジョン・グッドマン米国2019年 B級SF設定プラス『影の軍隊』的レジスタンスものという、かなり珍しい取り合わせの映画。といってもかなり地味な作りで、もしコロナウイルスの影響で洋画の新作が入って来なくなったという事態がなければ、大々的な公開はなかったろう類の作品である。 異星人に侵略支配された近未来の地球、侵略者は地下で地球の資源を発掘奪取して自星に送る一方、地上では傀儡政権を操り人々を支配しているのであった。--ってモロにナチス占領下のフラン...

» 続きを読む

| |

2020年9月18日 (金)

ナショナル・シアター・ライブ「夏の夜の夢」:ブランコに乗ってさかさまに

作:ウィリアム・シェイクスピア演出:ニコラス・ハイトナー主演:オリヴァー・クリス、グェンドリン・クリスティー上演劇場:ブリッジ・シアター 恐らく『夏の夜の夢』は、シェイクスピア作品の中でこれまで一番見ているものではないかと思う。実演もそうだが、映画化作品や舞台収録を含めるとさらに回数が増える。だから、もうこれ以上見なくてもいいかなと迷っていたのだが、以前に斬新な『ジュリアス・シーザー』をやったN・ハイトナー演出で、使っている劇場も同じということで見に行った。 まさに行って正...

» 続きを読む

| |

2020年9月11日 (金)

映画落ち穂拾い 2020年前半その3

「帰ってきたムッソリーニ」監督:ルカ・ミニエーロ出演:マッシモ・ポポリツィオイタリア2018年DVD鑑賞 ご存じ『帰ってきたヒトラー』のイタリア・リメイク版だが、うーん(ーー;)という印象である。ヒトラーの代わりにムッソリーニというアイデアは誰でも思いつきそうなのは、いいとして  ただ、全体に短縮した上に、さらにメタ構造だった終盤の展開を削ってあるのでかなりライトな仕上がりだ。(「右」ではなくて「軽」の方) イタリアは「70年間の間に...

» 続きを読む

| |

2020年9月 7日 (月)

「ナイチンゲール」:地と人心の果てで

監督:ジェニファー・ケント出演:アシュリン・フランチオージオーストラリア・カナダ・米国2018年 19世紀イギリスが囚人流刑の地としていたタスマニア。彼らを植民地の労働力として使役するのである。そこに送られたアイルランド女性の悲惨な物語だ。彼女は監獄を出してもらいその地で伴侶を得たが、同時に流刑地を管理している英国軍の将校に「愛人」扱いされている。とあるきっかけで将校たちにレ●プされた上に夫と子どもを殺される--というのが発端。復讐に燃える彼女は先住民の若者をガイドとして雇い...

» 続きを読む

| |

2020年9月 5日 (土)

「娘は戦場で生まれた」:想像の埒外

監督:ワアド・アル=カティーブ、エドワード・ワッツイギリス・シリア2019年 2012年から激動するシリアの状況をスマホで撮り続けたドキュメンタリー。アレッポ大学在学中に反政府デモ活動に参加した女性が、空爆が激しくなる中も反体制派の拠点であるアレッポに留まり撮影し、それを発信していく。 その間に、負傷者を治療する救急病院の医師と結婚しマイホームを得て娘も誕生する。そんな日常のホームビデオっぽい映像が全く境がなく、そのまま激しい砲撃が襲う街に繋がっていく。その落差に衝撃を受け...

» 続きを読む

| |

«METライブビューイング「ヘンデル アグリッピーナ」:母の愛はコワし