2019年8月17日 (土)

「荒野にて」:父一人馬一匹子ひとり

監督:アンドリュー・ヘイ出演:チャーリー・プラマーイギリス2017年 思い出したのはケン・ローチの『ケス』である。あれは孤独な少年とタカの物語だったが、こちらは競走馬と少年の物語。ロードムービーであるところが『ケス』とは違っている。 米国の田舎町、少年は父親と共に引っ越してきたばかりで完全に孤独である。それまではハイスクールに通っていたようなのだが、父親は全く無関心で、そもそも不在が続き生活費すらろくに渡していない。家の中はまだ段ボールが積んであるままだ。 たまたま馬主の男に...

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2019年8月12日 (月)

「フォリア!」:教会揺らぐ

スペイン、ポルトガル15世紀から伝わる情熱と狂喜の音楽演奏:高橋美千子ほか会場:日本福音ルーテル東京教会2019年7月17日 定期的に行われていたソプラノ高橋美千子とガンバ4人の組み合わせによるコンサートである。今回はパーカッションの立岩潤三がゲスト参加して様々な時代と国の「フォリア」や関連曲を演奏、休憩無しでアンコール二曲を入れて90分というものだった。 冒頭、マレのフォリアに基づくヴィオール曲から開始。その後に登場した高橋美千子は真っ赤な口紅に黒髪を振り乱し、赤いドレス...

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2019年8月11日 (日)

「バイス」「記者たち 衝撃と畏怖の真実」:表裏なき戦い

「バイス」監督:アダム・マッケイ出演:クリスチャン・ベール米国2018年 「記者たち 衝撃と畏怖の真実」監督:ロブ・ライナー出演:ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデン米国2017年 イラク戦争を扱った二作が同時期に日本公開された。内容は一つの事象の表面と裏面を描いている。さて、どちらが表でどちらが裏かというと……。 先に見た方がいいのは『バイス』だろう。ブッシュ政権下で副大統領を務めたチェイニーが主人公である。副大統領というとお飾り的ポジションかと思っていたら、彼につ...

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2019年8月 8日 (木)

「ネット右翼とは何か」

著者:樋口直人ほか青弓社2019年 6人の著者による「ネット右翼」の実像に迫る論集。「ネトウヨ」などというといわゆる「自宅警備員」(私もつい冗談で使ってしまうが)のような二、三十代のニートな若者を思い浮かべてしまう。しかし冒頭、8万人対象の調査によって浮かび上がってきた「ネット右翼」像はそれとは全く異なるものである。ここで衝撃を受けるだろう。正規雇用、経営者・自営業の男性で、年齢は中高年が多い。情報源としてよく利用するメディアはネット・SNSでTVのワイドショーや情報番組さ...

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2019年8月 4日 (日)

「塩田千春展 魂がふるえる」:作品の糸はどこに

会場:森美術館2019年6月20日~10月27日 夏休み期間に入ると会場の六本木ヒルズは混雑するだろうということで、その前に素早く見てきた。チラシにも使われている赤い糸と鉄枠のボート、黒い糸と焼け焦げたピアノと木の椅子、つり下がった旅行鞄の群れなど大規模インスタレーションが目を奪う。写真などで見るとやや重々しい印象を感じるが、実際に見るとそんなことはなく軽やかであっさりしていた。個人的には重くてどんよりしているものが好きなので、その点ではやや期待からずれていた。以前評判にな...

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2019年8月 3日 (土)

「ナポリのサルヴェ・レジーナ」:ナポリを聞いてから死ね

演奏:阿部早希子ほか会場:近江楽堂2019年7月9日 ナポリ出身または縁のある作曲家の特集。……というか、チェロの懸田貴嗣が好きな曲ばかり選んだらしい。ソプラノ阿部早希子とチェンバロ渡邊孝は過去に3人で、北イタリアで録音した仲間とのことだ。この日はヴァイオリン、ヴィオラも加えて総勢6人だった。歌曲はヴィヴァルディのモテット、ポルポラの「サルヴェ・レジーナ」、ヘンデルのモテット。その合間にチェロと鍵盤の器楽曲を挟むという構成である。 ポルポラに関しては懸田氏が「生誕333年記...

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2019年7月30日 (火)

聞かずば死ねない!古楽コンサート 8月版

待ち望んだ梅雨明けヽ(^o^)丿 しかし湿度は変わらず気温が上がるだけというのはどうしたもんでしょうか *1日(木)技巧と調和 17世紀ドイツ・オーストリア珠玉の器楽作品(天野寿彦ほか):近江楽堂*7日(水)”フレンチ・カンタータの時代”の音楽4 オルフェ(横町あゆみほか):近江楽堂*9日(金)ナポリの香り F.マンチーニとその周辺(向江昭雅&平井み帆):近江楽堂*14日(水)~17日(土)ダ・ヴィンチ音楽祭in川口:川口総合文化センター・リリア*17日(...

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2019年7月25日 (木)

「〈性〉なる家族」

著者:信田さよ子春秋社2019年 これまで語られず闇へと葬られてきた家族内のDV、性虐待、セックスレス、トラウマなどをあからさまにして論ずる書である。特に母→息子、どころか母→娘への性虐待は読んでて恐ろしい。かなりヘコむ。そも、近親「相」姦という言葉自体に虚偽が既に存在するのだ。そこには双方の上下・権力関係を覆い隠す効力がある。 家族のシステムを支えるロマンティック・ラブ・イデオロギー、個人の問題だけではない不妊治療、虐待によるPTSD、WeToo運動など問題は多岐に渡る。...

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2019年7月24日 (水)

「誰もがそれを知っている」:ファミリー・アフェア 後から効く~

監督:アスガー・ファルハディ出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルススペイン・フランス・イタリア2018年 ファルハディ監督の新作はスペインを舞台にして、ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデム夫婦共演という大ネタを投入である(もっとも、役柄自体は夫婦ではなくて「元恋人」という設定)。 スペインの田舎町からアルゼンチンの資産家に嫁いだ女が、妹の結婚式のために子どもたちと共に帰郷する。しかし、十代の娘が誘拐され身代金の請求が……。スペインでは実際に悲惨な誘拐事件が起こっ...

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2019年7月20日 (土)

「大塚直哉レクチャー・コンサート 2 「フーガ」の苦しみと喜び」:鍵盤を押してもダメなら弾いてみな

オルガンとチェンバロで聴き比べるバッハの“平均律”会場:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール2019年7月7日 前回は自由席でほぼ満員だったため、長蛇の列が出来てしまったレクチャー・コンサート、第2回以降は座席指定になったことで、混乱もなく粛々と入場できた。 「平均律クラヴィーア曲集第1巻」をチェンバロとオルガンで聴き比べるこの試み、前回は大幅に時間オーバーした上に、予定まで終了できなかったので、今日は11~17番と控えめな(^O^;設定であった。チケットがお手頃価格のためかこ...

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2019年7月19日 (金)

「たちあがる女」:アイスランディック・ソウル 不屈の闘い

監督:ベネディクト・エルリングソン出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル アイスランド・フランス・ウクライナ2018年 「変な映画」は数あれど、それにプラスして面白いというのはあまりない。しかし、このれがまさにそうであった。こんな映画を生み出したアイスランド恐るべし。 表の顔は中年女性、アマチュア合唱団の指導者。しかしてその実体は--環境を守るため破壊工作に日夜はげむコードネーム「山女」であったのだ!疾きこと風の如し、矢を放っては送電線をぶっ壊し、大地や風の動きで追っ手を素早...

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2019年7月15日 (月)

「クリスチャン・ボルタンスキー lifetime」:墓無き者に

会場:国立新美術館2019年6月12日~9月2日 ボルタンスキー50年間にわたる活動の大回顧展来たる! 元々、単品では日本でも紹介されることの多かったアーティストだが、その性質上まとまっては見ることが出来なかった。過去に東京都庭園美術館で中規模の展覧会は行われている。(その感想はこちら)外は暑くてムシムシしている日だったが、中は冷房が効いていてかなり涼しい。上着持ってくればよかったというぐらい。最初に観覧者を迎えるのは初期作品の映像だが、まともに見て(聞いてると)ゲゲエとな...

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2019年7月12日 (金)

「G.Ph.テレマン ターフェルムジーク 食事を楽しむ音楽」:食べる前に吹け!

シリーズ「フルートの肖像」15 演奏:前田りり子ほか会場:近江楽堂2019年7月6日 前田りり子が主催するシリーズ、過去に皆勤とは言えないが半分は行ってるかな。一日二回公演でこの日は夜の方を聞いた。今回はタイトル通りにテレマンの「ターフェルムジーク」からフルートの入っている曲を演奏する。この曲集は有名だが、よくよく考えるとまとめて演奏会で聞くことは滅多にない。りり子氏解説によると元々「食卓の音楽」というのは、王侯貴族の来客をおもてなしするための音楽のジャンルであって、食堂の隣...

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2019年7月 7日 (日)

音楽三昧2019「ゴルトベルク変奏曲」:バッハ30変化

演奏:アンサンブル『音楽三昧』会場:近江楽堂2019年6月2日・5日 このグループは5人の器楽アンサンブル。過去にバッハの鍵盤曲を器楽用に編曲して演奏したCDを2枚出しているが、この度「ゴルトベルク」も出したので発売記念公演をやった。過去にはこちらを聞いたことがある。 私は2日の方に行った。折しも裏番組ならぬ裏公演としてお隣のオペラシティコンサートホールではBCJをやっていた。しかしほぼ満員だった。 構成は前半で短く「イタリア協奏曲」をやった後、休憩後に「ゴルトベルク」イッ...

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2019年7月 5日 (金)

音楽と身体その4「トッド・ラングレン THE INDIVIDUALIST TOUR」:失われた情熱を求めて

会場:すみだトリフォニーホール2019年5月22日 トッドのコンサートはかなり前に3回(多分)行ったことがある。ただし、そのうち1回は中止になってしまった。当日知らずに(まだネットがない時代)仕事早退きして渋谷まで行ったら「中止」の張り紙があったとゆう……(=_=)近年も彼は何回か来日しているが、今回のツアーは過去のヒット曲満載 らしいということで、久し振りに行ったのだった。 会場はクラシックやアコースティック系専用のホールだと思っていたのだが、最近はロ...

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