2025年7月17日 (木)

「セプテンバー5」:苦しみも悲しみも生中継

監督:ティム・フェールバウム出演:ピーター・サースガード米国・ドイツ2024年 1972年ミュンヘン五輪で起こったイスラエル選手団の人質事件。過去に何度も映画の題材になったが、本作はTV報道という面に限定して描いている。当時は衛星中継の黎明期で米国でもABC局だけが試合を生中継していた。そこで事件発生したことで、結果的に9億人の人々が事件を同時に目撃することになったのだった。 そもそもはテロリストが選手団の一人を殺害し11人を人質に立てこもってパレスチナ人囚人の釈放を要求す...

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2025年7月13日 (日)

「4声マドリガーレの変容」:時代の流れるままに

演奏:ラ・フォンテヴェルデ会場:ハクジュホール2025年6月14日 この日のコンサートもなぜかまたも雨であった。16世紀前半から約100年間に渡るマドリガーレの潮流を作品でたどるという内容で、初期のアルカデルト、デ・ローレ、ラッソ、マレンツィオ……と時代が進むうちに、歌詞・曲共に複雑に変化していく。そのことを実感できるプログラムだった。ネンナという作曲家はジェズアルドの下にいたそうだが、時代的にも押し詰まってかなり複雑化した作風となっていた。 しかしオペラの台頭でマドリガー...

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2025年7月12日 (土)

「魂に秩序を」

著者:マット・ラフ(浜野アキオ 訳)新潮文庫2024年 「新潮文庫史上最厚」と銘打たれた文庫本である。確かに厚い 主人公は多重人格者。自身の内部に「家」を築いてなんとか他の人格と共存していた。ところが職場に来たバイトの娘も多重人格なのが判明。その出会いが謎を引き出し、さらなる混乱を生む。 まず、人格が統制できずに次々と変わるのを自らの視点から見る描写に驚く。ほんの一瞬後のはずが、実際は何日も経っていて全く知らない場所にいるとか。パニックになっても仕方ない...

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2025年7月 7日 (月)

人間無用!海と島と動物アニメ・その3「パフィンの小さな島」

監督:ジェレミー・パーセル声の出演:新田恵海アイルランド・イギリス2023年 アイルランドのアニメスタジオ、カートゥーン・サルーンの新作はあまり宣伝もされぬまま公開。完全にお子様向けのせいか、上映館数が少なく字幕版もないので吹替版一択だった。 やはりこれもアニメで海 島 鳥 動物たちのパターン。元は配信シリーズものらしいが同時多発的になぜこんなにかぶってしまうのか、謎である。 主人公は環境破壊の影響で故郷を去らざる...

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2025年7月 1日 (火)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2025年7月編

個人の好みで東京周辺開催のものから適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。小さな会場は完売の可能性あり。ご注意ください。 *4日(金)渡邊順生チェンバロ音楽シリーズ3 バッハ パルティータ:今井館聖書講堂*5日(土)ドルツィアンとハープを迎えて(アンサンブル・ヴェルジェ):今井館聖書講堂*6日(日)大塚直哉レクチャー・コンサート バッハ家はフルートがお好き:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール*11日(金)バッハ・...

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2025年6月29日 (日)

人間無用!海と島と動物アニメ・その2「Flow」

監督:ギンツ・ジルバロディス ラトビア・フランス・ベルギー2024年 事前の予想を覆してアカデミー賞長編アニメーション賞を獲得したのはこれだ!なぜか突然人間がいなくなったらしい世界。果たして舞台が地球なのかも曖昧だが、動物たちが廃墟の点在する森で暮らすうち洪水が突然訪れる。逃げ惑う一匹の黒猫が絶体絶命の危機の中、帆掛け船の影を見つけるのだった。するとそこには先客がいて……。 船に乗り込んでくる動物たちの種類が意表をついて面白い。彼らは喋ったりせず、あくまで動物としての存在だ...

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2025年6月26日 (木)

人間無用!海と島と動物アニメ・その1「野生の島のロズ」(字幕版)

監督:クリス・サンダース声の出演:ルピタ・ニョンゴ米国2024年 なぜか共通項が多いアニメ作品が続けて公開された。流行なのでしょうか。第1弾はあまりの大好評なので見に行った大手ドリームワークス作品。 名も知らぬ~ 遠き島に流れ着くロボット一体あり。人間の与えるタスクを達成するのが役目のロズが、人間のいない島でようやく見つけた仕事は雁のヒナの「子育て」であった。まだ小さいうちはピーチクとまとわりついていたのに、思春期ともなるとふてくされて反抗的。やがて立派...

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2025年6月20日 (金)

「太陽王の残光 ヴェルサイユ宮殿で聴かれた音色」:雨の新大久保にも太陽王の威光は輝くか

演奏:宇治川朝政ほか会場:日本ホーリネス教団東京中央教会2025年5月31日 雨の中、チェンバロ&ハープ曽根田駿、ガンバ平尾雅子、笛(リコーダー&フルート)は中島恵美・宇治川朝政、という4人によるフランス宮廷ものコンサートへ。前半はクープラン、マレ、リュリによる組曲、後半はダンドリュー、シェロンほかのソナタ中心というプログラムだった。 シェロンという作曲家は初めて聞いた。ルクレールの後輩とのことである。リュリについてはルイ14世とのからみでオペラバレや文字通りダンスの観点か...

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2025年6月13日 (金)

「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」:無から金を生み出す

監督:フェリックス・チョン出演:トニー・レオン、アンディ・ラウ香港・中国2023年 久しぶりに見た香港映画。中心の二人を黄金コンビが演じる。イケイケ押しの一手のトニー・レオンに対してアンディ・ラウは地味に受けるというパターンである。 冒頭は70年代中頃、東南アジアで食い詰めて香港に流れてきた男が一人。やがて口八丁手八丁で成り上がり、イケイケのバブル期を背景に株と人と不動産を転がして巨額の利を得る。しかし、このハッタリを極める詐欺師を常に注視し、地道な捜査を十数年にもわたり根気...

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2025年6月 8日 (日)

「わたしの涙 愛を綴るイタリアの古歌」:嫉妬から諦念まで

演奏:クレール・ルフィリアートル、上村かおり、西山まりえ会場:今井館聖書講堂2025年5月10日 先日の王子ホール公演ではフランスものだった西山まりえとC・ルフィリアートルのコンサート、今回は上村かおりを迎えてイタリア作品プログラムである。上から見て長方形の会場、いつもなら短辺の方にステージを設定して椅子を並べるのだが、この日は横長に使っていたのが珍しかった。そのせいかなんとなくサロンっぽい雰囲気になっていた。 カッチーニ、フレスコバルディなど定番曲あれば初めて聞くものもあ...

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2025年6月 1日 (日)

聴かずに死ねるか! 古楽コンサート2025年6月編

個人の好みで東京周辺開催のものから適当に選んでリストアップしたものです(^^ゞ事前に必ず実施を確認してください。ライブ配信は入っていません。小さな会場は完売の可能性あり。ご注意ください。 *3日(火)古楽器で楽しむバロック音楽inアミーゴ14(新井道代ほか):入間市文化創造アトリエアミーゴホール*5日(木)ドイツ=ネーデルランドに響くガンバ・デュオの音色(田中孝子ほか):横浜市鶴見区民文化センターサルビアホール*7日(土)プティ・サロン2025(平井み帆ほか):チャボヒバホー...

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2025年5月31日 (土)

「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」:優秀過ぎる弟子

監督:アリ・アッバシ出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング米国2023年 米国では大統領選前に公開。日本では就任式直前の時期で見事に当選祝い公開となった。まだ20代の青二才トランプが悪名高き弁護士に気に入られて「弟子」入りし、金魚のフンの如く後ろにくっ付いて歩いてるうちに悪徳の全てを吸収し、いつの間にか制御不可能な怪物になるという半生を描いたものである。なお監督の過去作品は『聖地には蜘蛛が巣を張る』を見たことがあるが、全く違うタイプの作品だった。 冒頭では彼はベビ...

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2025年5月23日 (金)

「西山まりえの歴女学11 本当は怖いヴェルサイユ」:コワくても聞きたい時がある

フランス宮廷の秘話と音楽会場:王子ホール2025年4月23日 西山まりえ主宰のこのシリーズに行ったのは初めてである。ゲストはチェロ中木健二、ソプラノのクレール・ルフィリアートルだった。 西山氏はなぜかギリシャ時代の巫女みたいなファッションで登場。かなり芝居がかった感じで面白おかしくヴェルサイユ宮殿のエピソードを語り、合間にチェンバロを独奏するという形だった。そして途中でゲストが参加する。休憩なしで全10曲演奏で、お目当てのクレールはランベールを3曲、さらにアンコールも歌った...

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2025年5月17日 (土)

「神は銃弾」:弾丸の数より死人が多い

監督:ニック・カサヴェテス出演:ニコライ・コスター=ワルドー、マイカ・モンロー米国2023年 原作は過去に「このミス」海外編第1位(2002年だから結構昔)に輝いたミステリである。一巻本とはいえなかなかの厚さ、そのせいか映画も156分の長尺だ。未読で挑戦した。妻を殺され娘を誘拐された男の豪快な追跡アクションものかと思ったら、暴力に血みどろ残酷が念入りに描写されていて、さらに神について自問自答するなど、どうもこれはノワール系ではありませぬか(ちょっと苦手)。 暴力描写にやたらに...

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2025年5月13日 (火)

ミュージアム・コンサート 「西洋絵画、どこから見るか?」展記念コンサート

東京・春・音楽祭2025会場:国立西洋美術館講堂2025年4月3日・15日 その1 古橋潤一リコーダーの古橋潤一、ヴァイオリン丹沢広樹、オルガン能勢伊津子という顔ぶれでスペイン・バロックもの約1時間のコンサートである。最初に美術館側から10分ほど展覧会の紹介あり。米国のサンディエゴ美術館の所蔵品を中心に西美の関連絵画を組み合わせて展示したものらしい。1600年代初めのスペイン静物画があるとのこと。 取り上げられた初期バロックの作曲家はほぼ知らない人ばかり...

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«「市民捜査官ドッキ」:警察より頼りになる