レコードの溝の間に潜む何ものかについて
学生の頃は金が無かったので、秋葉原から御茶ノ水まで歩いて(秋葉原までは定期があった)中古レコード屋を漁りに行った。当時は輸入盤は高くて3000円ぐらいしてたので、安いレコードや日本で廃盤になってしまったものは中古で漁るのがもっぱらだったのである。(注-もちろんCD出現以前のヴィニール盤の頃の話)
そんな風にしてレーナード・スキナード Lynyrd Skynyrd のアルバムも中古で買った。その中古盤は既に散々聴かれたのかジャケットも盤面もヨレヨレしていたが、私はさらに何十回も聴きまくった。きっとレコードの溝がすり減って深くなった事だろう。(^o^;
後にCDが普及するようになってからは、また彼らのアルバムをCDで買い直した。ヴィニール盤で揃えて持っているにもかかわらずCDでまた揃え直したというのは、彼ら以外はランディ・ニューマンと、このブログ及びハンドル名の由来となっているスティーリー・ダンぐらいである。
しかし、それほどレーナード・スキナードのことを好きだったにもかかわらず、当時から長い事ウン十年にも渡って溶けない疑問があった。それは--
「どーして、ファーストからサード・アルバムは大好きなのにそれ以降の作品は今イチに思えるのであろうか?」
ということだった。
彼らは米国南部出身のいわゆるサザン・ロックに分類されるバンドだ。バンド名を冠したタイトルのファースト(1973年)を出して以来、一貫して豪快なギターを売り物にしたコシのあるハードなサウンドが特徴であった。それはどのアルバムでも変わりはない。しかし、どういう訳か「好きだーっ \(^o^)/」と言えるのは三枚目までで、四枚目以降は「ビミョ~」になってしまうのであった。どう聴き比べてみても、曲作りといい、サウンドといい、演奏といい、それほど変化はないと思えるにも関わらずだ。
データ的にはプロデューサーがそれまでのアル・クーパーからトム・ダウドに交替した、ということぐらいしかない。でも、実際の違いはド素人の私にはよく分からないのであった。
さて「ミュージック・マガジン」誌9月号を見ていたら、そのアル・クーパーのインタヴューが載っていた。長い事活動をしていなかったが、なんと日本の方が再評価されていて、
それがきっかけでまた現役復帰したのだという。
そのインタヴュー記事の最後の方にレーナード・スキナードの話が出てくる。それによると、二枚目のアルバム(記事では「最初のアルバム」となっているがアルの勘違いだろう)の名曲「スイート・ホーム・アラバマ」でアコースティック・ギターを入れるように進言したのは彼であり、またあの印象的な女声コーラスを後からダビングして聞かせて、使うようにバンドに納得させたということもやったとの事だった。
そもそも「スイート・ホーム・アラバマ」はニール・ヤングが南部男をけなした曲に対する「よそ者が何を言うかね」というアンサー・ソングだが、女声コーラスやアコースティック・ギターによって何となくノンビリした諧謔的な響きになっている。それをアル・クーパーが作り出していたものとは意外であった。
彼らが曲を聞かせてくれると、僕の頭の中には完成したレコードが聞こえる。それは神から授かった才能なんだ。
米国のロックバンドの多くはレコード・デビューの前にクラブなどの演奏で経験を積んでいて、既に自分たちのサウンドを確立しているはずである。特にライヴやってなんぼのハードロック系のバンドなんかは、ライヴの生きの良さをそのまま伝えるのが録音の主な目的だろう。(まあ、中にはレコードと違って現物聞いたらあまりにも下手くそなんで、あらビックリというパターンもあるが)
しかし、それでもなお実際のバンドの出す音とレコードの溝に刻まれる音の間にある何ものか--目には見えず耳にはしかと聞き取れないモヤモヤした何ものかが存在し、それを金魚すくいのようにサッとすくい上げて最良の形にするという作業を、優れたプロデューサーは成しうるものだったのだ。そして、そのサウンドのわずかに思える差がプロデューサーの個性の違いとなるのだろう--。
というわけで、ウン十年越しの疑問がこのインタヴュー記事でようやく解けてスッキリしたのである。
なお、レーナード・スキナードって何それ(?_?)という人はこちらのネットラジオ局でヘヴィ・ローテーションでかかっているので聴いてみるといいかも知れない。「JUKEBOX」のコーナーからは聴きたい曲をリクエストもできる。ただ「クラシックロック」と言っても全体的にかなりハードロック寄りのようなので苦手な方はご注意。
それにしても、「スイート・ホーム・アラバマ」の入っている「セカンド・ヘルピング」ってなにげに名曲ぞろいのアルバムであるなあ--と、今回久しぶり(ウン年ぶりぐらい)に聴いてみて改めて感じた(ジャケットのデザインは今イチ……今ゴ今ロクであるが)。
| 固定リンク | 0
コメント
さわやか革命さんの文章は、とても上手なので、いつも上質のエッセイを読み終わった気分になります。
プロデューサーという仕事は「何をする人なん?」という疑問が常につきまといますが、人によってはメンバー集めから販売戦略まで考えたり、アレンジャーであったり、客観的に判断する監督であったりと、ある意味なんでも屋的な場合も多いですが、アル・クーパー氏の場合は、たぶんアレンジャーとか監督とかいった感じだったのかも知れませんね~。
よく坂本龍一さんが「次のアルバムは、頭の中では完全に鳴ってるんだよ。あとは音にするだけ」というのと似ていると思いました。
>彼らが曲を聞かせてくれると、僕の頭の中には完成したレコードが聞こえる。それは神から授かった才能なんだ。
ここでいう「曲」というのは、たぶんプリプロと呼ばれる、アレンジ前の曲だと思います。それはギターで弾き語ったり、簡易的にアレンジしたものだったと思います。それを聴いて、アルバム全体のイメージを決めて、アレンジャーにイメージを伝えた、または自身でアレンジしたと予想します。
順番としては、アルバムが完成してからツアーに出ますので、ライブ演奏というのは、ある意味、アルバムの演奏の再現でもあると思います。
ハードロックやヘビメタのバンドは、ライブではかなりワイルドに演奏しますが、録音は緻密ですね。ギターが1本しかいないバンドでも左右からギターが何本も聴こえてきたりします。キーボードがいないバンドでも録音ではキーボードが大きく入ってたりします。
これをライブで再現する場合は、たぶん、ある程度の割り切りが必要なので、また違った音になると思われ、そうすると、ギター中心のバンドの場合は、ギターの音を”かなり”分厚くしないと、レコードのイメージに負けてしまうと思います。その結果が、「ライブのギターは、むっちゃ音が大きい」とか、「レコードよりも音がひずんでいた」となるんだと思います。
そこからすると、レコーディングはレコーディングなりの、ライブはライブなりの楽しみ方があるのかも知れませんね~。
投稿: もりぷとん(Moripton) | 2005年10月 1日 (土) 19時10分
もりぷとんさん、わざわざコメントありがとうございます。
大昔、ラッシュ(カナダ出身の頭文字Rの方)のコンサートに行ったら、たった3人でレコードのあの複雑なサウンドをほぼ完璧に再現してるんで驚いた事があります。ステージの床の下に4人目が隠れてるんじゃないかとか、一部録音を使ってんじゃないかと疑って、オペラグラスで必死に観察しましたが、どう見ても3人だけでした。
そういや、彼らは一貫してセルフ・プロデュースでしたな--なんて事も思い出しました。
投稿: さわやか革命 | 2005年10月 2日 (日) 10時10分
もりぷとんもかつてはトリオのバンドで、リードボーカル&ギターなんぞをやってましたが、これが大変なんですよ~(泣)。
ドラムとベース以外に音は鳴らないので、たいてはギターがキーボードのような音も出しながら、歌を歌うんです。リードギターでメロディーを弾きながら歌うのも、なかなか大変です。
あと1人ギターを増やせばいいようなものですが、探すと、なかなか納得のいくギターがいないんですね~。絶対に自分以上のセンスと腕は持っててほしいし、バンドのサウンドに馴染むギターであってほしい。バンドのレベルが上がるほど、メンバーの要求もキツいから、ハイレベルなものを何の準備もなく演奏できないといけない・・・こうなると「これだ!」と思うギターの人がどんどんいなくなります。で、結局、「じゃあオレが自分でギター弾いて歌うわ」となってしまうわけです。
バンドとしては、その後、天才キーボードと、そこそこのボーカルが見つかったので、5人編成になります。するとギターに専念できるので、かなり楽になりました。
なんせ、トリオだと、ベースもドラムも音を厚くしないといけませんし、なにより「休めない」ので、キツイです~。
ちょっと夢が無い話ですが、ギャラまで考えると、トリオで行かざるを得ない場合もありますよね~。
投稿: もりぷとん(Moripton) | 2005年10月15日 (土) 01時31分
もりぷとんさん、実際にバンドをやってないと分からない苦労ですねー。
|リードギターでメロディーを弾きながら歌うのも、なかなか大変です。
T・ラングレンがそれまで弾いてたギターを置いてヴォーカルだけやったら、それまでの何倍もさらに歌がうまくって「楽器やりながら歌うのって苦労なんだなー」と感心した事があります。
もっとも、ストーンズ命の友人が「ミックは歌を歌いながらじゃないとギター弾けないし、キースはギター弾きながらじゃ無いとヴォーカル出来ないんだよー」と言ってましたが--。ホントか。(笑)
|ギャラまで考えると、トリオで行かざるを得ない場合もありますよね~。
最近流行だという、大所帯バンドはそこらへんどうなっているのか問い詰めてみたい気がします。リーダーがほとんどかっさらっていくのか?
投稿: さわやか革命 | 2005年10月15日 (土) 09時57分