「奇談 キダン」:生暖かく見守るしかないホラー
監督:小松隆志
出演:藤澤恵麻、阿部寛
日本2005年
諸星大二郎の『妖怪ハンター』シリーズ中でも傑作である『生命の木』の映画化。中でも「おらといっしょに~」のセリフは一度聞いたら(見たら)忘れられない、名セリフ中の名セリフなんである。
これを映画にするという噂を聞いた時、「本気か?」と正直思った。なぜなら、極めてヤバいネタを使っているからだ。『X-ファイル』でもこのネタの回は地上波ではスッパリとカットされていた。
実際見てみると、そこら辺の話はうまく当たり障りなく描いてあったようだ。問題なのは、原作が短編なのでもう一つ『天神さま』の神隠しの話もまぜていることと、ストーリーと手法が全く合っていないこと、この二つである。
そもそも、『生命の木』のエピソードはシリーズの中でもホラー色が薄く、伝奇SF的な話になっている。なにせキリスト教の根本を揺るがすような存在が、なぜかっ!?東北の山奥に細々と存在しているという一種のトンデモ話であり、読者はその奇妙な論理を驚きかつ楽しむ(短編なんで訝しんでおかしく思うヒマはない)ものなのだ。
そのような論理性の勝った物語を、どういう訳か昨今流行のJホラーっぽい作りにしている。昔の記録映像の部分は『リング』の恐怖のビデオをかなりイタダいているようで、怖いと感じるより失笑してしまった。また、旅館で子どもを目撃する場面などの怖がらせ方もJホラー系だし、何より題名がそのまんまという感じである。
この手法を取るんだったら、同じシリーズのホラー色の強い別の作品を選ぶべきだったろう。そのため全体的にギクシャクしている感が強い。
そして、神隠しの話では子どもたちが消えていた場所が、「いんへるの」と同じ世界というのは論理的にも感覚的にも納得できない。地獄ですよ、地獄。永遠の劫火に焼かれてんのよ。なんで、戻りたがるヤツがいるのよ。物語の根本を揺るがしかねない設定の矛盾である。
だが、この二つの点よりもさらに大きな問題なのは、全体を覆うモッサリ感、そして訳分かんない場面の存在だ。なんつーか、本当にテンポがモサーッとしているので、間が持たずに見ているこっちは座席の上でモゾモゾ体を動かしてみたり、鼻を撫でてみたり、それでもまだダメな時はニヤニヤ笑ってみたり……するしかないのである( -o-) sigh...
そのくせ、説明的セリフを恐るべき早口で言わせたり(原作読んでないと、何言ってるのかわからないかも)するんで困っちゃう。
さらに、稗田とヒロインが並んでポリポリ夕飯食ってる場面(もしかしてギャグ?)とか、阿部寛のムキムキ筋肉にビックリしてしまう入浴シーン(これはファンサービスですかっ)、それに加えてヒロインが深刻な顔で稗田と同室にいて布団の上でガバッと羽織を脱ぐイヤラシイ場面--次に予想されるのは当然「先生、私の全てを捧げます」というセリフではにゃあか。となれば、続いて映画館中に原作ファンの「え゛ーっ、稗田センセは絶対に女学生に手を出したりしねえだよ」(何故かなまる)という阿鼻叫喚が響き渡るのは間違いなし!
--のはずだったんだけど、どういう訳か何事もなく過ぎていくのであった。じゃ、一体アレは何? 訳分かんネ。
さらに終盤、私に追い打ちをかけたのはヒロインの顔のドアップなのであった。恐らく、全上映時間の40%を占める(あくまでも主観的推測)ほどに頻出するこのドアップは、スクリーンいっぱいに広がりそれがどの場面でも常に同じ角度で同じような表情なのであった。もう終いには「見飽きた……なんか他のものが見たい」と思ってしまい、そしたら代わりに稗田のドアップが登場して「妖怪退散!」と言わんばかりの眼力でこちらを睨んだので、私は「すいません」と座席の上で縮こまったのであった。
さて、映画系の掲示板やブログで感想を検索してみると、驚いたことに原作ファンには好評なようである。稗田役の阿部寛は思ったより違和感ないし、他の役者もおおむね不満なし(ただしヒロインだけは勘弁)。
それに確かに映像は原作のイメージをうまく再現している……ただしそれは十秒単位に分割して見れば、である。個々のカットを切り取って眺めれば文句はない。だがそれ以上連続して見たら上記のような不平不満が噴出してしまうと思うのだが--。
なんというか……原作のファンというのは、ある程度原作のイメージがそのまま映像化されればそこで満足してしまい、それ以上は求めないものなのだろうか。「おおーっ脳内イメージがそのまま眼前に!」とか「きゃー、○○が生きて動いてる」さらには「××をこの目で見れて、もうこれ以上何もいりません」てな感じか。
そう考えると『ロード・オブ・ザ・リング』の時の違和感もこういうものだったのかと納得行く。
しかし、私は「ひねくれ者」である。そんなんだけじゃ絶対に満足しねーのよ(~ ^~) 映画としてまともなもんじゃなきゃイヤだっ!
それにしても『X-ファイル』や『CSI』は、普通に考えればどうしようもないトンデモ話をよくあれだけまともに仕立て上げて見せてしまうなあ、と変な所で感心してしまった。
主観点:4点
客観点:5点
【関連リンク】
おたくにチャイハナ『奇談』
「隠れキリシタン料理」にビックリです。
(追加)
院生生活
私も「あの子たち、いきなり現代に戻ってきてこれからどーするんだろうなー」と心配してしまいました。
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コメント
さわやか革命さん、どうも〜 TBありがとうございます。
「うん、うん」とうなずきながら、読ませていただきました。
しかし! 原作ファンにはおおむね好評なんですか〜?
……………(沈黙)
イマイチだらけのような気がするんですが。
沢田版稗田もイマイチだったけど、阿部版稗田もやっぱりイマイチ。
それに、それなりにレトロでいい雰囲気の実写舞台にくらべ、ヘンにクリアでチャチそうなあのCGは何とかならんか〜とか思ったのですが。
私もひねくれてしまったのでしょうか……
投稿: しの | 2005年12月12日 (月) 12時42分
しのさん、コメントどもども。
|私もひねくれてしまったのでしょうか……
そうですよー、ひねくれ菌はネットを介在して伝染するんですよ~。(^^)
まあ、公開館数自体が少ないので投票数も少ないですが、点数投稿式の某映画サイトでは「ハリポタ」よりも点数高いですね。あと、2chの「奇談」スレでもおおむね好評です。
もっとも、ネットに書き込む層が多数派とは必ずしも言えないですが。
もう、こうなったら次は「ど次元世界物語」を断固、実写で映画化して貰いたいです。絶対、実写じゃなきゃイヤだーっ。
投稿: さわやか革命 | 2005年12月14日 (水) 06時56分
さわやか革命さんこんにちは。TBありがとうございます。
いんへるのに戻りたい子供へのツッコミと、
ヒロインが稗田先生の横で羽織を脱ぐシーンへのコメント、
激しく同意しながら読ませていただきました。
いんへるのでの「遊び相手」って・・・
地獄におとされてなお遊ぼうとするなよ!もっと苦しめよ!
と、生命の木の実を食べ損なったあだんの子孫である私は嫉妬からかそう思ってしまいました。
投稿: メト | 2005年12月16日 (金) 12時15分
メトさん、お越し頂きコメントありがとうです。
|地獄におとされてなお遊ぼうとするなよ!
地獄での遊びとなると、「地獄の火遊び」とか「拷問ごっこ」あたりでしょうか。なんとなく楽しそうな気も--するわけなーいっ(>O<)
ツッコミどころには欠かない映画のようです。
投稿: さわやか革命 | 2005年12月17日 (土) 22時42分