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2005年12月 4日 (日)

「ヴェニスの商人」:映像は素晴らしいが、総合点でパッとせず

監督:マイケル・ラドフォード
出演:アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ
米国・イタリア・ルクセンブルグ・イギリス2004年

数あるシェイクスピア作品の中でも、有名なわりにはなんと初の映画化だそうな(サイレント時代にはあったらしいが)。
それも道理、原作ではユダヤ人は守銭奴・強欲・意地汚くって腹黒いという事になっている。こんなんでは現代の規範に照らし合わせるとおいそれと映画化できまい(まあ、『オセロー』もかなりヤバイものだが)。
もっとも、シェイクスピア自身はユダヤ人を見たこともなかったらしいし、この作品がそもそも喜劇である事を考えると、現在の娯楽映画の「マフィアの首領」「IT長者成金」とか「政府の工作員」並みの記号的意味合いの悪役でしかなかったと推測できる。要するに、当時の社会の偏見を型通りに反映したものなのだろう。

しかし、シャイロックを悪役でなく悲劇の主人公としてみなすという見方はかなり昔からあったらしい。原作の戯曲しか読んだことがなかった私がそのような視点があるというのを知ったのは、恥ずかしながら『ガラスの仮面』であった。(木亥火暴)

さて、この映画ではそんな歴史に配慮してか、最初からドーンと当時のユダヤ人差別のただし書きが出て来てしまう。で、観客は「ああ、これはかわいそうなユダヤ人をいぢめる話なのね」という回路が脳内に予め出来てしまうわけだ。

さらに、シャイロックから友人のために金を借りてやるアントーニオは貿易に出した船が難破してしまう。この世知辛い日本の世の中、頭に浮かんでくるのは「ああ、人生どんな不幸が起るか分からん。今住んでるマンションは大丈夫か。ペイオフ実施でどうなる。郵便貯金はなんとしよ」なんて事ばかりだ。

その友人バッサーニオはそもそも恋する娘に求婚するための支度金が必要だったのだが、この件を見ても「ああ、恋の沙汰も金次第か。世知辛いのう」とますます落ち込んでゆくのであった。

という訳で、借金とその取り立て騒動と並行してもう一つの柱である、求婚と「箱選び」のエピソードの方は本来ロマンチックなおとぎ話的恋愛話のはずなのにさっぱり盛り上がらないのである。やっぱり世情のせいかねえ。
おまけにテンポがノホホ~ンとした感じなので見ててイライラしてきて、バッサーニオに対して「あんた恩人が窮地に陥ってんのに浮かれてる場合かい」などと説教したくなってしまう。

ポーシャ役のリン・コリンズはネット上の意見を見ると「美人」「ブス」の評価が真っ二つに分かれていて、こうも各人の美意識というのは違うものかと笑っちゃったが、私にはとてもキレイに見えた。ただ、役柄としては「お金持ちのお姫様」然としていてあんまり面白くない。男装した時はよかったんで、こりゃ演出のせいかね。

アル・パチーノは「シャイロックを演じたくって待ってました!」的オーラを発しまくり、ド迫力の演技を見せてくれる。偏屈な頑固オヤジが最後にその頑固さゆえにしっぺ返しを受けてしまうわけだが、その頑固ぶりも見事ながら、改宗を命じられた時の嘆きなど、もう感極まって思わずこっちまでもらい泣きしてしまうほどだ。

それから、アントーニオ役のジェレミー・アイアンズはまさに退廃的美中年の鑑!とでもいいたくなるぐらいに風情あり。日本のオヤヂも「レオン」なんか読んでないで彼を見習うべしと言いたくなるが、いずれにしろ素が良くなければ何を手本にしてもムダだからねえ……。

全体的に映像は申しぶんなく美しい。現地ロケしたというだけはあって、背景や小道具や照明(一部フェルメールを意識してる?)など見事だ。で、俳優も文句なしとなれば、問題はバストショットばかり撮ってそれらを全く生かしていない、ノホホンとした演出や編集にあるとしか言えないだろう。
ついでに、当時の英国やイタリアには素晴らしい歌曲がゴマンとあるのに、使われてないのにこれまた不満である。美術面の復元に気を使うのなら音楽の方も頼むよー、監督!


主観点:6点
客観点:7点


【関連リンク】
ようこそ劇場へ!
勉強になります。

凛大姐&小姐的極楽日記!
すごく笑える(映画に関係ない部分に)。ただ、この冒頭の写真は……どう見てもイヤラシーく見えてしまうのは私だけか? こ、これではフ女子が狂喜しそう(@_@) そうゆう話だったんかい!

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コメント

TB&リンク、多謝でございます。
画像ねえ・・・映画観てない人には「ナンダこりゃ?!」
と思われるかなあ?と思ったんですけど、あちこち
画像収集しても、アル・パチーノとジェレミー・アイアンズ
の2ショットはこの画像しかなかったんですよぉ~(汗)
シャイロックを悲劇に仕立ててのは、18世紀の演出家が
初めてだそうです。
お金を持ってることに対する嫉妬心に、差別階級人に対する
鬱憤晴らしみたいなのが、ユダヤ人に全面的に向けられていた
んでしょうね。
日本でもどこでも、そういう弱者階級にたいするヘンな優越感
とかあるわけですが、すごく人間のイヤな部分ですね。

投稿: RIN | 2005年12月 5日 (月) 10時53分

おお、わざわざお越し頂きありがとうです。
例の写真は照明や構図は暗めのカラヴァッジオみたいで、なかなかに見事なもんだとは思いますが、私のように一旦邪念を持った目で見はじめると「おい、バッサーニオ、なにげに後ろから押さえつけてないか?」などと疑惑がわいてくるのであります。(大汗)
いや、これは私が悪いんでありますよ。

|18世紀の演出家が初めてだそうです。

20世紀に入ってからかと思ったら、意外に早い頃からなんで驚きました。

投稿: さわやか革命 | 2005年12月 5日 (月) 22時44分

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受信: 2005年12月 5日 (月) 10時46分

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受信: 2005年12月24日 (土) 00時50分

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受信: 2005年12月29日 (木) 00時15分

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