「タイドランド」(ミッチ・カリン):キョーレツ過ぎるお子様の妄想世界
金原瑞人 訳
角川書店2004年
以前、テリー・ギリアムの次作の原作としてこの記事で紹介した本。
あらすじのあまりのヘンさに思わず読んで見たくなってしまった。実際読んでみると……変というより強烈という感じでいささか辟易するほど。
母親の死ををきっかけに、元ギタリストの父親と共に主人公の少女はド田舎の祖母の持ち家へ逃げてくる。今では無人のその家に着いて間もなく父親は動かなくなってしまう……。
これを発端に、父と母とのみじめな生活の回想、荒涼とした家の様子、ご近所の怪しげな姉弟、などがごっちゃになって少女の一人称で語られる。
しかも、彼女は雑貨屋で買って貰った人形の頭に絶えず語りかけ、どこかにいる幽霊や怪物の恐怖におびえ、果てしない妄想に浸っている。果たして、父親の死をちゃんと認識しているのかもよく分からない。金もなく、食い物もない、これまでまともな暮しを送って来なかった子どもゆえ生活能力もない。
これらがグ~ルグルと繰り返し執拗な少女の独白で繰り返し語られるのだ。読んでいて思わずウツになってしまった。もう少し幻想的な感じなのかと予想していたが、そうではなく、あくまでも基調はリアリズムなのであった。(こういうのも「呪術的リアリズム」になるんでしょうか?)
どの描写を取ってみても、おそるべき異化作用がある。普通のものを普通に描くのを徹底的に拒否しているようだ。読んでいて「まだ続くのー」という気分になってしまう。
もっとも映画の『ポビーどディンガン』のような生ぬるい妄想話を見せられた後では、こちらの方が「そうだよなっ!お子様の妄想ったらこうゆうもんだよな」と納得できる。
しかし、これをギリアム監督はどういう風に映像化したんだろうか。フツーに考えたらとてもよい子には見せられません!(キッパリ)悪夢にうなされることは必至であろう。
悪い大人にのみ推奨。
ところで、訳者のあとがきはほとんどの部分を筋書き紹介に費やしており、ホントにやる気があるんか?との疑念を生じさせた。こんなのじゃ、ない方がマシかと思うが。
父親のギタリストは、つい最近死亡記事が出ていたリンク・レイという人がモデルだろうか? デンマーク在住で、P・タウンゼントなどに支持されてた--っていうし、年齢的にも近いんではないか。
【関連リンク】
Link Wray
【訃報】リンク・レイ 享年76歳
このブログでローラ・ブラニガンが亡くなっていたことを初めて知った。懐かしい名前です……。
こちらでも感想が読めます。
おたくにチャイハナ「小説『タイドランド』」
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コメント
リンク&TBありがとうございます。こっちからもTBしてみました。
私は、悪い大人です〜 こういう毒のあるものが好き。でも、映画が公開されたら、「原作読んでみよう」と免疫のない人が読もうとするんだろうか。どっちがキョーレツなのかわからないけど。ちょっと心配。
それほど私はウツウツしなかったのは、ラストによるのだろうか。結局彼女が妄想の中でのたれ死にしたらフツウの話だけど、妄想を抱いたまま脱線した列車に乗っていた何もわからないかわいそうな子どもとして生き残るんですよね!? 私はそう解釈したんだけど……、ちょっと読み方が不安。どう?
投稿: しの | 2006年1月23日 (月) 20時03分
わざわざコメントどうもです。
|妄想を抱いたまま脱線した列車に乗っていた何もわからないかわいそうな子どもとして生き残るんですよね!?
ラストはその解釈でいいんじゃないかと思いますが。父ちゃんの死体はあのままかいっ、なんて考えたりするとまた不気味度アップですね。(^^)
あの死体を××するところも、映画でどうすんのかなーなんて想像してしまいます。
投稿: さわやか革命 | 2006年1月25日 (水) 01時07分