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2006年2月 6日 (月)

「タブロイド」:早くも後味悪さでは今年度ナンバー1候補

監督:セバスチャン・コルデロ
出演:ジョン・レグイザモ
メキシコ・エクアドル2004年

マイアミを本拠地に南米向けの番組を送る放送局(南米版アルジャジーラみたいな感じか?)のTVクルー3人組が、エクアドルで起こった子供の連続殺人事件を取材中に、関連して偶発した死傷事故と暴動に遭遇。
「次のネタはこれだーっ」と収監されている事故を起した男に面会すると、彼はなんと連続殺人の犯人を知っていると言い情報提供を申し出る……。

気をつけておきたいのは、これは別にサイコキラーは誰かというサスペンスではないし、エクアドルという国の悲惨な状況を訴えている話でもないということである。
事件の犯人は明示されているし、このような事態は形を変えてどこの国でもありうることだ。
だから『羊たちの沈黙』みたいのを期待していくと、「犯人分かっちゃって詰まんネ」ということになる。

ここに描かれているのはメディアの力の恐ろしさであり、一旦それが転がり始めたらもはや誰にも止められなくなってしまう(発信した当人であっても)状況である。
3人は真の意図を隠して取材を始める。表の番組を作る一方で並行して、裏の番組を作ろうするのだ。
しかし、結果として出来上がった(表の)ドキュメンタリー番組は素晴らしいものであった。事件の関係者を含む視聴者の多くを感動させたのである。
そして、この番組が人々を感動させてしまったことが、アレヨアレヨと言う間に恐ろしい結末を引き起こす。偶然も重なったとはいえ、これは作った当人たちも予期しないことだった。一体どうすれば良かったのだろう? いずれにしろ、放送されてしまえばもはやその影響は止めようがないのだ。
この終盤の展開は、観客にとって予想もつかない驚くべきものだろう。少なくとも私には全く「想定外」のビックリ(>O<;)な結末だった。

映画の結末の後に起こる事態を想像すると、あまりの恐ろしさに慄然とする。もはや主人公たちは二度とエクアドルの地を踏む事はできまい。そして、彼らは今後も「正義」の仮面をつけて平然と番組を作り続ける事ができるのだろうか?
観客が見終った時の後味の悪さはただものではない。で--こんな後味の悪い作品をよくも作ったもんだー \(^o^)/とホメちゃうぞ、私は。予定調和を拒否した展開は却って潔いくらいだ。

脚本は極めてよくできている。冒頭のリンチ事件に示される、民衆の「熱しやすさ」が逆に終盤の状況を招いている伏線や、主人公たちが次の取材が入っているために時間がなくてドタバタ暴走してしまう過程、などちゃんと納得できる。
ただ、なぜか後半モッタリ感が生じてしまう所や、監獄の中での男と主人公の対話が今イチ迫力なかったりして、演出の手腕はもう一つな感じ。
元々、監督がサンダンス映画祭で脚本賞を取ったことで作られた作品らしいが、演出は他の人にまかせた方が良かったんではないかと思ってしまった。

その他、プロデューサーをはじめスタッフには南米系の有名どころが総結集らしい。役者たちもみんな文句な~し。

最後にNHKのロゴが出て来て「なんで?」と思ったが、サンダンス映画祭に出資してんのね。


主観点:8点
客観点:8点(社会派ファンに推奨)

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受信: 2006年2月 6日 (月) 07時54分

» タブロイド [映画で綴る鑑賞ノート]
まあ、なんとも、後味の悪いこと、この上ない映画でした。 紹介文に、「羊たちの沈黙」の名が挙げられていたのも、頷けます。 しかし、レクター博士は世に出はしましたが、 少なくとも、バッファロー・ビルは、いなくなりましたよね。 この、“モンスター”は野放しですよ! また殺されますよ、子供たちが! ドキュメンタリーが、必ずしも真実を映すとは限らないことは、百も承知です。 そ�... [続きを読む]

受信: 2006年2月 7日 (火) 16時16分

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