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2006年3月12日 (日)

「イノセント・ボイス 12歳の戦場」:暴力の縁を歩む子どもたち

泣けました。
いや……正直に言おう。号泣ですよ、号泣(ToT)ドーッ
映画を観てこのように号泣したのは久し振りだ。
子どもが出てくる泣ける映画など、もう見ないと心に誓ったというに……。

冒頭、雨の中を小さな子どもたちが軍人に引き立てられて歩いている。時は1980年、内戦下のエルサルバドルでのことである。
激しい内戦が続く当時は少年は12歳で徴兵される。主人公のチャバは迫ってくる誕生日が心配だ。街を闊歩する政府軍の兵士や、連れていかれる友人を見ているとなおさら。
でも一方で、同じクラスのカワイイあの子が気になるよーん(^O^) 夜間外出禁止令なんて気にしないで遊んじゃうのさっ--なんてどこにでもあるフツーのお子様の基本生活は健在。

そういう他愛のない小学生の日常や初恋物語と、街中で繰り広げられる激しい内戦状態が全く併存しているのに驚かされる。いやもう、たまに爆発テロが起るとかいう類いの段階ではなくて、本当に住宅地や町の広場で突然にゲリラとの銃撃戦が始まっちゃうのだからすごい。
これまで、オリバー・ストーンの『サルバドル』とか長倉洋海の写真集で内戦について紹介されてたのを見たことがあるが、それはやはり外部からの視線であった。このように内部の日常のレベルから見ると恐ろし過ぎである。

で、手近の本を漁ってみると--『燃える中南米』(伊藤千尋、岩波新書)が出て来た。1988年の本だが、出版されてから二、三年後に読んだような記憶がある。エルサルバドルの章を見ると、このような記述があった。
 

しかし、街なかを通る軍用トラックの荷台に乗った兵士の銃口は、市民に向けられている。ゲリラの不意打ちに備えてのことだ。戦争と平和の混在する奇妙な世界がここにある。

なるほど、文章で読んでいてはピンと来なかった「奇妙な世界」の実相がようやく納得できた。映像の力とはスゴイもんであると改めて実感。

こう書いてくると、子どもと戦争という点で『亀も空を飛ぶ』とかなり似ているように思えるが、あちらでは周囲にロクな大人がいないのに対し、こちらではちゃんとマトモな大人が揃っている。父親こそ家を出て行ったが、美人だけどコワイかーちゃんにしっかり者で優しいばーちゃん、それからギターを担いだ渡り鳥風の叔父さん、信頼厚い神父などなど。
だが、主人公の愛する大人も子どももみんな殺されたり姿を消していく。家も捨てて引っ越さなければならない。12歳の誕生日が迫ってくる。政府軍に入るのがイヤならゲリラに参加するしか他に道はない。このどちらかしか選択肢はないのだ。
小学生の子どもに対してこれはあまりにハードな事である。いずれを選ぼうと、方向が違うだけで暴力の世界へと転げ落ちていくのに変わりはない。

冒頭の雨の場面にまた戻ってからは、打って変わって激しい展開となる。その瞬間を迎えた子どもたちの表情の変化は、まさに見るに耐えがたいものがある。こんな演技を子役にさせるなんて、監督あんまりだー(>O<)と言いたくなるほどだ。
さらに主人公の運命の変転もすさまじいものがある。私はこの一連のシークエンスに、久しく感じたことないほどの大きな情動に突き動かされるのを感じた。だから号泣してしまったのである。

この映画は脚本を書いたオスカー・トレスの体験を元にしているというが、実話的というよりはむしろしっかりとした物語性の強固さを感じさせた。(ついでに映像も非の打ちどころなし)
そして同じく戦争体験を元にしている『ジャーヘッド』と同様に、ただ一度だけ主人公が人を撃とうとする場面が出てくる。観客が「そうだー、やっちまえー」と同一化してしまうのも同じである。だが、その後の選択の意味のなんと違うことよ。

それを思えば、結末での彼の行く末は皮肉である。まさしく吉田ルイ子の(だっけ?)名言--「中南米の悲劇は米国に最も近く、神に最も遠いことである」を体現したものとしか言いようがない。

ところで、エルサルバドルについて日本との関りはどうだったのだろうか。まったく無縁だったのか、ハテ(?_?)
--と疑問に感じたところで、ふと思いついて荒木先生の映画批評を覗いてみた。そしたら、ちゃんとありましたよ。(一番キモの部分がネタバレしているので、未見の人は読まない方がよろし)
 

日本企業は軍事独裁と結んで、1960年代以降輸出作物である綿花を栽培し、現地に織布繊維工場を設置し、農村部の貧困な余剰労働力を酷使して、最大限利潤をあげてきました。太平洋岸にあるアタミという保養地と国際空港建設は日本資本のためになされたのです。従業員数最大を誇る2つの会社はすべて日系企業なのです。軍事独裁政権は日本企業から莫大な賄賂を獲得し、現地労働者の抵抗から日本企業を守ってきました。日本は内戦の主要な要因をつくり、政府軍を援助した犯罪的加担者なのです。

な、なるほど(=_=;)内戦の陰に日本あり、ですか。金が何より全て、というのは別にホリエモンの専売特許じゃなくて、日本の「伝統」だったと \(^o^)/


主観点:8点(あんまり泣かされたんで、八つ当たりで1点減)
客観点:9点

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