ラ・プティット・バンド:老いてますます盛んとはこのことよ
内容:J.S.バッハ・プログラム
会場:東京オペラシティコンサートホール
2006年5月19日
昨年の同時期はクイケン・アンサンブルとして来日していたクイケン三兄弟の内、ヴァイオリンのシギスヴァルトとフラウト・トラヴェルソのバルトルドがもう少し編成が大きいラ・プティット・バンドとして来日。なんと8日間に6回公演、しかも北は北海道から南は九州まで--大丈夫か(?_?; 御老体。
モーツァルト・イヤーでも、演目はやはりバッハであるのがチョット嬉しい。
このグループは古楽系でも老舗の部類に入るが、私はコンサートは多分初めて。(三兄弟は毎年のように見ているからゴッチャになってしまう) 過去には、日本の古楽界をしょって立つ演奏家たちが参加してたのでも有名だ。今回も日本人が一人メンバーに入っていた。
そのような由緒あるグループの公演のせいか、観客はかなーり年齢層が高い。BCJや去年のクイケン兄弟よりもずっとずっとジーサンオバハンが多数な感じ。
最初の「2つのヴァイオリンのための協奏曲」からチェロが出なくて、いきなりあの首掛け式ヴィオロンチェロ・ダ・スパラが登場。弾き手はBCJの時と同じく、クルリン巻き毛長髪のヴァディアロフ氏である。
ソロはシギスと娘のサラ・クイケン(結構美人)だったが、今日はサラに比べて(或いは過去の公演に比べて)ジギスのヴァイオリンのギコギコ感が甚だしい。思わず冷汗である。きっと2ちゃんねるあたりにまた「下手くそ」とか「老人は引退してよしっ」などと書かれるんだろうなあ、などと思ってしまった。
次の「ブランデンブルク協奏曲 第5番」では娘にソロを譲ってシギスがスパラを担当。もう一人、日本人のチェロが登場--と思ってたら、チェロぐらいの大きさだがもっと低い音域を担当する違う楽器であったらしい。(見てただけでは分からなかった)ここでバルトルドも参加。
当日は変な天気だったせいか(雨模様で午前は涼しく午後はムシムシ)、サラが調弦にかなり時間をかけていた。
休憩を挟んで「音楽の捧げもの」から「6声のリチェルカーレ」を弦楽器だけで演奏した。この曲は指定楽器がないので何で演奏してもいいわけだが、普通はチェンバロ一台か弦楽器+チェンバロだろうか。
何年も前にさいたま劇場でBCJとクイケン兄弟が組んだ公演でも、同じ編成でやっていた。その時は6人が一列に並んでいたのだけど、今回は円を成して並んでいる。(従って、二人は客席に背を向けて演奏)
過去のBCJとの時も感動したが、今回も良かった! 円の左側に高音域と低音域の奏者がいて、右側に中音域が配置され、対比が鮮やかに示されていた。
しかし、それよりも良かったのはラストの「ブランデンブルク4番」。私でさえもCDを4種類ぐらい、さらにFMで放送したテープを入れると6種類も持っているほどにスタンダードな(別な言葉で言えば、聞き過ぎた)「ブランデンブルク」であるが、なんと言うか今まで聴いたことのない新鮮さとバロック演奏の真髄というようなものを感じさせてくれた。音が立体的に立ち上がって来て、二本のリコーダー(うち一本はバルトルドが担当)とシギスのヴァイオリンと絡み合う感じ……うーむ、うまく言葉では表わせない。
ほとんど古楽演奏のパイオニアと言ってもよいほどのこれほどのベテランなのに、未だにこんな新鮮な演奏を聴かせてくれるとは--信じられねえっ!
前回も感じたことだが本当にシギスヴァルトの演奏ほど、滑らかで均質で安定した美、といったものに縁遠いものはない。「ブランデンブルク」4番の第3楽章のソロなんて、もうほとんどノイズに近く思えるほどのブチ壊れぶりだ。だからこそ彼は真にバロック的であると言えるかも知れない。
会場は--やはりオペラシティではデカ過ぎ。紀尾井ホールぐらいがいいなあ(とワガママを言ってみる)。
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