「ガーダ パレスチナの詩」:あえて「正史」ではなく
監督:古居みずえ
日本2005年
OLからジャーナリストへ転身した女性の監督第一作目のドキュメンタリー。最近「徹子の部屋」にも出たらしい。ここでは、通訳として知り合った若いパレスチナ女性の十数年間を取材している。
冒頭は1994年、ガザの難民キャンプの中でもユダヤ人入植地に近い地区に住む、23歳のガーダとその家族の生活が紹介される。彼女は大学こそ行き損ねたが、高い教育を受け英語の通訳をする、ある意味「近代化」された女性であり、自分の結婚式ではうっとーしい古くからの儀式は拒否する。そこでの忌憚ない家族との話し合い(ぶつかり合い)の場面も出てくる。
でも、嫌がっていたパーティで着たドレスを自分の祖母に見せる時は、「私きれい?」なんて踊ったりして結構嬉しそうなのは笑っちゃう。(^^)
二年後、彼女は女の子を出産。病院で陣痛に苦しむ場面やホントに生まれたばかりの赤ん坊も画面に登場。イスラムの風習を考えると、こんな場面は女性監督にしか撮れないだろう。(過去にここまで取材した者はいないらしい)
このあたりまでは和平協定が続いていて平穏だった。
2000年、和平は破れ、第二次インティファーダが始まる。ガーダの親戚の子どもの死をきっかけに、彼女は親族や知り合いの高齢の女性たちから過去の聞き書きを始める。ここから、カメラはガーダ本人を撮るというより、彼女と同行して老人達を一緒に取材するという形になる。
その一方で、ガーダの実家の地区を激しい銃撃が襲う。本当に普通の住居にバリバリ降ってくるのだ。スクリーンのこちら側にいてもギャッと叫んで首をすくめたくなる。それでも住民はヤギに餌をやりに行ったり、危険な通りを渡って自分の家に戻ったり、夕飯を作らなければならない。
ここに至って、客席は絶えず鼻をすすり上げる音が聞こえてくるようになる。ええ、私も涙を流しましたとも。(~ ^~) 文句あっか。
特に印象的なのは、イスラエル兵にブルドーザーで家を壊されてしまったのに、鍵を捨てられないで大切に持っている百歳というばーちゃん。「これは羊小屋の鍵、これは家の鍵」と見せてくれるが、彼女の家はもう跡形もなくぺちゃんこになっているのだ。
夫婦間では妻の方が家に対する執着が強いという話を聞いた事がある。なんでも、実際に家具や調理器具などを揃えて家作りをするのが妻の方だからだという。(離婚の際にはそこに夫婦の差が出るとか) なんとなくそれを思い出した。何十年にも渡り作り上げてきた家を失うのは耐えがたいことだろう。
さらに、彼女は地面になぎ倒されたオレンジの樹(かなりの巨木)に収穫されないまま枝にたくさん残っている実を、ガーダたちのためにもいでくれるのである。そんなにたくさん食べられないと言っても、「いいから持っておいき」となおもエプロンに一杯オレンジを取ってくれるのだ。
ばーちゃん、あんまりだー(TOT)ドーッ
もう号泣ですよ、号泣。
実際に見てみるまで、私は一旦は「近代西欧化」された若い女性が、戦乱状態の中で自らの民族性に目覚め過去へと回帰していく話かと思っていたのだが、それとは違っていた。
正史(そのほとんどは男が語るものである)ではなく、その陰に存在する女性たちの無数の「裏史」を掘り起こし記録・保存しようとする、極めて「非正統的」「非伝統的」な試みなのである。
例えば、年老いた農民の夫婦が登場し、ダンナの方は実はかなりの教養があって自分で詩を作ったりまでするのだが、彼の悲嘆に満ちた詩や歌はまさに正史というべきものだろう。その悲痛な歌は実際非常に心を打つが、一方で冒頭に出てくるガーダの母方の祖母が歌う歌に、正直なところより惹かれてしまう。なにせ、もうそこら中シワシワのばーちゃんが結婚式を前に不安を感じて揺れ動く乙女心を歌うのだ。「私は細いウエストで、甘く美しい」--なんて。どう見ても、ウエストは太く、オトメのオの字もないばーちゃんが、である。
なんだか感動ですよ(T^T)クーッ また泣いちゃう。
そして、最後に「これが私の闘いである」というガーダの決意には心を打たれた。他の何ものでもない、暴力でも諦めでもない、力強いその選択に……。
もちろん、彼女と十数年間を併走してきた監督にも。
でも、お願いだから「やっぱり女は強い」などとという陳腐なほめ言葉だけは使わないでくれい。一種の思考停止フレーズだよね。
ついでに、ネット上の感想に「パレスチナ人の言い分ばかり取り上げて、イスラエルにも取材してないのはおかしい」の類いを幾つか見つけて驚いた。まるで、八百屋に行って「果物を売ってないのはおかしい」と言うようなもんである。最近、こういう「理不尽な公正さを求める」意見が多いように思えるのは気のせいかね。
どーでもいいことだが、出てくる料理がおいしそうだった。どんな味だか分からんけど見てるとヨダレが出てきちゃうよ。(^Q^)
アップリンクって初めて行ったのだが、段差が無い代わりに色んな種類の椅子が置いてあって、何気に見づらいような気が……(-_-;) 特に上映中もギコギコ音がする椅子は何とかしてくれ。
それから、『ミュンヘン』の感想の関連リンク先で紹介してた映画『パラダイス・ナウ』の予告をやってた。おお、遂に公開ですか(!o!) 是非とも『ミュンヘン』と見比べたいもんである。
主観点:8点(あまり点数は意味がない)
客観点:8点( 同上 )
【関連リンク】
公式HP
私のブラウザではちょっとブチ壊れて見えます。
内容紹介
《『ガーダ パレスチナの詩』 勝手に書く紹介文》ネタバレなし
《『ガーダ パレスチナの詩』 2つの世界を飛び越えて》ネタバレあり
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