「蟻の兵隊」:未だ戦中である
監督:池谷薫
出演:奥村和一
日本2005年
80歳の元日本兵を追ったドキュメンタリー。地道な運動で上映に至ったという。
司令官に詐欺同然に騙され、敗戦後も中国で戦わされ、戦死者五百人以上も出した上で捕虜になってようやく日本に帰ってきたら、国から足蹴にされる扱いを受けた人々がいる。主人公の奥村氏はその一人である。
国を相手に裁判を起こすも敗訴。それも当然だろう。降伏したのに正式な命令系統によって戦闘を続けたなんてあってはならないことだ。だから彼らの訴えは絶対認められることはないのである。
カメラは奥村氏に密着取材。靖国、裁判所、さらには自分がかつていた中国の地へと赴き様々な人と会う(そこで彼は意外な一面を見せる)。それは自らの過去を探る旅でもある。
過去に似た題材のドキュメンタリーに「ゆきゆきて、神軍」があり、かなり意識して作っているようだが、奥村氏はあれほどエキセントリックなキャラクターではない。
テーマも題材も文句はないし、1時間40分飽きるような事はない--が、大絶賛とまでは行かないのは専らドキュメンタリーとしてのスタイルに問題があるように思えた。
奥村氏の人物像に焦点を当てるのか、事件そのものの異常性を追うのか。どっちつかずでどちらにも成功してないように思えた。
さらに監督がTV出身のせいだろうか、やたらと顔のドアップが多くて参った。人物の顔をドアップにした上、その人が顔を動かすとカメラも一緒に動くのである。TVモニターならまだしも、映画館の大きなスクリーンでこれをやられると大変だ。私はうっかり前の方の席に座ってしまったため、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』ほどではないが、目が回ってしまった。(@_@)
なんでこんな撮り方をするのか分からない。顔をドアップにすれば真実もまた見えてくるとでも言うのだろうか。
それから冒頭の女子高生たちが登場する場面はほめている人が多いが、私は不愉快に感じた。何か事があると、すぐ渋谷の女子高生と新橋のサラリーマン(しかも酔っ払っている)にインタビューしてみるTVワイドショーみたいだ。どうせなら、新橋の酔っ払いオヤヂたちにも同じように取材したらよかったのにさっ。
いずれにしろ、奥村氏が指摘するように、個々の兵士とは関係なく軍隊とは暴力的な本質を持つということ。そして、国家というものは一定の枠からはみ出た者に対してはとことん冷たく切り捨てるものである。そのことはよーく分かるように描かれていた。
さて、私の父親は彼より少し年上で徴兵されて満州に数年間いたのだが、その間何があったのかということはやはり一言も話さなかった。しかも戦友会には嬉しそうによく行っていたのだ。一体かの地で何をやってたのか、非常に怪しく思う。こういう話はゴマンとあるに違いない。隠されたままもはや永遠に出て来ないだろうが。
靖国の場面で、昔リアルタイムで兵士だった人ならまだしも、今どきの若いモンが旧日本軍の兵隊のコスプレして行進しているのはどうかと思った。死者への冒涜にならんのかい?
主観点:6点(ちとキビシ過ぎか)
客観点:8点
【追記】
ミクシィの方に、この作品の上映運動をやっている人が、映画の中のささいなことにケチをつけるてる感想は全く本質的なことを見てない、本質的な事はこの映画が多くの人による支持によって上映運動が行なわれ公開されたことである--ということを日記に書いていた。
その、ささいなことにケチを付けているヤツの中に明らかに私も入っていたので、ついコメントを付けて質問してしまった。
確かに実際に苦労して上映運動している人たちにとって、年に何十本か見る映画の中の一つとして消費された揚げ句「音楽が良くない」などと一言で片付けられたらたまらんだろう。そんな作品の感想はあくまで作品論であって、ものの本質を見ていない、と言われても仕方ない。
しかし、下手するとその背後に「この映画は上映運動してきた私たちのもの、奥村氏は私たちのもの、外部の者がケチ付けるな」という排他的なものや「メッセージやテーマが大切なんで映画の出来なんかどうでもいい」という考えが存在するのではないか。さらには「ドシロートと部外者はすっこんでろい」と言っているようにも聞こえる。まあ、確かに政治的な面で色々攻撃や圧力がありそうだからしょうがないとは思うけどね。
そう言われたら「はあ、そうですか、よそ者は二度とこれについては語りません、。見なかったことにします」としか返事できない。
ただ、私が上記の女子高生いじりや顔のドアップについて書いたのは本質に無関係なケチ付けではない。そのような手法にかいまみえる制作者側の人間に対する根本的な見方が、この映画を損なっているのではないか、という事を言いたかったのである。
【関連リンク】
「かせだプロジェクト」
↑当時満州にいた方の感想
「BLOG IN PREPARATION」
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