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2006年9月30日 (土)

「グエムル 漢江の怪物」:人を食ってるのは--怪物でなくて監督の方だっ

監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン
韓国2006年

「グムエル一枚!」と勢いよく言ってしまった私である。しかし、窓口のおねーさんは全く気に留めず「はい、グムエルお一人様ですね」とチケットを売ってくれたのであった。ムニエルぢゃないよ、紛らわしい(>_<)

『吠える犬は噛まない』『殺人の追憶』と全く異なったジャンルの作品を作って異彩を放ってきたポン・ジュノの新作は、なんとモンスター映画である。前作がシリアス作品で成功しちまったもんで色々悩んだそうだが、またも大胆な路線変更、今度はそう来たか~!ってなもんである。
しかも、韓国本国では歴代記録を塗り替える大ヒット。ヒットし過ぎてキム・ギドクがブチ切れてTV番組で批判し韓国映画界引退宣言まで出してしまったり、それに対してネットで抗議が殺到--などリング外での話題も尽きまじなのだ。

普段はあまり怪獣やモンスターは興味がないのだが、ポン・ジュノの新作とあっては見に行かずばなるまい--ということで足を運んでみた。
で、結果は快作・怪作・掻作……ポン・ジュノやったね! \(^o^)/

冒頭からモンスター大暴れ。それに対する市民の反応の描き方もあくまで日常の観点から見ていて面白い。「ありゃ、なんだ?」とかみんなでガヤガヤしてたりして--確かに最初から「怪物だーっ(>O<)」と分かるヤツはいないだろう。
怪物から遠ざかろうと懸命に逃げてるつもりで同じ方向に走ってる、なんてのも意外とありそうで笑ってしまう。

さらにその後の怪物に殺された被害者の合同葬儀では、『吠える犬~』風の脱力系笑いが連打。例えば、主人公の家族が祭壇の前で号泣。そのあまりの嘆きように見てて「うむうむ、韓国風の悼み方ってこうなんだよね」なんて思ってるうちに、「いくらなんでもこりゃ大袈裟過ぎないか」と観客の側に疑念がわいてきた途端に、その家族をマスコミが取り囲んでバシャバシャ写真を撮りまくる--という次第。
続いて違法駐車呼び出しやら防護服男の「テレビで……やってない!」騒ぎやら笑いとシリアス緩急自在のテンポである。

で、キメる所はキマってるし泣き所のツボは押さえてるし家族愛は謳われてるし、一方グロな所も直接描写は無いものの結構嬉しそうに(?)出している。
しかも、登場する人物が主人公となる父親を始めほとんどロクでないヤツばかり。ヒーローっぽいヤツは皆無である。ただ一人だけマトモな人物が出てくるが、その運命は……だしねえ。おまけに警察も軍隊もマスコミも頼りにならないどころか敵に回ってしまう。
こんなどーしようもない一家が怪物に戦いを挑むなんて最高ですっヽ(^^)/\(^^)、

一家を演じてるのはこれまでのポン・ジュノ作品ではおなじみの面々。特に祖父役は『吠える犬~』の犬鍋警備員のピョン・ヒボンでやんすね。今回も好演。ソン・ガンホのダメ親父も本当にダメダメで素晴らしい。

この映画は、在韓米軍が劇薬を下水に流したという実際にあった事件を元にしているという。シリアスな場面に必ず脱力ユーモアを抱き合わせずにはいられないというのは、監督自身の強烈なシニシズムだろうが、同時に自らも含む社会・歴史・人間に対する冷徹な観察眼と批判精神に裏打ちされている。それはどこの国の映画だろうが、なかなか見つけることのできないものだ。

とはいえ、この脱力系笑いとテンポは受け入れる人を選ぶだろう。主人公が人体実験から逃れて建物を出るとそこの河原で米軍が行なっていたのは、なんと!--という件りにはさすがに私もボーゼンとして「なんだ、こりゃ」と思ったが、観賞後約十二時間ぐらいに突然思い出して爆笑してしまった。
いや、確かに河原でやるったら最高のものだけどね……ホントにやらせるかー!ってなもん。ギャハハハハー(^○^) ポン・ジュノやっぱり人を食ってるヤツである。(←注:もちろんホメ言葉)
キム・ギドクにけなされても、日本で客が不入りだろうと気にせず、これからも我が道を歩んで人を食ったカイ作を作って欲しい。どんなジャンルだろうと見に行くぞー。


それにしてもネット上の批判意見にはちょっと驚いた。内容が嫌米なのに米国の会社に特撮頼むのはおかしいとか、警察や軍隊が何もしないのは変だとか、家族仲が悪いのはどーのこーのとか……。まるで、娯楽映画は全て好米で軍隊と警察が立派で家族はみんな仲良くてハッピーエンドでなくてはいけないみたいである。文科省推薦映画ぢゃあるめえし。そんなもん見たくねーよ。


主観点:8点
客観点:7点(人を選ぶので)


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コメント


確かにこの作品の笑いのセンスは独特ですね
自分も劇場で「えと、ココは笑ってもいいの?」なんて思うシーンがいくつかありましたw

ただあの娘は最後ああならなくても良かったんじゃ・・・
とは思いましたけど。ああいうオチもまたこの監督さんの味なんでしょうかね

ではでは、トラックバックありがとうございました

投稿: myu♪ | 2006年9月30日 (土) 16時12分

わざわざおいで下さりコメントありがとうございます。

|ああいうオチもまたこの監督さんの味なんでしょうかね

一筋縄では行かない曲者、といった感じでしょうか。「単純にハッピーエンドなんかにしてやんねーよ」とか、「ここで感動されてたまるか」なんて……いや、そこまではないか。

投稿: さわやか革命 | 2006年10月 1日 (日) 10時41分

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