「トランスアメリカ」:全体的にヌルい印象
監督:ダンカン・タッカー
出演:フェリシティ・ハフマン、ケヴィン・ゼガーズ
米国2005年
主演のフェリシティ・ハフマンがオスカーの主演女優賞にノミネートされて話題になった映画。ようやく単館扱いで公開である。
性同一性障害で女性になるための最後の手術を控えた主人公が突然、自分に息子がいたのを知ってビックリ。自分の正体を隠して息子と共にニューヨークからLAへと向かう羽目になる。形式的には完全にロードムービーであり、途上で自分の家族を含めて様々な人々と遭遇する。
だが、少し前に同じくロードムービーの『プリシラ』を見ていたんで、なんだかあれに比べて全てがヌルく感じられた。別にエキセントリックな部分が足りないというのではなくて、作り手の「こうすれば感動的だろう」というような意図があけすけに受け取れたからである。そのため、却って感動できなかった。
F・ハフマンは性的に錯綜した役柄を見事に演じている。声とか動作とか--。さすが、オスカー・ノミネートだけのことはありって感じですか。
薬の副作用に苦しんだりボイス・トレーニングしたりなどトランスセクシャルの具体的な悩みがさりげなく描かれているが、むしろ私は実は男であることを知られた後の若者の反応の方が精神的に辛く感じられた。バカにして嘲笑するような態度や、みんなにバラシまくるんじゃないのかとヒヤヒヤした。「男はつらいよ」よりも、男から女になるのはつらいよ、というところだろう。
ミクシィの感想に、この物語で成長するのは息子ではなくて主人公の方だ、というのがあったが納得である。主人公はこれまで大学もちゃんと卒業できず、何もかも中途半端だったが、最後に手術をやり遂げ、新たに大学に行き直そうと決心する。
日本の役者でもしこの役をやるとしたら--と考えたら銀粉蝶しかいないんではないかと思った。もっとも友人に「銀粉蝶は最近、TVドラマでフツーのおばさんやってるよ」と教えられて驚いた。ええーっ(!o!)あの比類なき怪女優がフツーのオバハンとは……日本の未来も暗いのう( -o-) sigh...
息子役のゼガーズ君は評判いいようだが、私には母性愛も父性愛もかきたてられることなく、ただうっとーしく感じた。もうちょっと悪ガキっぽい方がよかった。美形過ぎのところがまたなんだか作り手が狙っているような気がしてイヤ~ン。
バート・ヤングが完全に好々爺の役で出ていた。歳取りましたねえ……。
見終った後、他者の受容という事をつらつら考えた。もし親しい友人や家族から「性転換したい」と言われたら、私はビックリするだろうが反対はしないだろう。だが、ポルノ俳優になりたいといわれたら「絶対に許さーん(>O<)」と叫ぶに違いない。それどころか自分の家の中でタバコ吸っていいかと聞かれたら、たとえ外が零下三十度だろうと「外で吸って」と言うだろう。
何を受け入れるかというのは人それぞれで異なるものである。
--だからと言って、この映画の評価は変わらないのだが。
主観点:6点
客観点:7点
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