「コード:アンノウン」:そしてみんな少し不幸になった
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:ジュリエット・ビノシュ
フランス・ドイツ・ルーマニア(2000)
*TV放映にて視聴
ケーブルTVの契約を変えた思わぬ副産物というところか。日本未公開だが、おかげで見ることができた。ハネケ監督の作品としては『ピアニスト』の一つ前に作ったものということになる。
舞台はパリ。冒頭は聾学校?の子どもたちがジェスチャー・ゲームをやっている。だが、誰も正解を当てることのできないまま終わる。
その次の場面は、オーディションに向かう女優を同棲相手の弟が訪れてくる。父親とうまく行かず家出して来たという。女優は道端でアパートの鍵を渡して去る。不機嫌な弟は通りで物乞いをしている女に紙クズを投げつけて歩き始めるが、それをアフリカ系の若者が見とがめる。二人はケンカを始め、警察が駆けつける。
その後は、騒動が原因で物乞い女は自国(東欧系?)へ強制送還されてしまう。警官にひどい扱いを受けたアフリカ系の若者(聾学校で打楽器を教えている?)の家族の悩みが綴られ、女優と帰国してきた同棲相手の男(旧ユーゴ紛争を取材してたジャーナリスト)の些細ないさかい、またその父親と弟の話などが、それぞれぶった切ったようにバラバラに進行していく。
ここら辺はなんとなく『クラッシュ』を連想させなくもない。異なる人種・民族・階層間の微妙な差別--。もっとも描き方は極めてクールだが。
そして、ラストはというと……これがまた大いなる驚きである。これこそ「衝撃のラスト!」と言ってもいいぐらいだ。
という訳で一応結末について書くが、「これから出るDVDを楽しみにしてんだかんね」というような人は以下を読まない方がいいだろう。
★ネタバレ注意報発令★
なにが衝撃の結末かというと、これまでの流れから想像すると並行的な複数の話がまた最後に繋がって何事か起こって終わるはずである。劇的な和解か、それとも絶望的な破局か。いずれにしろ何かが起こる。
だが、監督は観客のそのような期待をひっくり返す。何も起こらないまま何一つ変わらないまま終わってしまうのだ!
強いて変化をあげるとすれば、みんな以前よりも少しだけ不幸になっていることだ。
ここには虚構に備わっているはずのカタルシスもなんにもない。ああ、なんとハネケのイヂワルな事よ。
社会や人間関係に潜むチクチクと刺す姿なき棘の存在。誰が誰を抑圧しているのか、もはやそれさえ定かではないねじくれた差別と偏見。(例えば、アフリカ系の若者は付き合っている白人娘に対しては支配的な態度を取る)
そこには何の救いも起こらないのだ--。
主観点:8点
客観点:6点
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《ぐ~たら主婦のマイナー好き日記》
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コメント
はじめまして、こんばんわ。トラックバックありがとうございました。
この監督さんの映画は、私には難解で・・・・。(^_^;)「ねじくれた差別と偏見」まさにそうですね。一方的な差別や偏見ではない、複雑なものがそこにはあると思いました。それがよりいっそうの差別と偏見を生んでいる。だから何?と言われると困るんですが。(笑)難しい、と言いながらも目が離せない監督さんです。
投稿: OZAKU | 2006年11月16日 (木) 19時07分
TBとコメントどうもです。
なんか、人間のイヤな所だけを見せっ放しにしているような監督ですねー、どの作品見ても。
この不快感がいつしか快感に……ウウウ、といった感じでしょうか(;^_^A
「隠された記憶」ももう一度見直してみたいものです。
投稿: さわやか革命 | 2006年11月16日 (木) 23時28分