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2006年12月 5日 (火)

歌劇「月の世界」:とりあえず北区民の皆様に感謝

作曲:フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
演出:実相寺昭雄、三浦安浩
演奏:寺神戸亮&レ・ボレアード
会場:北とぴあ さくらホール
2006年12月1日・2日

ハイドン……古典派なんである。完全に私の守備範囲外なのだが、どうして行く気になったかというと「北とぴあ国際音楽祭」はほぼ毎年行っていたから。それに、演出に実相寺昭雄が担当するとあったからである。
音楽が苦手でも演出が面白ければなんとかなるかも知れんと思ったのだ。

ところが開幕二日前に実相寺昭雄はなんと亡くなってしまった。がんという病名から考えて直接に演出にたずさわれたはずはなし。せいぜいアイデアかプランぐらいか--と想像していたら、こんな記事がネット上に出た。
《LINDEN日記》 なんと彼は全く演出に参加していないというのだ。これが事実ならば
またしても
サギ!インチキ!金返せ~(>O<)
コールである。

実相寺だからとチケット買った人も多かろうに。だとしたらカーテンコールでもう一人の演出家が小さな遺影(多分)を持って現れたのは「ようやるよ」としか言いようがない。

というような波乱の幕開けだったのだが、作品の内容自体は至って単純。ヒヒジジイに娘が二人いて、父親に認めて貰えない恋人がそれぞれいて、召し使い同士のカップルもいてなんとしよう--って、なんか先日の『レ・パラダン』とあんまり変わらないような気が。当時の喜劇風物語の定番だったのであろうか。
ただ、あちらは歌無しの演奏部分が多くを占めていたのに対し、こちらは歌手のセリフ的なレチタティーヴォがやたらと多い。歌手の演技を楽しむ作品のようだ。

中心人物であるヒヒジジイの父親と長女の恋人役は海外から歌手を呼んで、それ以外は日本人。二人の娘は野々下由香里と森麻季。巷の評判になってるのは森麻季のようだが、野々下さんもコミカルな感じで可愛かったのよ(*^-^*)
女中役の穴澤ゆう子は『レ・パラダン』の全裸ダンサーズには負けるが、メイド服のメガネっ娘として登場。着替えシーンもあったぞ。(ただ、メガネ娘にあまり見えないのが難であります)
父親役のフルヴィオ・ベッティーニは若い娘に熱を上げる好色なオヤヂを熱演していたが、作品の性質を考えるともっと大袈裟で俗っぽくても良かったのではないかとも思った。

演出面は、アニメ絵のスライドをスクリーンに投影して登場人物や指揮者まで紹介するのは面白かった。
長女に求婚する天文学者を白衣のマッド・サイエンティストにして手下をゾンビだか人造人間風にしたのは奇抜といえば奇抜だが、当時の天文学者ってどっちかというと現代のIT企業の社長(最先端のモノで無知なオヤヂを騙す)みたいな感じではなかったのか。よって、そこだけゴシック調なのは設定と合わない気がした。まあ、白衣が似合ったので許そう(ってそういう問題か)。
愛の神アモーレ(歌わない)は元から設定されたキャラクターなのだろうか? なんか、いなくても全然構わないような感じだった。

全体的にはレチタティーヴォの部分がいささか冗長で退屈っぽかったのは参った。これは元々そういうものなのか、それともハイドン先生が悪いのか、この公演だけ悪いのか。比べようがないので分からないが。

舞台装置は非常に大がかりである。3段に分かれた巨大なセットが縦に上下するのだ。スゴイと感心してしまうが、客席から見ているとむしろセットに歌手たちの動きが制約されているようで、却って閉塞感を感じてしまった。
それに大幅赤字だっていうのなら、こんな金がかかりそうなのは避けた方がよかったんじゃないだろか?(余計なお世話)なんて心配してしまったよ。
さらに--これも『レ・パラダン』と似ているのだが、肝心の『月の世界』が全然魅力的でなかった。どこかのビルの屋上みたいで、そこら辺にビールの空き缶やゴミ袋とか転がっていても構わないような感じだ。これじゃ親父はどこに惹かれたんだか全く実感できない。

音楽自体については、なにせ守備範囲外なんであまり楽曲に気を引かれる所がなかったのは残念。レ・ボレアードの演奏は通奏低音がアクセントを効かせていてよろしかったのではないでしょうか……守備範囲外のためこれぐらいしか言えない。

てな状況なんで、他の人の感想をカンニングしてみると、オペラ・ブッファとして歌手も演奏もほとんどダメ!というクロート筋の厳しい批判もあれば、ハイドン・ファンとして喜びの感想をあげている人もいて様々だった。森派と野々下派の割合は7:3というところか(某党の話ではありません(^^;)。

蛇足だが、プロンプターって初めて見た(!o!)
ロビーで波多野さんを目撃。やはり目立つのよね~。

来年はモンテヴェルディの『オルフェオ』だそうで、また楽しみだー。音楽祭のテーマが「伝説」というのも期待大である。


なお、ついでに北とぴあ国際音楽祭についても書いておきたい。
東京北区が十年以上に渡り継続してきた音楽祭だが(ここに過去の一覧あり)、ホグウッド、ヤーコプス、サヴァール、ルセ……等などそうそうたる面子を廉価で聴かせてくれたのはありがたかった。毎年のバロックオペラ公演も良かったーっ。リンク先には記載されてないが、クイケンとかヒロ・クロサキも出ていたはずである。週に四日、北とぴあに通ったこともあった。
ただ、バブル崩壊後規模が縮小されてしまってモーツァルトしかやらなかったような年はパスしてしまったこともある。

しかし、今年から今度は古楽オンリーではないもののテーマを決めて復活。嬉しい限りである。
朝日新聞の紹介記事によると、まるで地元には還元されるものがなかったかのような印象だが、地域の合唱団と共演したり、学校演奏会を行なっていた。なにせサヴァールが区立中学校で演奏会(芸術鑑賞会というヤツですかね)をしたぐらいなのだ。

どんな音楽祭であっても地元民多数が参加なんてのはそもそも難しいだろうと思う。地方の古楽祭は最初から外部の客を当て込んで観光とセットでやっているはずである。
ともあれ、これも北区民の皆様の税金のおかげでこぜえます。どうかこれからも音楽祭存続をよろしくお願いいたします<(_ _)>ペコペコ

ついでながら音楽祭で印象に残ったコンサートは色々あるが、ボストン・カメラータの「トリスタンとイズー」に大感動、デュース・メモワールに感心、そしてヤーコプスの「ロ短調」の弦の音が忘れられねえ~。
印象に残った事柄はヴィーラント・クイケンの色紙の抽選に当たったこと。
そして、ヘレヴェヘがバッハのモテットをやった時に競馬の雑誌を読みながら聴いてたヤツがいたことである。それも最前列で……。
後ろから首締めてやればよかったよ(*`ε´*)ノ☆


【関連リンク】
調律師の方のブログ。11月23日以降の記事でリハーサルや舞台装置の様子などが分かります。
《チェンバロ漫遊日記》

またも詳しい分析に感心です。
《アリスの音楽館》

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