昔から大島弓子は人気があったわけではない(多分)
《へんぺんメモ》の「大島弓子って若者にそんなに読まれてないの?」で紹介されているリンク先へ行って、《少女漫画的日常》の「大島弓子が読めない女の子はいっぱいいる」を読んでみる。
うーん、どうでしょうね、確かに大島弓子を含めていわゆる「24年組」は今どきの若いモン(の大部分)には、テーマにしてもマンガ文法にしても好まれるようなものではないと思う。
しかし、だからと言って当時は大きな人気があったかというと、そんな事はないだろう。
マンガに限らず、映画や小説もそうだがウルサ方のマニアやファンの好む作品と一般の消費マーケットで売れる作品にはズレがある。その両者が一致する事は少ない。
例えば赤川次郎や西村京太郎がどんなに部数を売ったとしても、「このミス」や週刊文春のベストテンに入る事はないのだ。
また、マニアの評価も長い年月によって変化するし、「名作」と呼ばれるようになるかどうかはリアルタイムでは分からない。別のジャンルの話でまたも恐縮だが、「キネマ旬報」誌の映画評論家による毎年のベストテンでは『2001年宇宙の旅』は第4位(1968年)、『ゴッドファーザー』は第8位(1972年)である。『ロミオとジュリエット』が『2001』より上だって? 今ではとても信じられないランキングだ。
当時のマンガ誌編集部の人気のバロメーターは、プレゼント応募のアンケート葉書だった。そのターゲットは小中学生だろう。大人の読者やマニアは雑誌を買っていたとしても葉書を出したりしない。従って、24年組のように当時からマニアに支持されていたマンガ家は、そういう意味での「人気」は低かった。
萩尾望都の『トーマの心臓』は雑誌連載中に打ち切りの危機に瀕し、彼女は必死になって人物の背景に花を散らしたり、ファンレターに返事を出して「アンケート葉書にマルを付けて下さい」と読者に頼んだそうである。
大島弓子は『綿の国星』で商業的にブレイクしたが、それ以外の時期にどの程度の一般的な人気や認知度があったかは不明である。もちろんマニアは作品が出る度に騒いでいたけど。当時もマンガをよく読んでる子だからといって大島弓子の事を聞いても、「知らん」とか「興味ない」という返事が返ってくる率は高かったろう。
彼女が他の24年組とは違っていたのは中年男性の支持が高かったこと。誰だったか忘れたが、昔テレビで中年の評論家がホントに嬉しそうに本をナデナデしながら「大島さんの作品は--」なんて語っていたのを見た事がある。
荷宮和子はコマ割が他のマンガ家に比べて複雑でないから、中年のマンガを読み慣れていない人にも受け入れやすかった、と書いていたが実際どうだったのだろうか。
(以下懐古モードに突入)
大島弓子で忘れがたいのは、大昔の「ぱふ」誌--それともその前身の「だっくす」だったか?--で映画評論家の北川れい子が『綿の国星』を読んで激怒。こんな大甘な少女趣味のベタベタなマンガは許せねえ~という感想を、極めて性的な罵倒語を駆使して書いたもんだからちょっとした騒ぎになったことだ。
あまりにお下品な叙述に非難も多かったが、北川れい子は物足りず、さらに硬派バリバリな評論家平岡正明(当時『山口百恵は菩薩である』など歌謡曲評論で一躍有名に)に読ませて大批判対談大会をやろうと図ったのだった。
とっころが、意外にも平岡正明は『綿の国星』にはまってしまい、批判大会は腰砕け状態になってしまったのであった。恐らく、平岡正明は「大甘な少女趣味」の背後に性のメタファーを感じ取ったのだろうと思われる。
もう一つ印象的なエピソードとしては、橋本治が友人のロック・ミュージシャンのPANTAに、『バナナブレッドのプディング』を御茶屋峠の性格にPANTAがそっくりだと言って貸して読ませたという話だ。(ちなみに彼は読んで「なるほどオレだ」と思ったという)
私の友人一同すぐ疑問に感じたのは「えー、じゃあ橋本治はどのキャラクターが自分だと思ってるんだろか(?_?;」ということであった。
なお、PANTAも硬派なロッカーとして知られる。ただ、彼ははっぴいえんどの曲の中で「空色のくれよん」が一番好きだと言ってたぐらいなので、本質的にはロマンチストなのかも知れない。(だーって「空色のくれよん」ですよっ!)
(注-以上の文章は記憶だけで書いているので、事実と違っているところがあったらスマン)
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コメント
大島弓子がPANTAのファンだとは知ってましたが、PANTAが、『バナナブレッドのプディング』を読んでいたとは知りませんでしたwPANTAが実はロマンチストだというのは納得します。革命が敗れることを承知の滅びの美学のロマンチシズムだと思います。
投稿: goldius | 2007年6月25日 (月) 11時41分
「バナナブレッド」ついでに、他の作品も読んだんじゃなかったでしたっけ?
非常に記憶が曖昧ですが、「綿の国星」に関係した曲を作っていたような気が……(こちらもうろ覚え)。
投稿: さわやか革命 | 2007年6月26日 (火) 06時22分