「フリーダムランド」:壊れゆく母親
監督:ジョー・ロス
出演:サミュエル・L・ジャクソン、ジュリアン・ムーア
米国2006年
かなり不評率が高い映画である。賛否は1:9か2:8ぐらい。
事前の印象だとミステリーという感じだったが、そう思って観に行ってしまった人には不満だろう。犯人は早々に分かってしまう。だが、これは「誰が」ではなく「何故」「どのように」という方が中心の話なのだ。
黒人が多く住む地域で働いている白人女性がカージャックされたと訴え出てくる。だが、どうも挙動不審。刑事が事情を聞いているうちにその車には幼い息子が載っていたことが判明。単なる強盗事件が誘拐へと発展する。
しかし、最初からジュリアン・ムーア扮する母親が怪しいのは明示されている。主人公の刑事も疑いを抱いてるのだが、母親の弟も警官であることもあって市警察は現場の居住区を封鎖。それに対して黒人住民達の不満がうっ積して暴動寸前。
と、ここら辺は社会派系の展開となる。さらに子どもの行方不明者の家族をサポートする市民団体も登場して絡んでくる。暴動を避けるには急いで事件を解決しなければならないのだが……。
2時間の中に各種社会問題(人種、階層、母子家庭、児童虐待、誘拐、DV)がギュウ詰め。それぞれが徐々に折り重なるように堆積してくる。それらがとっ散らかずにうまくまとまっているのは(なにせ原作は厚い文庫本2冊という量だ)、一つにはJ・ムーアの演技もあるだろう。もう、まさに神がかり的としか言いようがない。特に子どもクラブのビルの上階で刑事と二人きりでいる場面の、静かなる狂乱ぶりはすご過ぎである。
終盤の長い語りも、その情景が実際の映像は出てこないのにも関わらず引きつけてしまう。いやはや参りました。_(_^_)_ペコリ
刑事役のS・L・ジャクソンも大した兄い振り(いや、この設定だと「オヤジ振り」ですね)。一生ついてきま~す。でもTシャツの趣味は……(^^;
あと、援助団体の女性リーダー役のイーディ・ファルコもかなりの好演。
役者は申し分ないのに、も一つ何かが足りないような気がする。うーむ、なんだろう。演出か脚本か。
それから、結末近くで明らかになる重要なキイパーソンが今イチ魅力無い人物なのが不満。説得力が半減だー。
作り手達は暴動で無表情に放火する黒人少年と、行方不明の白人少年を重ね合わせることで辛うじて人種間の障壁が消えていくと考えているようである。しかし、スポイルされているとか、被害者であるという点で共通であるとはいささか悲惨過ぎるぢゃないの。そして、そんな社会の象徴が荒廃した児童施設の廃墟たるフリーダムランドなのだ。
他のネット上の感想を読んでいて、「出来の悪い『クラッシュ』だ」という意見を散見した。だとすれば、ひねくれ者にしてアンチ『クラッシュ』派たる私はこの映画をオススメすることにしよう。
【どうでもいい追記】
S・L・ジャクソンのメガネは、「CSI:NY」の新検死官が使っているのと同様の「フロントホック」メガネだった。あれって最近出てきたのかしらん。老眼鏡併用時には打ってつけみたい。わたしも欲しいのう。
主観点:7点
客観点:7点(ひねくれ者に推奨)
【関連リンク】
衝撃の〈7番〉に笑いました。
《映画通の部屋》
作中に登場する社会問題を的確に解説しています。
《次世代コラボレーション研究会》
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コメント
初めまして、こんにちわ。『映画通の部屋』をやってます隣の評論家(通称:となひょう)です。リンク&TBありがとうございました。
この作品は本当に評判が悪いようですね。公開前のイメージが本編にそぐわないのでしょうか。実際に見てみて、傑作とは呼べなくてもそれなりに楽しめた印象でした。
「7番」にはビックリしましたよ。レディースデイに出かけたので大急ぎしたのですが、慌てる必要は全くありませんでした。結構、たくさんの女子がワラワラとたむろっていて「ヤバイ!」と思ったのですが。どうや『僕は妹に恋をする』を見に来た松潤ファンの群れだったようでした。
『フリーダムランド』受付番号は何番でしたか(笑)。きっと空いてたんですよね?
投稿: 隣の評論家 | 2007年2月25日 (日) 11時07分
コメントありがとうです。
最初、記事を載せた時にトラックバックしたのがうまく行かなかったようで……ニフ、頼むよ~。
私が見た時は既に一日2回だけの上映になってたんですが、開演直前で25番だったかな? やはりロビーには若いオナゴが大勢いました。(^^;
宣伝の仕方が難しかったとは思いますが、「サスペンス」路線が裏目に出てしまったようですね。
またそちらのブログを拝見させて頂きますので。
投稿: さわやか革命 | 2007年2月26日 (月) 06時41分