「20世紀美術探検」:恐るべき物量作戦
国立新美術館開館記念展 アーティストたちの三つの冒険物語
会場:国立新美術館
2007年1月21日~3月19日
以前から森タワーの展望台から見えていて気になっていた国立新美術館である。
その成立過程についてはこちらの記事あるように貸しスペースとしての要請が大きいらしい。ということで、収蔵品を持たない展示ホール、おっと美術館なのだよねえ。
しかしながら、既にこのようなキビシイ感想も出ており、どんなもんかと行ってみた。
ガラスが波打っている外観は面白い--けど、なんか変テコじゃない? 設計はあの黒川キショウである。ちなみに黒川氏、かつてとある学校を設計した時、やはりガラス張りの教室を作ったそうだが、日当たりが良過ぎて暑くて暑くてたまらんそうである。ここも夏になって国民の税金の空調費がどれくらいかかるか、はなはだ心配だ。
中に入ると印象は「無駄に広い」。ガラス面に沿って吹き抜けになっていて、椅子が並んでたりカフェがあったりする広いスペース(ここはチケット無くても入れる)なんだけど、なんかだだっ広くて散漫な感じだ。
企画は「異邦人たちのパリ」なんてのも同時にやっていたが、とりあえず「20世紀美術探検」を選んでみる。
いやー、驚いた! 何が驚いたって1階の五つの展示スペースをフルに使って(相当な広さ)そこにまた展示品が続々と……。場所によってはギュウ詰め状態な所もあったりして。これでもかこれでもか、なんである。
もうあんまりたくさんあるんで、どれが印象に残ったかなんてあっという間に押し流されて忘れてしまうぐらい。スゴイねー。
で、入ったが最後、途中には休憩室(ホントに椅子があるだけ)しかなくて、トイレもなんにもない。まあ、こんなに広く使うのは今回だけだから構わないんでしょうけどね。
展示はこまかく第1部第1章その1と細かく区分されていてそれぞれタイトルが付いている。しかし、不思議な事に場所によってタイトルとその説明書きがそれぞれ別の場所に貼ってあったりするのだ。何故(?_?)
そもそもこんなに細かく区分する必要があるのかという根本的疑問もあり。
セザンヌに始まりジェフ・クーンズに至るまでの近現代美術に加え、ついでに柳宗悦まであったりする。それら名作の実物をいっぺんに千百円で見られるんだから、これから勉強しようという学生あたりにはいいだろう。だが、デュシャン先生の画期的作品群が狭苦しい一画に押し込まれて、あのベンキもただの便器のように転がされている状況は、まあデュシャンの意図に合ってるかも知れないけどなんか悲しくなりましたよ、私は。(T^T)クーッ
収蔵品がないから企画力で勝負--じゃなくて物量で勝負なんかい?と問い質したくなってしまった。
あと作品の配置の仕方もねー。椅子の作品がズラーッと並べられているスペースがあって、そこは柵が置かれていて近寄れない……のはいいとしても、その向こうの壁にも全然別の絵画がかけてあるのだ。しかもたいして大きな作品ではないので近寄れないというのはかなり困っちゃう(タイトルなんかも読み取れない)。どういうつもりかと思ってしまったよ。
さて最後の部屋の第3部は6人の作家を選んで近作又は新作を展示--というのはいいんだけど、これまで散々展示場所を細かく分けてタイトルやら説明を掲示してきたのに、どうしてこの6人を選んだのかという理由とか、作家の経歴とかなんにも説明の掲示がない。なんなの、これ……。
ここまで来るとめっきり客の数も減り--って、みなさん途中離脱したんでしょうか? 時間もないので、駆け足で見まくった。
全作品をじっくり見て、さらに他のフロアやショップをぶらつくなら合計3時間は必要だろう。
印象に残った作品をなんとか挙げてみると--巨大な黒い切り株みたいなヤツの真ん中に水が溜まっているインスタレーション。
それから「音楽」というタイトルの、ピアノの鍵盤を機械が叩く作品。これは4分演奏して5分休むようになってるそうだから、待つがよろし。ピアノはヨレヨレに古くて機械仕掛けの部分も錆ついていて、危なっかしいヨロヨロした動きなのに、毎回ちゃんとピアニシモやフォルテを弾き分けてるのが不思議。三巡ぐらい見てしまった。
第3部では田中功起が細長いスペースをなんとか面白く生かそうと涙ぐましい努力をしているのが好感。点々と置かれたモニターに同じ映像が少しずつズレて流されるのが面白かった。
私が現代アートを好んで見るのは、自分の感覚が根源的に揺さぶられる体験をすることができるからである。そういう点では、オペラシティアートギャラリーの所蔵品展は個人のコレクションを元にしながら、ちゃんとテーマが一本通っていて、心揺さぶられる作品がほとんどであった。
だが、こちらは国立で所蔵品はなく企画を立てて量は多いが全ては希薄……この差はなんなんだろう? 暗澹たる気分になった。まあ、今後のラインナップを見る限りしばらく来る事はないからいいけどさ。
ついでに、ミュージアムショップが地下の薄暗い(エスカレーターの下)一画なのにも驚いた。一階に持ってくればいいのに。
なお、森ビルの「ヒルズまんじゅう」に対抗して、新美まんじゅう、新美最中(皮にあのロゴが入ってる)、新美せんべいを作って販売も是非頼む。
【関連リンク】
別のブログでカレーの匂いが全館に充満しているという話を読んだのですが、なるほどこういうことですか。厨房隠して客席隠さず、ってか?
《はなこのアンテナ》より「国立新美術館を通して見えて来るもの~増え続けて行く借金」
【追記】
カレー臭の発生源は地階のカフェだという事が判明しました。これから行く人は「地下でカレー注文禁止」でひとつヨロシク。
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コメント
初めまして。TBありがとうございました。
私も友人の発言を確かめるべく、先週、国立新美術館に行って来ました。内覧会でハコだけは見たことがあったのですが、そこにモノや人が入った状態を見るのは今回が初めてでした。
別のグルメな友人も一緒だったので、某レストランにも行って来ました。2階の展覧会場でしたが、友人が指摘していた匂いはありませんでした。某レストランは3階なので、匂いの元は2階にあるカフェ・レストランでしょうか?
ランチを食した某レストランは開店前から並び、30分で入店、ランチにありつけるまでに30分、食事に1時間弱といったところでしたが、運悪く、座席は窓際。全面ガラス張りの為、季節柄、お昼時の直射日光がキツイ。強い陽射しがモロに顔を直撃し、苦痛この上ありませんでした。店員の話では今週辺りにも窓に紫外線防止シートを貼るとのことでした。こうしたことも建築家の拘りとやらで、いちいち許可を貰わなければいけないのでしょうね。春先の今でさえこうなのですから、真夏の暑さは推してしるべし。全面ガラス張りのアナトリウムはとんだ金喰い虫になりそうです。
他に疑問に感じたこと。
まず、チケットブースがなぜ屋外なのか?晴天時はともかく雨天時は大変ですね。美術団体への貸しスペースとしての役割も担うわけですが、複数の展覧会が同時開催の時、あの小さなチケットブースで対応できるのか?(アクセスの良さを考えたら美術館裏口に直結する乃木坂駅6番出口利用者が多いように思う)
次に今後の展覧会のラインナップ。「モネ展」なら、日本では屈指のコレクションを持っている西洋美術館で開催するべきでしょう?既存の美術館の間で、限られたパイの奪い合いになるようで、棲み分けも難しい?この美術館が何を目指しているのか、その方向性がいまひとつ不明です。
入場無料だった黒川紀章展は、キャプションの文言がまるでアジテーションのようで笑えました。
投稿: はなこ | 2007年3月14日 (水) 08時48分
はなこさん、新美レポートありがとうございます。
もう一度調べ直したら、カレーの臭いの発生源は地下のカフェらしいです。で、地下から香ばしい香りが徐々に立ち上っていく--と(^O^)
|強い陽射しがモロに顔を直撃
これはキツイですねえ。私が行った時は時間がホントになくて他の階を観察する余裕がなかったので、次に行く機会があればそのあたりも気をつけて見たいと思います。
|既存の美術館の間で、限られたパイの奪い合いになるようで、
置いてあるチラシの文言を見てみると「近現代美術を中心に多彩な展覧会を」とあります。えー、じゃあ既にある国立近代美術館の立場はどうすんの?と思ってしまいました。
チケット売場の件などなど、これからますます問題が顕在化してきそうですね。(夏の炎天下になったらどうなるんだろう)
投稿: さわやか革命 | 2007年3月15日 (木) 07時23分