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2007年3月 7日 (水)

「土から生まれるもの」:思わずピーガブのCDを引っ張り出して聴く

コレクションがむすぶ生命と大地
会場:東京オペラシティアートギャラリー
2007年1月13日~3月25日

オペラシティのアートギャラリーではよく下階で企画展をやり上の階で同時に収蔵品展をやってるが、今回は全館で収蔵品展を開催とのこと。
タイトルが示しているように陶作品が多い。もちろん、現代アートでの陶なので普通の陶器とは全然異なる。

まず驚かされるのが直接床に広げられた小川待子の巨大なインスタレーション。水面を現わしていると思われる薄青緑色の正方形の陶板が並べられていて、その上に巨大な卵のカラのようなものが散乱して浮かんでいるというイメージ。カラの縁は鋭くギザギサに割れていて、それらがたくさん集まっている部分を見ていると、鋭い縁がゾワゾワと心の中を刺すような気がしてくる。

同じ作者の色々な形の作品が他にもあったが、大きな球形を潰して割って中身を見せているようなのが幾つかあって、それがまた見た感じの質感が菓子のマカロンのそっくり。で見る度に私はあのマカロンの味--というよりは口に入れた時の舌触りを思い出すのだった。視覚によってこれほど触覚(味覚?)の記憶が想起されるとは思いも寄らないことだった。

廊下の一隅には、分厚い点字の聖書が焼けかけて朽ちているのをそのまま鉛作品にしたようなのがあって(荒木高子の「点字の聖書」)、小型のキーファーみたいだなと思ったのだが、後でリストを見たらこれも陶だったんで驚いた。

また上階の方には黒くてホントに巨大な秋山陽のオブジェがあった。床にデローンと長くて太いツクシンボみたいなのが横たわっていたり(全長5メートル半!)、底が漏斗状に長く伸びている土器みたいなのが天井から下がっていたり、これまた陶には思えないような異形な重々しさだ。
と思えばその隣には、山本浩二の木を焼いて焦がして作ったようなちっこいブローチ風の小品が箱に納められて壁に展示されていて、こちらはミニマリズム、というか対照的なカワユさなのであった。

平面ではニルス・ウドの写真作品が目を引く。海岸に飾られた土着の呪術の祭壇みたいなものが写っている。しかし、素材や状況はアミニズム風にもかかわらず、なぜか全体的にはモダンで洗練された印象を受けるという不思議なもの。
で、段々と見進んでいくとどうも前にも見たような気がしてきた。子どもが巨大な巣の中にいる光景の作品を見て、アッと思い出した。ピーター・ガブリエルの『OVO』というアルバムのジャケットやブックレットに使われていたのがこの人の作品だったのだ。それも含めてアートワークが素晴らしくて、当時「ピーガブやっぱりさすが。カッコエエなあ」としきりに感心したのを思い出した。

しかし、何と言っても一番感動したのは野又穫である。4点あるうちの一番大型の絵画「都市の肖像--バベル2005」が素晴らしい。あまりの感動に見た瞬間、涙がチョチョ切れるほどだった。
青空を背景に入り江のような場所にバベルの塔が建っている。ただ、ブリューゲルのと違って色は白っぽくて上に高くスマートである。螺旋のところどころには昔のデパートのような文字の看板が付けられている。足元の地面には青いテントがいっぱい並んでいて、さらに遠方には海が続いている。
で、不思議な事に近寄っても離れても、また正面・斜め・左・右どこから見てもそれぞれ微妙に異なって見えるのだ。あまりに不思議なんで、もう何度も何度も色んな角度や場所を変えて見まくってしまった。さぞ変なオバハンと思われたことだろう。

このバベルの塔には「混乱」や「停滞」のイメージはない。代わりに常に天に向かって真っ直ぐに造成中でありながら、同時に壊れつつあるような奇妙なあっけらかんとした感覚がある。

あー、もし私が大金持ちだったら野又穫の作品を全部買い占めるのに~。もし、ドロボーだったら直ちに壁から外して持って逃げちゃう。もっとも私の身長より遥かに大きな作品なんで無理な話だが(^o^;

という訳で非常に満足できた展覧会だった。最後にまたもう一度、野又穫を各地点から眺めて帰った。

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