「ブラックブック」:ヴァーホーヴェン節炸裂の快作
監督:ポール・バーホーベン
出演:カリス・ファン・ハウテン
オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー2006年
アジア圏の映画がハリウッド・リメイクされたり、映画人も向こうにに渡って活躍したりという一方で、かつて米国以外の西欧圏から引き抜かれてきた監督が近年母国へ戻ってまた映画を作る、というパターンが見受けられる。例えばフィリップ・ノイス(オーストラリア)、デヴィッド・クローネンバーグ(カナダ)、そしてこのポール・ヴァーホーヴェンもオランダへ戻ってこの作品を作ったのである。
かつてのオランダ時代の彼の作品は割とヴァラエティに富んでいて、私が見たものではサイコサスペンスの『4番目の男』、中世を舞台にした剣戟アクション『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』、第二次大戦のレジスタンス活動を描いた『女王陛下の戦士』なんてのがあった。そして、この最新作『ブラックブック』はレジスタンスものに該当する。
ただし、主人公はオランダ人の男ではなく、ユダヤ人の女である。
そのせいかチラシの宣伝文句には『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』の名が挙げられているが、冗談はよしこさんよ。あのような文芸の香り高い立派な作品ではない。くれぐれもそこんトコ誤解のないよう。
ユダヤ人のヒロインを次々と襲い来る波乱万丈の運命--愛、裏切り、エロス、暴力、歌に踊りに、裸に死体になんでもありだー ヾ(^^)ゝヾ(^^)ゝアコリャコリャ
そういう意味ではまさに由緒正しき真正の娯楽作品。見終った後、トイレで中年のおばさんグループが「これでもかこれでもかって、スゴイわねー」と感心していたが、ホントにそういう感じ。次から次へドトーのような展開で2時間半近く、飽きるヒマもない。
かつての『女王陛下の戦士』では「なんか大河ドラマの総集編みたいだなー」と思ったが、今回は同じくテンコ盛りのストーリーでもそんな印象はなかった。
ヒロイン演ずるは、いかにも監督好みのパツキン美女のねーちゃんなカリス・ファン・ハンデン。続く苦難にもめげず毅然と行動し、果敢に運命に立ち向かい、またたとえ敵方の男であっても一度惚れたら「愛している」とキッパリ言い切る潔いヒロイン像は近来出色。見ていて爽快な気分になる。
また、脇を固める美中年男二人も良し。『善き人のためのソナタ』でも好評だったS・コッホはドイツ軍将校。この人『飛ぶ教室』の禁煙さんだったのねー。レジスタンス男役のラッセル・クロウを痩せさせたようなT・ホフマンは『4番目の男』の主人公だったのか。
一方、フランケン役の人は顔といいお肉がたるんだ体つきといい絵に描いたような悪役で、「丸の内のOL百人に聞きました。絶対近寄りたくない上司は誰?」というので最上位に来そうな感じである。だが、ピアノを弾きながら歌を歌い、ダンスも達者にこなし、その上全てをさらけ出して自分のイ○○ツまで見せてしまった(さすがにボカシがかかっていましたが(^^;)んだから、もしかして一番の役者なのかも。
だが、最大の見ものは自国オランダ人の描き方である。ドイツ軍占領下でレジスタンスとしてユダヤ人を助けていた人々が、一転して差別意識丸出しにしてユダヤ人を罵る。
また連合軍に解放されてからは、今度は裏切り者であるドイツ軍への協力者たちにナチスと変わらぬ虐待行為を行い嘲笑する。
そこに暴かれているのは、恐るべき人間の本質としての醜悪さである。正視に耐えぬとはこのことだ。これに比べれば、食人大統領も連続殺人鬼もかわいいもんである。一体誰がここまで平然と人間の醜悪さを描けるだろうか。他にはM・ハネケぐらいしか思い当たらない(作風は全く異なるが)。
解放下で浮かれ騒ぐ自国民の姿を背景に、こんな話を撮ってしまって「非国民」とか「自虐」とか言われなかったのか、心配になっちゃう。まさに驚くばかりである。
おまけにラストもかな~りの皮肉……。
ともかく、神も人間もイデオロギーも信じていないヴァーホーヴェン、ひねくれ者の鑑としか言いようがないヤツである。アッパレ~ \(^o^)/
でも、こんなに面白いのに今イチ評判になってないのはなぜだっ?
主観点:9点
客観点:8点
【関連リンク】
最後の三行に激しく同感しました。
《ようこそ劇場へ!》
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