「身体をめぐるレッスン 2 資源としての身体」:役立つ身体をあなたは持っているか
編者:荻野美穂
岩波書店2006年
様々な面からの身体論のアンソロジー・シリーズの2巻目。他の巻は未読だが、テーマが面白そうなので読んでみた。
内容は色々である。難しくてよく分からんやつもあれば、他の本でも似たことを書いててもうイイヤな人もいる。
面白かったのは、日本のハンセン病施策を「隔離」という点から見た「隔離される身体」。家族を解体して隔離された身体が「国家」へ回収される過程は極めて興味深いものである。
「卵子・胚・胎児の資源化」は自分の身体の一部(であったもの)が知らないままに、あるいははっきりと認識しないままに研究者に回され利益を産み出している構造を描いている。それがいかに多額であっても、提供者に還元されることはない--というか、そういう事実があったのかどうかさえ分からないのだ。
「生かさないことの現象学」は安楽死・尊厳死に潜む、表には見えることのない「生かさないこと」への選別の存在を明らかにしたもの。事故現場でのトリアージについても書かれている。
そのような場面での「生かさないこと」の選択は、本人の自己決定ではなく、その時代の社会的規範と結びついている。例えば、高齢者、重病人、障害者、さらには中毒者、ホームレス、売春婦など。
医療現場で日々、そのような選別が行われているというのは恐ろしいことだが、一方で人々がそれを無意識に一つの価値観として受け入れてしまっているのもまた事実であろう。
さて、一番面白かったのは「バンキングと身体」である。私の子供の頃は献血をした人には優先的に輸血を受けられるという優先権があったはずなのだが、それがいつの間にか献血してもしなくても同じということになっていた。
実はその背後には昭和初期からの日本の血液事業の変遷が絡んでいたのだ。輸血による事故、血液の安定供給と品質低下防止、売血から献血へと、様々な動きがあった。
時折街中で耳にする献血を呼びかける声の背後にこんな歴史があったとは--いやはや、わからんもんですねえ。
ということで、全ての論文がヨカッタとは言えないが、2700円の元は充分取れた本だといえよう。
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