「奇術師」:ウサン臭いのが好きっ
著者:クリストファー・プリースト
早川書房(ハヤカワ文庫FT)2004年
映画『プレステージ』を観たら、猛烈に原作を読んでみたくなった。
で、読んでみた結果は--「これをよくぞ映画にしたなー」とか「なるほど、ああいう風にしか映画にできないなー」と思った。
形式的には現代と19世紀末の複数の人物の手記(語り)を交互に置き(一部、三人称の部分もある)、特に過去の記述では何が事実なんだか語り手の主観なんだかよく分からない。
それゆえ、明確なストーリーがあるわけではなし、誰が主人公なのかというのもハッキリしていない。
映画では過去の事件だけに限定し、二人の男の争いを中心にし、なんとか白黒善悪をつけて、一応ハッピーエンドに仕立てている。
ハリウッド製娯楽映画としてはそうせざるを得なかったのだろうが、どちらの人物にも共感できないという点は、元々の原作の設定をある程度生かしている--というより、つい出てしまったと言った方がいいか--と分かった。
「こんなのマジックと言えない」と映画ファンから非難されたネタについては、原作でも果たしてこれが奇術といえるのか、と自問自答している。
また「決してネタをばらさないでください」というのは奇術の解説書の冒頭にも記されている言葉で、映画でもそれをなぞっていると判明。
そういう所は原作をよく生かしているのであった。
とにかく、原作も映画と同じくウサン臭くて楽しめた。一つのネタで二度楽しめる、って感じですか。
気に入ったので、今度は最新作『双生児』を読んでみる予定。
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