「終決者たち」上・下:面白いけど地味、地味だけど面白い
ロス市警にヒエロニムス・ボッシュ復帰、
キタ━━━━━('∀')━━━━━!!!!
まあ、私立探偵時代は作者も描きにくかったんでしょうか。刑事に戻って、まずは大多数の読者もこりゃメデタイってことで祝杯をあげるのであった。
さて、原題は The Closers --となると、つい先日CS放送でシーズン2が始まった警察ドラマ『クローザー』を連想してしまう。
警察内部(同じくロス市警)の嫌味ったらしい権力関係が描かれるところは同じ。だが、主人公は女性捜査官なれど最後の自白を犯人から引き出す名手、という意味での「クローザー」で、読んでいくとどうもこちらは意味が違うようだ。
ボッシュとこれまた現場&相棒復帰のキズミン・ライダーが配属されたのは強盗殺人課の未解決事件班。長年、迷宮入りの事件を掘り起こして解決するのが仕事である。--となると、すぐに思い浮かべるのはWOWOWで放送中の『コールドケース』。フィラデルフィア市警殺人課、女刑事リリー・ラッシュ、未解決凶悪犯罪となるではないの。(実際、作中にもこのドラマのことが出てくる)
しかし、これまたドラマとはかなりイメージが違う。『コールドケース』だと事件の話が出ると、すぐに当時の回想シーンが始まり、流行った音楽がバンバンと流される。気分はすっかり六十年代、みたいな感じだ。ヒット曲やファッションの再現がウリの一つで色彩豊かだ。
しかし実際には、再捜査には膨大な調書や証拠を探し漁り読み尽くさなくてはならない。極めてジミ~な作業である。関係者にまた話を聞きに行くにしても、みんな歳を取っている。『コールドケース』みたいにちょっとつついただけで犯人が簡単にゲロしてくれるわけはない。昔の迷宮入りの事件といっても、結局のところ「現在」の話に他ならないのだ。そういうことが、ヒシと感じられる地味さである。
従ってこれまで、同じシリーズにあったハードボイルド味はほとんどない。かなり警察小説よりだと言えるだろう。
被害者の家族や友人に話を聞き、古い証拠やアリバイを検討してもそれがうまく行くわけではない。派手な部分は皆無で、話の本筋にあまりつながらない枝葉末節やら寄り道やら失敗も出てくる。読み手によってはそういう描写は余計で退屈だと思うかもしれない。
しかし、私は読んでいて全体を通じて存在する何か流れ、というかうねりのようなものを感じた。そしてそれに乗ってあっという間に読み通してしまった。いくつかの部分は後戻りして、何度も読み返して味わった。音楽で気に入った曲を何回も聞き直すようにである。
下巻の途中では「ああっ、もう読み終わってしまう」などと名残惜しくなってしまったくらいだ。
やはりどうせ小説を読むならばこういうのを読みたいのう。単なる状況説明文のような小説なんて時間の無駄ムダ無駄(`´メ)。噛めば噛むほどスルメのように味が出てくる文章を心から望むのであるよ。
そういう意味ではドラマでは『ホミサイド』に一番似ているだろう。まあ、あの『ホミサイド』を引き合いに出すのはあまりにほめ過ぎかも知れないが……。あんなクセのある同僚の刑事たちは出て来ないしね。
それでも真実と虚無の狭間を歩む捜査官たちの寂寥感はよく似ていると思った。
それから、さっき枝葉末節が多いと書いたが、それはあくまで捜査上の話で、逆に捜査以外の話がほとんど出て来ないというのがまたオドロキである。ボッシュのヨメと娘の件もチョコっとだけだ。それ以外全くなしの一本勝負。
あと、ストーリーの本筋には関係ないが、人間の責任の取り方というものについて考えさせられた。自分の考えが原因で取り返しのつかない犠牲を出してしまった時にどう対処するのか、シミジミシミジミ考えてしまったよ。
不満なのはただ一つ、新たな上司たちがいい人っぽいこと。特に終盤に出てくる本部長の言葉には、ボッシュ、あんた丸め込まれてるんじゃないのと言いたくなったが、逆に見れば意味は似てても、ものは言いよう。部下にヤル気を出させる上司のその一言、として中間管理職の方々は参考にするといいかも(^○^)
ドラマといえば、『CSI』や『ロー&オーダー』の名も中に出てきて、しかも鑑識係が詳しく事件の様相を説明する場面も登場する。も、もしかしてコナリーも愛読ならぬ愛視聴してるのかしらん(^-^;
ま、CSI:マイアミだけは見てないのは確かだろうけどさっ。
過去2作の感想はこちら。
『天使と罪の街』
『暗く聖なる夜』
【追記】
2007年の週刊文春ミステリーベスト10にてめでたく海外部門第8位になりました。
が、「このミステリーがすごい!」では残念ながら21位以下の番外に(T_T)
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