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2007年10月28日 (日)

「キングダム/見えざる敵 」:血まみれの手でキャンデーをやる兵士

監督:ピーター・バーグ
出演:ジェイミー・フォックス
米国2007年

サウジアラビアで実際に起こった爆破事件を元にした社会派アクションである。町山氏のブログを読んで、マイケル・マンが大々的に関っていると知って、絶対見に行かなくてはなるまい!と鼻息も荒く思った次第。

冒頭、のどかな家族参加の野球大会が行われている。どこの国の話かと思うがいきなり銃撃戦と爆弾テロが起こる。ここら辺の畳み掛けるような展開はお見事。つかみはオッケーという感じだ。

しかし、その前のプロローグ部分で、サウジアラビアと石油と米国の関りが年表風に綴られるのを見れば分かるように事情は極めて複雑だ。
中東において最大の親米国にも関らず、イスラムの戒律はかなり厳しい部類に入る。昔、旅行した友人によると、たとえ外国人観光客であっても女は外出するのに、顔以外は隠さなければならないほどだという。

そういう矛盾から生ずる不満が彼の地に鬱積しているようだ。映画の爆破事件の光景はモデルとなった現場をそのまま復元しているらしいが、こんな事件が1996年に起こっていたということは、既に米国は火種をその当時から抱えてこんでいたことになる。
TV番組の「ドキュメンタリー・ナウ!」で、米国民は自国が海外で何をしているか知らないから、911事件が起こるべくして起こった復讐であるという事が理解できない、とあるゲストが語っていたのを思い出した。

映画の方はFBIの捜査官たちが手練手管を使って、国の正式な許可も取らずに現場に乗り込んで捜査しようとする。なんでCIAじゃなくてFBIが出張る?と思うが、彼らの意図は最後の最後に明らかにされる。
その後は、刑事物のある種の定番--というか、米国とサウジアラビア、全く出自も立場の異なる二人の捜査官がケンカしつつもなんとか協力して、事件解決に挑むというパターンに突入する。

前半は文化摩擦をちりばめ、後半はカーチェイスにド派手な銃撃戦、だめ押しのようにヘヴィな格闘シーン(スタントの方、乙!です)が続く。ここら辺はもはや職人芸の域に達していて素晴らしい。
その間、FBI側に全く弾が当たらないとか、いくらなんでも往来を女性捜査官があのカッコで出られないだろうとか、あれだけ投げ飛ばされたら一、二本骨折してるだろうなど、ツッコミどころは色々あれど、押しの一手で怒濤のごとく結末に向かうのであった。

と、ここまで見ると職人芸的娯楽アクションもの以外の何ものでもないように思える。
だが、どうだろうか? 上記のリンク先にあるように「911テロ以降のアメリカと中東の関係を、FBI捜査官と地元警察官との関係に置き換え」ているのだとしたら、捜査官たちの言動は全て米国の対外姿勢の隠喩に他ならない。

その最たるものは、J・ガーナー扮する女性捜査官が激しい銃撃戦の後で、近くにいた少女にキャンデーをあげようとする場面である。全身、傷と血まみれになっていて、しかもその原因は犯罪者とはいえ少女の同胞を殺したためである。その手でアメをさし出すのだからビックリ。私は最初、なんて無神経な行動だろうと感じた。そして同時に、このような場面を設定した映画の制作者の感性も疑りたくなった。

しかし、これが紛争地域での米兵の態度、さらには米国の対外姿勢を暗に表わしているとしたら相当な皮肉である。(自分が撃った少年を必死で応急処置する状況も同様)
一転、米国バンザイな能天気なアクション物のはずが痛烈な批判に変化する。この二重性こそが最大のサスペンスと言える。
その証拠にJ・フォックスの主人公が最後に大佐に語りかける言葉が内容とは逆になんと虚ろに響くことよ。その虚無は映画全体を覆い尽くしかねないほどだ。

そう考えると、雑誌「アエラ」に藤原帰一が書いてた映画評はあまりに表面的過ぎやしないかね? 以前、他の作品についてもやはりそう感じたことがある。こんなんだと、本業の方まで疑わしくなっちゃうよ。

映像はドキュメンタリー・タッチで手ブレが激しい。なのに、私はシネコンで新米の係員に非常に前の方の席を押しつけられてしまい(平日の昼間だったのでガラすきだったにもかかわらず)、目は回るは(@_@)何が映ってるのかよくワカランは、頭がクラクラして最悪だった!
これだからシネコンてヤツは(`´メ)
(以下、シネコンの悪口が500行続く)

……なので、ビデオが出たら再見することにしよう。

その他、役者では在サウジ米国大使館の公使役の人がよかった。端役の悪役なんだけど、調子良くって事なかれ主義の尊大な人物をうまく演じていて、なんだか見てて笑っちゃう。
あと、王室に金を流している石油会社の名前を実際に出してたのは驚いた。日本の映画じゃ到底できないことだろう。

それにしても、二人の捜査官とも主義主張人種宗教国籍の差に関らず、家族思いだというのが共通点だった。やはり今時のヒーローは家族を大切にしなくてはイカンのかのう。
とすれば、私σ(^-^;)はやはり最初の五分間で殺される悪者の下っ端あたりしかできないようだ。

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受信: 2007年11月 2日 (金) 21時32分

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