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2007年10月20日 (土)

「ガイサンシーとその姉妹たち」:不可視の女の実像

監督:班忠義
日本2007年

このドキュメンタリー映画のことを知ったのは
《P-navi info》
《Apes! Not Monkeys! はてな別館》
を読んでで、一度見てみたいのう、一般公開されないのかしらんと思っていたのだが、たまたま上映会があるのを知って行ってみることにした。
それを主宰した団体の性格もあるかも知れないが、来ている人たちの多くが団塊の世代よりも上の、もう完全リタイア生活をしているような年齢層(^^; 逆に二十代三十代は数えるほどしかいないのには正直アセッタ。しかし、みなさん元気いっぱい。将来の私にはとても真似できません。

この監督は中国人で、元々は中国残留日本婦人問題に関わりノンフィクション書も出している人とのことである。(朝日ジャーナル大賞ってなんか懐かしい)
これは彼がガイサンシーと呼ばれた女性について何年もかけて取材した映画だ。

彼女について色んな人が様々なことを語る。
*「ガイサンシー」とは「山西省一の美人」を意味する呼び名で、あまりに美人として評判だったので、日本軍が探しに来た。
*年下の少女たちと共に屋敷に閉じ込め、日本軍兵士たちの相手をさせた。彼女は優しくて、少女が呼ばれて泣いていると「かわいそうに」と慰めて身代わりに行ってくれた。
*彼女の幼かった娘はその間に餓死した。
*体を悪くし、担架に乗せられて彼女は村に戻ってきた。腹がふくれあがっていて、子宮から汚物が大量に出た。

このように村人たちは語るが、監督が取材に行った時は既に彼女は自殺していて本人には会うことはできなかった。
ガイサンシーはもはや不可視の女である。幾つもの証言もその実像を補うことはできない。そして語り手によって彼女の印象は大きく異なる。
また「妹」であった元・少女たちの話を聞くと、その後同胞の村人からもいい扱いを受けなかったことが想像される。
終盤で遠縁の女性が語る老いた彼女の晩年は極めてみじめなものである。手足も不自由になった中で、後遺症のために子宮から血を流し続ける。それを嘆いていたという。

映画は平行して当時同じ地区にいた日本人の元兵士たちにも取材している。その証言に対して、監督は一切コメントは付けていない。しかし、そこに浮かび上がってくるのは「支配者/被支配者」あるいは「女/男」の徹底的な立場の断絶だ。そこにはいかなる共通するものもないように思えるほどだ。

上映会の後で話した講師(直接、映画とは関係ない内容)は「慰安婦」という用語自体に問題があると語っていた。
確かに考えてみるに、「慰安」とはあくまで慰安される側にとってのことであり、慰安する(その行為を行う)側にとっては全く「慰安」ではない。しかし、その事に慰安させる側の自覚はない。そこに大きな断絶がある。
そして、自らの一時の「慰安」のために、他者に一生の苦痛を与えるというのは一体いかなることなのだろうか。大いなる疑問である。

ガイサンシーこと侯冬娥という女性の後半生の姿は苦痛によってのみ証言され、浮かび上がってくるように思えた。

ここ数ヶ月はドキュメンタリーを結構見たが、はっきり言ってこの作品は一番不器用な出来である。上映時間は短いが、途中でかなりタルい部分もあるし、編集もあんまり上手くはないようだ。上映会はDVDを直接映写したものだったんで、音声もよくなくて音楽がキンキンして聞こえた。
だが、それにも関らず一番テーマについて考えさせられた作品でもあったのは間違いない。観る者それぞれに想起し考えることは異なるかも知れないが……それもまたドキュメンタリーの一つのあり方だろう。

さて、なんと11月10月下旬から東中野ポレポレでめでたくも公開されるとのこと。興味のある方はどうぞ。

ところで、舞台となった地域はなんにもないようなえらい田舎である。で、日本軍のトーチカは切り立った山の崖っぷちみたいな所に作られていた。「こんな土地までどうやって資材を運んで建てたんだろう」と思って見てたら、なんと近隣の民家をブチ壊してそれで作ったとのこと。なるほどこれが「現地調達」ってヤツですかい(-o-;)


主観点:8点
客観点:8点

【追記】
一部訂正しました。

071021

←こちらは書籍の方です。

【追記】
書籍版の方の感想を書きました。

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