「グッド・シェパード」:男たちだけの冷戦マル秘史
監督:ロバート・デ・ニーロ
出演:マット・デイモン
米国2006年
どうも、スパイものは苦手である。それなのになぜ、このCIA創設期の物語を観てしまったのだろうか? 1000円の日に他に観たいものがなかったからだろうか、いや多分デ・ニーロの監督作だからということにしておこう。
主人公には実在のモデルがいるとのこと。大学在学中に秘密結社に入り、そのツテでCIAの前身にスカウトされ、戦時下のロンドンで色々ゴニョゴニョと秘密工作。その間、新婚の妻と赤ん坊は6年間放ったらかしたまま。
終戦後帰国するも、やはり家庭は顧みずCIA創設、さらにはソ連との情報合戦に邁進するのであった。
--というような話が地味ながら重厚に綴られていくのである。描いている時代が、あっち行ったりこっち来たりするが、混乱するほどではない。
見ごたえ充分、三時間弱の長丁場もあっという間に過ぎていく。観賞後はまるで※川書房の分厚い二段組みハードカバー・ノンフィクション『CIA裏史』なんて本を読みおえた感じだ。
地味ではあるが、豪華脇役陣が花を添えている。アレック・ボールドウィン、デ・ニーロご本人、マイケル・ガンボン、ウィリアム・ハート、ジョン・タトゥーロなどなどいずれも一筋縄では行かないメンツである。やはり監督の人脈で集めたんだろか。
途中出て来るイタリア系のオヤヂさんが、どっかで見た顔だがどうも思い出せんのう……(-_-;)と悶々としてたら、ラスト・クレジットでジョー・ペシだと判明。さすがにふけてましたなー。
一方、マット・デイモンも役者としての才能を十分発揮していたと思うが、いかんせんどう見ても成人した息子がいるような年齢には見えず。こりゃ困ったもんである。
秘密結社の勧誘から始まる一連の流れは、すべて男だけのホモソーシャルな繋がりによって作られている。敵対するソ連のスパイとの関わりですら、そうだ。
HIS-STORYとはよく言ったもの。ここに描かれているのは男たちだけによる近現代裏史である。
それを裏返して、この映画自体もまたホモソーシャルな関係によって出来ているように思える。その証拠に、A・ジョリー扮する主人公の妻が何を考えているのかさっぱり分からなかった。秘密結社を皮肉るような言動をするなら他から男を探せば良かろうと思う。単に兄貴の友人から適当なのを見繕ったというだけなら、愛だの家庭だの持ち出すのはおかしい。それこそ6年間も「亭主元気で留守がよい」で結構なことだったろう。そこら辺の明確な描写はなかった。
終盤の晦渋な主人公を眺めてたら、『エロイカより愛をこめて』で少佐が中佐に昇進した時に後任としてやってきて、悲惨なスパイの末路の話ばかり聞かせて部下たちをパニックに陥れた元スパイを思い出してしまった。まさにあんな感じである。
その他、背景に流れる音楽の趣味がよかった。
それから、タバコを吸う場面に必ず「肺ガンになる」という台詞を入れるのはなんとかして欲しい。私は嫌煙派だが、毎度毎度あまりのわざとらしさにイヤになる。あの時代はみんなスパスパ吸ってたんだからそのまま描けばいいじゃないか。A・ボールドウィンはどう見ても死にそうには見えんぞー。(^O^)
主観点:8点
客観点:7点
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