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2007年11月20日 (火)

モンテヴェルディ 歌劇「オルフェーオ」:竪琴を武器に冥府と戦った男

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指揮:寺神戸亮
演出:野村四郎、笠井賢一
演奏:レ・ボレアード
会場:北とぴあ さくらホール
2007年11月15・17日

北とぴあ国際音楽祭企画公演。
私が見たのは15日の方。本当はゆったりと土曜の17日の方に行きたかったが、仕事が入ってしまって仕方なくこちらにしたのだ。

今年は『オルフェオ』初演400年とのことで日本でも三回の公演が企画された。これはその二つめで、ヒジョーに期待していたものである。(一回目のムジカーザでの公演の感想はこちら)
演出には能の様式を取り入れるとのことで、さてそれが吉と出るか凶と出るか--。

編成を見るとかなり大がかりである。珍しい楽器もいっぱい。各方面から古楽系演奏者を目一杯動員したような感じだ。さらに、コルネット&リコーダーに濱田芳通も急遽追加出演。こちらのブログでは「業界筋では話題沸騰」とあるが……なぜ話題に(?_?) 一月公演のリーダーだからか? もしかして「敵情視察」も兼ねてでしょうか(^^) まあ、そもそも日本に限らず優秀なコルネット奏者は少ないからねえ。

その濱田氏が加わった冒頭のファンファーレも華やかで良かったが、その後に野々下由香里の「音楽」が登場。これが素晴らしい。キレイな巨大花くす玉(?)が登場した時にはもう気分はすっかり高揚していたのであった。

衣装はムジカーザ公演同様、望月通陽が担当。日本の室町あたり?を模したような完全和風デザインだった。舞台装置も能の舞台を踏まえたものになっていた。楽器の演奏者もお揃いの衣装だったもよう。

物語は有名なオルフェウス神話の通り進んでいく。エウリディーチェと結婚するぞ、嬉しいなランラン(*^^*)的なお祝いの場面はちょっと長い。モンテヴェルディの時代でも、何か歌以外の派手な要素が展開していたんじゃないかと想像しちゃう。

その後、新妻の突然の死の報がもたらされて一気に暗転する。その不吉な知らせを運んでくる使者が波多野睦美なのだが、その歌といい能風の所作といいまさにあっと目を奪うほどのものであった。一部の隙もないとはこのことだろう。
死を告げた後に悲嘆と共に彼女はすり足で退場していくが、それが哀切な響きの弦楽器と完全にマッチしている。まさしくこの瞬間にこそモンテヴェルディの音楽と能が融和したのを見たと言っても過言ではあるまい。

後半は冥界へとオルフェーオが乗り込んでいくが、その姿は竪琴を武器にして戦いを挑むといった風情である。
そもそも彼はほとんど唯一出ずっぱりな人物なのだが、その中でも冥界の渡し守を歌で説得する件は特に聞かせどころ……なんだけど、ムムム(v_v)
主役のジュリアン・ポッジャーはロン毛の二枚目で外見はもちろん、声質も甘美でタイトルロールに打ってつけ。しかし、いかんせん肝心のこの場面で一本調子でありかつ不安定な感じの歌に聞こえてしまった。でも、トーシロの耳なんで正直、歌の巧拙はよく分かりませんけど、ハイ。

彼の歌に心動かされた冥王の妃役で再び野々下さん登場。彼女が王にオルフェーオのことをとりなす様子は、愛妻のおねだり~♪みたいで愛らしかった。
もっともムジカーザ公演で同じ役を波多野さんがやった時は、過去の悪行(冥王プルトーネは彼女を誘拐したんである)を蒸し返して「あなたに彼をとやかく言う資格がありまして?」と責めるようなコワイお妃風だったんで、こうも違うものかとまたも感心。

主人公が後ろを振り返ってしまった後、黒子たちに引き離されるという演出はよかった。
歌の中で語られている通り、彼は竪琴を武器に冥界に戦いを挑み、それに打ち勝ったものの自分自身には勝てなかったのである。

終幕、妻を連れ帰るのに失敗、ブチ切れて周囲に八つ当たりするオルフェーオの元に父アポロが出現。嘆き怒る彼を見かねて天上界へと連れていく。ここで一転、舞台上はお祭りモードへと変わり、野村四郎が能面と装束を着けて祝祭の舞を踊るのであった。
以前見たパーセル・カルテットが中心となった公演では、主人公は掟を破ったために罰としてアポロから死の制裁を受けるという演出になっていた。単純そうな話でも、解釈は幾通りでもあるのだなあと改めて思った。

不満な点は上に書いた通り3幕めのJ・ポッジャーの歌と、前半での群集(コーラス)の動きの扱い。なんだか、割合どこの芝居でもみるような定番の動きだったんでもう少しなんとかして欲しく思った。
とはいえ、全て終わってしまえば満足~ \(^o^)/ 神話やファンタジーの大いなる情動や幻想性を感じられた舞台だった。
ステージ見て、字幕見て、聞き慣れない楽器の音がする度にオーケストラピットをのぞき込み(と言っても三分の一ぐらいしか見えない)、また歌手を注視--というのもなかなか忙しかった。
それにしても北区民の皆様のありがたい税金のおかげとはいえ、これほどのプロジェクトがこれきりなんてもったいない。確かに海外に出したら大いにウケそう。せめてNHKが収録して全国放送して欲しかったぞ。

客席の方には鈴木兄弟、渡邊順生、有田正広、さらにドナルド・キーンもいたそうな。日本の古楽関係者で、ピットに入ってない残りの者は全て客席にいたらしい(^^)
もっとも、私はボーッとしてして客席の方には全然気づかず、ただ一人発見したのはホールの出入口の外にいたクルリン巻毛の二枚目白人男性……といったら、「スパラの貴公子」バディアロフ氏ではにゃあの!
私はただちに「きゃー、バディさま~」と叫んで突進しバシャバシャ、ケータイで写真を撮りまくり--なんて事はしなかったですよ、もちろん。

来年のテーマは「魔法」で、企画公演はまたハイドンですか。うーむ、ビミョー。

【関連リンク】
「北とぴあ「オルフェーオ」の感想リンク」
ありがたやブログ上の色々な意見がまとまっています。結構、賛否両論だったんですなあ。

読んでみると、ポッジャー個人や演出についてもほめる人ありケナす人ありと両極端。
また、そもそもバロックオペラを誤解しているような意見もある。近代以降のオペラとは感情表出の方法自体が違っているのだから、感情がこもってないとか言われても困るんであるよ。
あと、濱田氏のお弟子さんと見られる方のブログがかなり辛口の意見を書いていて、ごもっともと思われる点もあるが、今回の出演者の何人かは一月の公演にも出るんだよね……。その時には、指摘された欠点も修正されていると大いに期待しよう。で、エウリディーチェ役の人は退場の時に最後まで気を抜かないように、というのが結論でよろしいかな。

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なお、最後に音楽祭全体についてイチャモンを一点。どのような経緯で参加公演を決めたりするのか分からないが、全てのチケットを入手できるのが北とぴあの窓口だけというのはなんとかして欲しい。北とぴあ行けなければ、個々に主催者に連絡取らなきゃなんないというのは、ちとキツイのよ。


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