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2008年1月20日 (日)

「フレンチ・コネクション」:追跡劇率70%、主人公凶悪度100%

監督:ウィリアム・フリードキン
出演:ジーン・ハックマン、ロイ・シャイダー
米国1971年
*ビデオで再見

『ボーン・アルティメイタム』を観た時にネット上の感想を眺めていたら、「ドキュメンタリー風のアクション映画が初めて登場した」なんていう意見を見かけた。
しかし、私は「はて、元祖ポリス・アクションの『フレンチ・コネクション』がそもそもドキュメンタリー・タッチじゃなかったっけ?」と疑問に感じたので、古いビデオを引っ張り出して久しぶりに見てみた。

製作年度は1971年、日本公開は翌年である。アカデミー賞で作品・監督・主演男優・編集・脚色賞という王道部門を受賞。まさしくその年のムーヴィー・オブ・ジ・イヤーだったわけだ。
久しぶりに見ると、ジーン・ハックマン若い! まだ顔がツルツルしてるし髪もフサフサしている。--てなことはどーでもいいですね、ハイ。

『ボーン~』で私は追跡劇ばっかり続いて飽きた、なんてケチをつけたわけだが、こちらを見直してビックリ(!o!) なんと冒頭の4分の1以降はほとんど追跡劇の連続なんである。
まず、刑事二人が夜のクラブで怪しい男女をみかけて車でこっそり尾行。それから張り込み場面などが間に入って、今度は徒歩でニューヨークの街中から地下鉄のホームと車内での尾行する。ここは後年の映画でもかなり引用されているはず。
続いて映画史上名高い高架電車を車が追いかける壮絶なカーアクション。後にジェームズ・キャメロンが「どうやって撮ったのか分からない」とインタヴューで評していた。
ラストは廃工場?での追跡と撃ち合い。工場のような場所での追いかけっこは今では珍しくなくなってしまったが、この映画で舞台になっているのは後の廃墟ブームを先取りしたような不気味な場所だ。
いやはや手を替え品を替え、よくもこう追跡劇ばかり続けたもんである。しかし、いずれも手に汗握り、ハラハラしてしまう。
終盤に少しだけ銃撃戦が入るが、それも見事なものだ。

当時はステディカムなどない時代だから手ブレ風揺れる画面などほとんどない。にもかかわらず全編ドキュメンタリー・タッチが横溢している。
それはカメラの向こうの対象の突き放し具合である。登場人物の内奥や心理の描写など一切ない。どころか、中心である二人の刑事がどういう生活をしているのかとか、どんな出身かなどという背景の説明もない。ハックマン扮するポパイの私室は登場するが、ロイ・シャイダーの相棒に至ってはなんにも出て来ない。

ポパイは極めて暴力的で、人種差別的言辞を吐き、訳ワカンナイことを言って犯罪者をビビらせるが、彼が果たして警官としての職務に燃えて暴力を振るってしまうのか、それとも単に暴力好きだから暴力的なのか、何一つ描写はない。観客は映像を自分の眼で見てそこから判断するしかないのだ。(だから、ポパイがどうにも受け入れられないんでこの映画も嫌い、という意見が見受けられる)
そういう意味で極めてドキュメンタリー的なのである。

また、うるさくて汚い街の雑音を大きく拾っている(同録?)のも寄与しているかも。場面のほとんどで音楽よりもデカく聞こえるぐらいだ。
また、フリードキンは後の『L.A.大捜査線』でLAの街を小汚く撮っているが、こちらのニューヨークも小汚い。汚い街を撮らせたら右に出る者はいないくらいだ。

ポパイのキャラクターは今だったら絶対に主人公にならないだろう。やはり家族を愛し子ども好きで--みたいじゃないと今時の主人公は勤まらないのよ。
それに当時はニューシネマもあったし、アンチヒーローの類いが流行っていた。『ダーティハリー』も同じ年の製作である。

ラストはオープンエンディングというか何がどうなったのかよく分からないようになっている。これがアクション・エンタテインメントの形式をブチ壊していて素晴らしい。自らの暴力性に突き動かされ混沌の闇に消えていった男の行く末を象徴している。
だが、ヒットしたのにこの終わり方はなかろうという意見多数だったのか、続編が作られた。監督はフランケンハイマーでもちろん出来に文句は全くないが、「続編」と考えると余計なお世話、であろう。

有名な高架電車と車の追跡劇は、無許可でゲリラ撮影したそうである。ええーっ!てな感じだ。だって、反対車線走ってるよ……。
また、その最後に電車が脱線しないのがいくらなんでもおかしい、ということでこの作品の唯一の欠点のように言われて来たが、〈allcinema ONLINE〉の感想の中に、ATSが働いて減速したが完全停止する前に衝突したのだから脱線しなくていいのだ、という書込みがあって感心した。恐るべし、鉄道マニア。

私が最初見て意表を突かれたのは、狙撃された後のビルの窓に小さい子どもが二人覗いている場面である。これには驚いた。これは演出か、それとも偶然なのだろうか。どちらにしてもスゴイの一言だ。

--などと思ってたら、DVDには監督と主役二人のコメンタリーが入っているという。くそ~っ、金もヒマもないのにまたも物欲がーっ ω(T_T)ωメラメラ
でも正直なトコロは、デカい映画館のスクリーンで一度見てみたいもんである。

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コメント

初めまして。
興味深く、楽しく拝見させて頂きました。
ボクも今作のレビューを書いておりますので、TBを貼らせて頂けますよう、お願い致します。

投稿: マーク・レスター | 2008年9月 6日 (土) 17時31分

あっ、どうも~(^^)/
TBの類いは記事内容に関係していれば事前に連絡ナシで結構ですよ。
ただスパムとか広告はビシバシ削除させて頂いておりますが。

投稿: さわやか革命 | 2008年9月 6日 (土) 23時22分

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