「勇者たちの戦場」:「内向き」の正義
監督:アーウィン・ウィンクラー
出演:サミュエル・L・ジャクソン
米国2006年
年末から年の初めにかけて「時間差二本立て」(?)で銀座シネパトスにかかった後半の作品。前売券がどちらの映画でも使えるようになっている。てっきりイラク戦争ネタのアクション物かと思っていたら、どうも違うようなんで行ってみた。
邦題は内容的に逆だろう。「勇者たちの帰郷」が正しいんじゃないの。ある意味米国では定番となった帰還兵の帰還後の軋轢を描いた作品である。
冒頭、医療支援のため米軍基地から出た一隊をテロリストが襲撃。激しい戦闘の結果、死人や怪我人も出る。
物語はその中の四人の帰還後の、周囲との葛藤が中心となる。彼らは精神的肉体的にもダメージを受けているが、帰国してみれば本国での日常はのほほんと変わりなく続いている。これは耐え切れないことだ。その怒りは外部あるいは自分自身へと向かう--。
中でも、サミュエル・L・ジャクソン扮する軍医の家庭の場合は、帰還した側、迎える家族の側双方の立場に立ってそれぞれ描写されているので、どちらの心理も分かって観ていて息苦しくなっちゃって救いがない。思わず座席の上でモゾモゾ体を動かしちゃう。
他の3人のケースも同様。また演じている役者がみな上手いんで余計に感情移入してしまうのが、観ていて難だ(-o-;)
奥さん役の女優さんがどこかで見た顔だと思ったんだけど、どうにも思い出せず。
ラストは一応救いがあるような形になっているが、なぜか戦争という社会的な題材を扱っていながら、全ては個人の感情の問題へと収束されていく。個々に悩み、個々に解決するしかない、とでも言いたいようだ。つまり「カウンセリングを受けなさい」ということである。
軍医と息子の会話に政治ネタは少し出てくるが、結局は政治的・社会的な問題はきれいに「スルー」されているのだ。
そして結論は「みんなに歓迎されずとも正義のためなんだから、必要とあればまた戦う」では、あまりになんだかなあ……。どうも全てが内向きなんだよねえ。
役者も演出も題材も文句はないんだが、ここに描かれている主張だけはどーにも受け入れがたいという困った映画である。
堤未果の『アメリカ弱者革命』という本によると、2004年の段階でイラクにいるアメリカ兵の6人に1人が重度の精神障害を持っており、これから精神的治療が必要になる兵士は10万人を超すとのこと。それも帰還兵用の施設は順番待ちで一年待たなければならないが、治療には35年かかったりするのだ(映画の中にも、ベトナム帰還兵でいまだにカウンセリングを受けている男が出てくる)。
さらに米国内のホームレス350万人のうち50万人が帰還兵だとのこと。もはや、立派な社会的問題である。
また、この作品で登場するのはみな成人だが、実際には高校卒業時の何も知らない若いモンを軍がリクルートするパターンが多いらしい。除隊後は大学行けるとか、実際に戦場へ派遣される確率は低い、とかウマイことを言ってだまくらかすそうな。こりゃ、国家的詐欺ぢゃないの。(@∀@)
そういうことを合わせて見るとますます気が重くなるのであった。(~_~;)
そして、都市伝説並みに茫漠たるウワサになっている、かの地に派遣された自衛隊員の物語もいつかこのように虚構の形であっても知ることができるのであろうか?
ところで監督のアーウィン・ウィンクラーって色んなタイプの作品なんでもござれってやってるんだねえ。前作はコール・ポーターの伝記『五線譜のラブレター』だもんな。しかもその前にプロデューサーとしての経歴が長く、映画史に残る錚々たる作品を扱っている。年齢は80近い? いやはや元気である。
主観点:5点
客観点:7点(役者の演技に1点プラス)
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コメント
こんにちは。私もこの作品観ました。
地味ですけど、心に染みる作品だと
思いました。
投稿: Yakoha | 2008年1月23日 (水) 20時41分