「わたしいまめまいしたわ」:キュレーターはそんなに偉いんか
現代美術にみる自己と他者
会場:東京国立近代美術館
2008年1月18日~3月9日
タイトルは見れば分かるように回文になっている。いかにも面白そうではないか。
で、実際行った結果は……(~_~;)
五人のキュレーターが近美の所蔵作品やお仲間・ご近所の美術館から借りてきた作品で、自己と他者に関する7つのコーナーを作成、展示するという趣向である。
コーナーの入り口にそれぞれ説明文(結構長い)が掲示されているんだけど、これがまた読んでてもよく意味がワカラン代物。読んでも読まなくても作品理解に関係なし、みたいなもんだ。
「スフィンクスの問いかけ」というコーナーにはF・ベーコンの醜悪なスフィンクス画と舟越桂の両性具有の立体作品の2点だけ並べられている。いや、確かにスフィンクスに間違いないしそれぞれキョーレツな作品ですけど、それが何か?と言いたくなっちゃう。
それにしても、舟越桂のスフィンクス像は相当にエロいね。ずっと最後までこの路線で行くつもりかしらん。
以下、ランダムに目を引いたのを挙げていこう。18枚の油彩の連作「monos」(村上友晴)は黒と赤による混沌の海を描いたような作品が徐々に黒に覆われ、やがてまた別の何かの色彩が胎動し始めるような過程をたどっていく。絵具の塗り重ね具合が神秘的。
草間彌生は巨大作品が2点あったがいずれも偏執的というか執念を感じさせる反復具合である。もっとも、反復と言えば澤田友子の様々なキャラクターに扮した肖像写真(というより証明書用写真か?)も偏執的反復度においてはかなりなもんだった。
河原温の日付絵画はもう色んなところでさんざん見てきたものだが、今回ビックリしたのはそれとセットになって保存されている同じ日付の新聞記事。1988年の7月27日で「自衛艦捜索続行するも見つからず」みたいな見出しがデカデカとある。な、なんと「なだしお衝突事件」の記事なのであった!
見に行った日は例の漁船衝突事故からまだ数日後ぐらいだったんで、しげしげと眺めてしまった。この展覧会の会期は1月からだから、既にその時から展示してあったはず。とすれば、あまりにあまりにもな偶然……(>y<;) も、もしかして予知現象(?_?;
真っ赤な色彩でひときわ目を引くのは斎藤真一「上河原の陽」である。観音開きになっている形からして宗教画のようだが、大勢の女たち(瞽女または遊女?)が河原で泣いたり叫んだりトランス状態になったり、さらには昇天していく者もいる。それがすべて真紅で塗られているのだから目を刺すようである。これは何か実際の出来事を描いたものなのか?知りたくなってしまった。
そして、最大の収穫はマックス・ペヒシュタインというドイツ表現主義の画家の版画連作「われらの父」であった。ここでキュレーターは死の表現と文化が国によって違うことを示すために、アメリカの写真家が1930年代に撮影したメキシコ人の肖像やキリスト像の写真を同じ大きさと枚数で対置して並べてあるのだが、どう見ても
ペ ヒ シ ュ タ イ ン の 方 が 、 変 !
なのであった。
よく知られている「天にまします我らの神よ……」の祈りの文句をそれぞれ版画の中に一行ずつ書きこんで描いた宗教画のはずなんだが、冒頭に出てくる神様が同じ「神」でもどっちかというと「大魔神」のよう。「罪人どもは頭から食ってやるぞ、ゴルァ」みたいな恐ろしさ&パワーなんである。その他も、強烈なまでに野蛮にして土着性・異教性が感じられるものばかりだ。メキシコ人たちの肖像がどちらかというとザンダー風の淡々とした視線の写真だからまた対比が大きい。
私はあまりの「変」さに嬉しくなってしまって何度も行ったり来たりして見てしまった。アヤシイ奴に思われたかも。
結論としては、なまじな「企画」なんかよりも個々の作品の力が完全に大きいということを実感した展覧会だった。キュレーターが百万言費やしても作品のパワーには勝てないのさっ。
さて、所蔵作品展の方では新しい日本画の作品である三瀬夏之介の「奇景」というのがド迫力であった。
大仏らしきものをシワシワした和紙に描いた巨大な作品なのだが、その仏さんが土に埋もれているんだか、それとも地上の都市をブチ壊して地下から出現しつつあるんだかよく分からないが、これまた「変」なのは確か。
で、私にしては珍しく図録を買って帰った。置き場所がないので滅多に買わないことにしているのだ。しかし、斎藤真一の絵のいわれが知りたいのと、ペヒシュタインの版画をじっくり眺めたいと思って買ったのである。
が(!o!)またもここで裏切られた。図録には会場に掲示されていたコーナーごとの解説文が転載されているだけで、なんの解説もつけられてなかった(監視係のおねーさんに質問すればよかったよ)。さらに、ペヒシュタインの作品は全点掲載されていなかったのである!なんてこったい(>O<) どうでもいい幾何学模様入れるぐらいなら作品全点載せてくれよう、ムカムカ。
【関連リンク】
《弐代目・青い日記帳》
先にこちらを読んでいれば、行かなかったかも……。
「版画だってここまでサイケになる?」
別の展覧会で、やはりペヒシュタインの作品を見て「感動」した記事。下の方に画像があります。こ、この神様確かに「爆発」です
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コメント
こんにちは。
自分も期待して行ったので
この展覧会には失望させられました。
投稿: Tak | 2008年3月20日 (木) 09時46分
わざわざコメントをどうもです。
せめて図録はちゃんと中身を確認してから買わないとダメですねえ……。
投稿: さわやか革命 | 2008年3月20日 (木) 12時05分