「コントロール」:凡人はただ聴くのみ
監督:アントン・コービン
出演:サム・ライリー、サマンサ・モートン
イギリス・米国・オーストラリア・日本2007年
ジョイ・ディヴィジョンのアルバムは買ったが(とっくに解散した頃に)あまりよく聞かないまま終わってしまった。それより、後身のニュー・オーダーの方をよく聞いてたのだった。
私がニュー・ウェーヴの類いをよく聴くようになった時には、イアン・カーティスは既に「早世の天才、悲劇のヒーロー」的な扱いを受けていた。米国ツァーの直前、23歳で自殺!……ロック界ではカート・コバーンの事件が起こるまで、その手のイコンとして一番に取り上げられる存在だったろう。
で、当時はMTV勃興前で彼らの映像も見たことないし、ニュースもろくに伝わって来ず。当時どんなだったんだろうと一端でも分かればと、ロック者の好奇心で見に行ってみた。
原作はイアンの奥さんが書いた本。さらに彼女は共同プロデューサーにも名を連ねている。そのためか、物語は二人が知り合った高校生の時から始まり、家庭内の出来事が中心になっている。
監督は写真家で、ヴィデオ・クリップの監督としても有名なアントン・コービン。当時、クリップの監督してた者は大抵長編映画の監督業へ進出していったから、彼もてっきりそうだと思ってたら、なんとこれが初監督作だとのことでビックリした。
映像はモノトーンで、英国の田舎町の鬱々とした風景や物語の内省的なイメージをよく表わしている。
またライヴ場面も素晴らしい。特にイアン役のサム・ライリーは神がかり的で迫力あるパフォーマンスを見せてくれる。
開始直前にステージに立つことができなくなってしまった彼の代わりに、マネージャーが別のバンド(前座?)のヴォーカリストをはした金で釣って、歌わせようとする場面があるが、確かに代役なんかじゃ効かないレベル。私だってビール瓶投げたるぞー。
それにしてもマネージャーいい加減過ぎ、ようやるよ 思わず笑った。
とはいえ、かような内幕話はほんの少し。ほとんどは、妻と愛人との三角関係の板挟みや持病に悩むといった私生活の話が中心だ。しかも、人気が上がると共に若くして結婚した糟糠の妻に飽き足らず、ギョーカイ関係で知り合ったキレイなねーちゃんにうつつを抜かす--って、こりゃ古今東西どこにでも転がってる話じゃにゃあですか。
加えて、脚本面が今イチ冴えず。例えば、バンド結成の直前に他のメンバーがイアンを「変わった男だ」と評する場面があるのだが、どこが変わっているのか分からない。それまでの彼の描写は普通にロックに憧れる若いモンの標準的姿以外の何者でもないからだ。
結局、彼が自殺に致った経緯はよく分からなかった。天才の内奥は知る由もなく、また死に向かう男の心情も推測不能。のうのうと生きるしかない凡人はただ音楽を聴き続けるだけである。
とはいえ、これを才能のある男の話ではなく、普通人だとしたらどうだろうか。妻を愛しているが愛人とも別れられない。子どもと家庭も必要だ。大きなプレッシャーは耐え切れないが、成功は欲しい……これじゃ、ただのDQN男だよ。
ということで、才能のないヤツは真似しないように。
当時のファクトリー・レーベルの周辺は似たようなバンドがウヨウヨしていたはずだし、金やら利権やらビジネス上の問題から定番の酒・ドラッグがらみの乱痴気騒ぎまで、色んなトラブル要因があったはずだと思うが、そこら辺はほとんどスルーされて物足りなかった。
というわけで、映像とライヴ場面と妻役のS・モートンの役者根性だけが突出した作品と結論したい。
他のブログを見てみたが、映画関係での感想はあまりなくてロック系のブログの方がよく取り上げていた--という事もこの作品の性格を表しているかも。ジョイ・ディヴィジョンをのめり込んでリアルタイムで聴いていたのは、私より数歳年下の世代だと思うが、そういうリアルタイムのファンの感想は発見できなかった。
まあ、そのぐらいの世代はブログなんかあまりやってないか。そういや、映画館の客席もほとんど若いカップルばかりで、オジサンオバサンの姿はなかった。私ともう一人いたぐらい。
ニュー・ウェーヴも遠くなりにけり、ですかな。( -o-) sigh...
主観点:7点(ライヴ・パフォーマンスに)
客観点:6点
【関連リンク】
「映画「コントロール」から振り返る、ジョイ・ディヴィジョンの軌跡」
タワレコのフリーマガジンの記事から。
《こんな映画は見ちゃいけない!》
まさに「禿同」な感想。主人公の内心はセリフとして表出されているのみ。それを理解するのは難しい。
《端倉れんげ草》
作品の感想部分の「上手いからバレるかも。」に爆笑しました。そんなに下手だったんかい……
←物置の棚から引っ張り出してきた。100年後も残したいデザインですな。やはりLPジャケットサイズでないと。
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