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2008年4月 7日 (月)

「ノーカントリー」:死神(の影)を見た男の話

080407
監督:ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン
米国2007年

先日のアカデミー賞では最多4部門を獲得、今期話題度第一位の作品が他の受賞作の先陣を切って登場。私が見て回っている映画系のブログでも鑑賞率が抜群に高い。
さて、私はコーエン兄弟の作品については第一作の『ブラッド・シンプル』が今イチだったんで、その後映画館では見ていなかった。『ファーゴ』をレンタル屋で借りたぐらいである。

で、結論から先に言うと、かなり気に入った~(^-^)/

冒頭のテキサスの原野の荒涼たる広がり--美しくはないけど、寂寥感がドーンと迫ってくる。シネコンでは大画面の部屋でやってくれてたんで(客は十数人ぐらいしかいなかったが)その映像を堪能できた。こればっかりはTVモニターなんかでは感じられないだろう。
その後の、金を盗んだ男が現場で見つかって逃走する件りも、深夜から徐々に早朝へと空が変化していく様相をとらえてお見事。

三分の二ぐらいまでは200万ドル持って逃走する男と殺し屋の追跡と死闘が詳細にこれでもかっ状態で描かれる。また、この殺し屋が几帳面かつ偏執的で不気味なヤツ。
さらにツーテンポぐらい遅れて二人を老保安官が追いかける。
ところが残り三分の一では、肝心なところの顛末がハッキリとは描写されない。誰が誰を殺したのか?とか、そもそも金は一体どうなったのか?--よく分からない。とんだ肩すかしだ。最後まで見て怒る奴がいても仕方ないくらいだろう。
そして、唐突なエンディングに至る。
もっとも、その「省略」が逆に緊張感とスピード感と、そして荒廃した暴力を感じさせる要素でもある。

しかし、それらのエピソードの冒頭と結末をくくっているのが老保安官の語りである以上、この物語の主人公は彼ということになるだろう(画面占有率は低いにしても)。
彼は捜査官としてプロファイラー的な面も持っていて、殺し屋と同じように牛乳を飲んで同じ椅子に座って、一度も会っていないにも関わらずその本質を見抜く。
恐ろしい暴力の連鎖に、昔はこうではなかったと彼は嘆くが、しかし1909年のやはり陰惨な事件の話が途中で語られるからには、その暴力性は連綿と過去から受け継がれてきたものに他ならない。

最後の彼の夢の話には色々な解釈があるだろうけど(観た観客の数だけ)、私は死への諦念だと解釈した。彼は死の尾の長い一端がかすめ去っていくのを目撃したのであろう。

それと同時に感じるは、金の恐ろしさよ。冒頭、200万ドルの札束を見て男の人生は完全に狂い、終盤では500ドル札一枚によって少年は急にがめつく変貌する。まるで伝染病のようである。


他に特筆すべきなのは、音の使い方がコワイ(>ω<)ということ。あのボンベのスコーンという音やら、殺し屋の靴下だけで歩く音、さらには深夜のホテルにこだまする電話のベル……。

かように映像も音響もセリフも練り上げられていて、しかも中心人物を演じる3人の役者の演技は見事だし(ウディ・ハレルソンだけは高速で通過してったが(^^;)、その上に今日びの映画にしては珍しく不親切な描写が多くて、どれかの要素に気を取られてると別の方がお留守になって大事なことに気づかずに過ぎてしまう可能性が大。一瞬も気を抜けない。
ということで、見逃した部分をチェックするためにDVDが出たらまた見てみることにしよう。

ネット上の感想は賛否両論だが、ほめている人でもその解釈は千差万別。『パンズ・ラビリンス』ほどではないが、いかようにでも解釈が可能な作品なのだろう。
私が観ていた時にはカップルが数組いたが、金曜の夜のデート・ムービーとしては最悪じゃないの。二人とも映画ファンでない限り避けるべしよ。


主観点:8点(私の方の集中力が切れてたんで)
客観点:8点


【関連リンク」
《★YUKAの気ままな有閑日記★》
私も最後の夢の話をボーッと聞いてたんで焦りました。後で必死に思い出そうとしたりして。似たような人が結構いたんだと分かってホッとしちゃったぜい(;^_^A

《古今東西座》
いくつか殺し屋の似顔絵を描いていたブログがありましたが、ここのが一番雰囲気が似ていて笑えました。なんかボ~ヨ~としている所かな。

《ノラネコの呑んで観るシネマ》
当時の社会的背景が分かります。

《ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記》
保安官の夢の意味の解釈あり。完全ネタバレなので観賞後に見ましょう。

【追加】
《キネマ徒然草》
読むと、この映画に関するモヤモヤした感じの一端がハッキリしたような気になりました。私も9点をつけるところまでは行かず……。

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コメント

キネマ徒然草の管理人kojirestsです。先日はコメントとトラックバックありがとうございました。

こちらもトラックバックとコメント残しておきます。

又遊びに来てくださいね(^^)!私も遊びに来ます。。

投稿: kojirest | 2008年4月16日 (水) 00時42分

こちらこそ、わざわざおいで頂き、どうもです(^^)/
「フィクサー」も観賞後に読みに行かせてもらいます。

投稿: さわやか革命 | 2008年4月17日 (木) 07時13分

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