「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」:金太郎飴の如く彼は出現した
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス
米国2007年
これまたオスカー・ノミネート8部門で第一集団にいた作品。私にしては珍しくほとんど制覇したぞ(さすがに『ジュノ』は見る気ないが)。
もっとも、あまり期待してはいなかった。なぜなら、監督のP・T・アンダーソンには今まであまり感心しなかったからである。『ブギーナイツ』はまだ「ふーん」という感じだったが、『マグノリア』はカッコだけつけてるような印象が前面に出て、どうして世間であんなに評価が高いのか理解に苦しむところだった。
しかし、今回はその意味では予想を裏切ってくれた。158分という長丁場を退屈せずに見ることができた。
物語は文字どおりの「山師」の話である。金鉱掘りから始まって石油の採掘へ--恐らく、20世紀初頭の米国には一攫千金を狙うこういう人間がウヨウヨしていたのであろうと思わせる。
だから宣伝文句にある「アメリカン・ドリーム」とか「怪物」という言葉は全くあてはまらないだろう。
欲の皮の突っ張った人間など米国に限らず地球上の至る所に存在するし、他人どころかたとえ親族からでも騙して金をむしろ取ろうと虎視眈々と狙っているヤツも珍しくない。また、とある雑誌の批評に、主人公が油田の事故の時に怪我した子どもがすがりつくのを放り出して現場へ駆けていったのが「怪物」的だと書いてあって目がテン(・o・)になってしまった。
この世の中には、仕事のために妻子を顧みない男などゴマンといるし、富や権力を得るためなら平然と家族を売り飛ばすような奴だっている。
なに?自分の周囲にはそんな人間はいないって それはあんたが幸運なだけだろう。
そのような欲望を全く何のてらいもなくストレートに描いている。
正直なところ、この主人公には共感も理解も出来ない。特に金の亡者というだけでなく、極めて粘着気質というか偏執的な部分がある。これは異常なほどだ。
取り引きの際に息子のことを言及したライバルの石油会社の者に、ネチネチと因縁を付ける(それも子供じみた方法で)のは常軌に逸しているし、突然現れた弟に対する行為も「そこまでやるかー」である。
カルト教会の牧師との長年にわたる反目も同様だ。その経緯も結末も全く理解不能である。
しかし、理解も共感も出来なくとも納得してしまうのは、ひとえにダニエル・デイ・ルイスの力演があるからだろう。彼の演技には説得力あり過ぎである。
それから映像の迫力もすごい。荒野や岩山などの荒涼かつ広大な風景や、油田から吹き出す巨大な炎(CGなんだろうけど)も壮絶である。思わず見とれてしまった。
音楽は前評判が高かったが(アカデミー賞ノミネートを逃したのは、J・グリーンウッドが過去の自作曲を使ったのはイカンとイチャモンをつけられたためとか)、ちょっと音量デカ過ぎでうるさかった。効果音が聞こえないほどっていうのはどうよ(?_?; もっともそれは監督の意向だそうだが。
ただし、ラストのブラームス(でいいんだよね?)の使い方は非常に皮肉っぽく、かつ意表を突いていた。
問題はダニエル・デイ・ルイスがあまりにこの映画と一体化していて、まるで金太郎飴のようにどの場面を取っても出ずっぱり、この中から彼を抜いてしまったら何が残るのかと思える事だ。
『キング 罪の王』でも好演していたポール・ダノが神父役で健闘しているぐらいだろう。
従って、獲得したのが主演男優賞と撮影賞だけだったのは真っ当な結果だったかも知れない。
ただ、以前同様ちょっといい加減な部分もある。冒頭で脚に怪我をした主人公が仰向けに這って行って、金の交換所(?)でもそのポーズのままというのは、執念でそこまで自力でたどり着いたということだろうが(側に担架とか無かったようだし)、あんな岩山這っていったら10メートルも行かんうちに血だらけになっちゃうと思うが……。
それだけ欲の皮が突っ張ってるから大丈夫ってことか(^^? まさか
主観点:9点
客観点:7点
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《エンターテイメント日誌》
なかなかにキビしい批判ですが、基本線では同感です。
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