「敵こそ、我が友 戦犯クラウス・バルビーの3つの人生」:立っている者は敵でも使え
現代史の裏街道を3つの顔を使い分けて生きぬいてきた男のドキュメンタリー。こんなヤツがいたのかと見ればビックリ(!o!)は必定である。
形式的には証言者のインタヴューをつないだもので、それ以外の映像は終盤の裁判ぐらい。極めて地味な作りになっている。従って、派手な展開を期待してはイカンよ。(あっ、でもゲバラの処刑後の死体とか短いのは色々映像がありましたなー)
「主人公」クラウス・バルビーはまずナチの親衛隊としてドイツ占領下のフランスで、ユダヤ人の収容所送りを指揮し、レジスタンスのリーダーを逮捕して拷問死させた。
終戦後は逃走してソ連との冷戦下で役に立つ人材を求めていた米国陸軍情報部に拾われ、対ソ諜報活動に従事。
戦犯として引き渡しを求められると、米国陸軍は皮肉なことにユダヤ人の偽名を与えてボリビアへと亡命させる。
そこで軍のクーデターに関わり軍事政権下で企業家として財産を築き、さらに当時潜入していたチェ・ゲバラの殺害にも関与していたとか。
第二次大戦以降の歴史の暗黒面の至る所に登場するこの男の人生を小説化すれば、まさに暗黒版『フォレスト・ガンプ』にでもなりそうである。
しかし、問題なのは彼が追求されて裁判になった犯罪行為はドイツ占領下のフランスで行ったものだった。しかし、親独政権はフランス現代史の汚点というべきもの。触れるとヤバい事項なのであった。つまり、追求し過ぎれば自らに返ってくるというわけだ。
それに、指導・指揮しただけなのではなく、直接手を下したのかというのも微妙な問題である。しかしながら、家族を収容所に送られた人や拷問された人にとっては許せるもんではないだろう。
「皆が私を必要としたのに、裁かれるのは私ひとりだ」とは極めて皮肉な本人のセリフが紹介される。
まっこと歴史とは白と黒の部分ではなく、むしろ膨大なグレーゾーンによってこそ成り立っているのだなあと、なぜか感心してしまうドキュメンタリーであった。
監督は『ラスト・キング・オブ・スコットランド』の人。元々、ドキュメンタリー畑出身らしい。
なお、あまりに真っ当過ぎで地味な作品(退屈というのではなく)なので、睡眠不足の時は避けることをオススメしたい。
あと、邦題が少し変では? 原題は「敵の敵」--は味方になるという皮肉だが、あくまでも敵の敵のことで、ただの「敵」じゃないと思うが
衝撃度:8点
緊張度:6点
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