「ダークナイト」:映画館の入口に掲示してあった「これより先は一切の希望を捨てよ」
監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベイル他 豪華&地味出演陣
米国2008年
*文末にネタバレ感想があります
*二度目の鑑賞の感想を書きました(完全ネタバレ)
前作の『バットマン ビギンズ』は非常に気に入った(当時の感想はこちら)。
続編を見るにあたり、復習用にレンタル屋からDVDを借りてきて再見。で、公開当時にも思ったことだが、やはり「よくもこんな荒唐無稽な話をシリアスに作ったもんだなあ」と感心した。
だーって、あなたヒマラヤにニンジャでその揚げ句にコーモリ男ですよっ! とっても信じられません(@∀@) 恐るべき力技である。
もっとも、従来のアメコミ・ファンや「バットマン」ファンはその点こそが気に入らなかったようで、激越な批判感想を幾つか見かけた。そういう人たちはもう、この続編を最初から見に行かないに違いない。
(追記:と思ったら、その急先鋒であったm@stervision氏は久々の更新&模様替えした上に、あっさり宗旨替え--とは、こりゃいかに)
さて、公開してみれば米国では4週連続して興収成績第1位となり、歴代記録でも『タイタニック』に次ぐ第2位は間違いなし状態というニュースが伝わってくるし、常連さんの映画関係ブログを見て回れば絶賛状態ではないか。(注-日本では『ポニョ』に完敗)
こりゃもう待てん(>_<)とご近所のシネコンに駆け込んだのである。
前半はややもたついている感があり、こりゃ期待が大き過ぎたかとちょっと冷汗モードであったが、中盤あたりからぐいぐい引き込まれてしまった。
しかし、その内容はく、暗い……(-o-;)
そこでは現代社会のありとあらゆる悪徳が描かれているようである。それを引き起こすのは悪役ジョーカー。煙の気配もないところに火を起こし、大火事へと煽り、社会を混乱させるのだ。まるでトリックスターのよう。
彼が何かすれば、人間のイヤな部分ダメな部分醜い部分が白日の下にさらされる。
例えば、ひとたびメディアを通して個人攻撃をすれば、市民はたちまちに扇動され同調する。その様は現実のメディアやネット上のバッシングや「炎上」騒ぎを思い起こさせる。
過去の作品で人間の醜悪さを容赦なく描いているといえば、バーホーベンの『ブラックブック』とかタイプは全く違うがミヒャエル・ハネケあたり浮かぶけど、この映画では後半部になると、それ級の醜悪さが「これでもかこれでもか」と波状攻撃で続く。これはある意味すごい。段々とジトーッとした気分になってきて「そこまでやるかー。もうカンベンしてくれ~(T_T)」と言いたくなってしまった。こんなんがエンタテインメント大作でエエんでしょうか?
クライマックスは二隻の連絡船のエピソードだろう。ここでは民主主義の欺瞞さえ余す所なく描かれる。そして実行した男と実行できなかった男の対比は極めて皮肉でイヤミでもある。
そのダメ押し的様相は、さながらダンテの『神曲』地獄篇ばりの地獄めぐりだ。
悪党どもは古くからあった彼らなりの秩序や仁義を失って暴走する。その上前をはねようとする新興勢力の経済侵略者も罰を受ける。
善でも悪でもない凡人は自らの不安や絶望、恐怖をかきたてられパニックに陥り、あるいはやむを得ず犯罪に荷担する。
そして、最後に善人は美徳を失い狂気に至る。
地獄の最下層にたどり着くと、かつての光輝く天使が醜悪なるサタンに変貌していた。その顎門と爪は裏切り者たちを引き裂いている--。ここで観客は正しく「堕落」を目撃するのである。
もっとも、真に悪魔の名にふさわしいのはジョーカーの方であろうか。彼は悪事をなすことだけでなく、他人を悪へと導くのも自らの目的としているようだ。
しかし、悪魔が徘徊しているわりにはどうもこの地には神が存在していないようである。米国製映画にしてはハテ不思議な(?_?)と思ったが、同じ監督の旧作『インソムニア』について自分の感想をパソ通時代の過去ログをごそごそ探し出してみたら、やはり「神の不在」と書いてあった。どうも彼の作品には神は登場しないらしい。よくよく見ると、彼はアメリカ人ではなくて英国人だったのね。な、なるほど……(*_*)
いずれにしろ、脚本がよ~く出来ているのは間違いない。時間をかけてよく練ったのだろう。
前作同様、今回も主人公に(何重もの意味で)同情してしまった。だって、だって、バットマンあまりにもカワイソ過ぎ。泣いちゃうよ……(ToT)
あと、演出もなにげに小技が効いていて嬉しい。例えば、あの事件の後に失意の主人公がペントハウスの椅子に呆然と腰かけているのを、正面から表情を撮らずに斜め後ろからもっぱら描いている場面とか。
一方、中盤の護送車の襲撃&攻防戦は迫力あり。こちらの方でも大満足
ただ、情報量多過ぎて字幕を読み逃したことが数回あり。こりゃもう一度見に行かないとダメかなあ。
ゴッサム・シティのデザインはまだ前作ではレトロっぽい部分が残っていた。それにヒマラヤとか古めかしいお屋敷も出てきたし。
しかし、今回は内容に合わせてか?全体的に無機的な冷暗色で統一されている。街並みは現代の都市そのままだし、基地は殺風景な地下室だ。なんか気が休まるような部分がないんだよね。
音楽は打楽器中心の重低音がかなり強迫的に延々と続いて、これまた気が休まるヒマがない(D・リンチの低音ノイズといい勝負か?)。
役者はさらに地味で渋い路線。「往年のアクション映画名脇役」枠では前回のルトガー・ハウアーに代わり、ウィリアム・フィクトナーが登場して序盤で活躍。イタリアン・マフィアのボスがどっかで見たことのある顔だなーと思いつつ思い出せず、さらにラスト・クレジットでも発見できないで、家でネットで調べたらなんとエリック・ロバーツであったよ……
アーロン・エッカートもグッジョブ!。
女優の選定についてはかなり異議が上がっているようだが、前作のケイティ・ホームズに比べたらマギー・ギレンホールは断然よいと思いま~す。
もっと美人女優を持ってこいという意見もあるけど、同じノーラン監督の『プレステージ』でスカーレット・ヨハンソンが出てても全然冴えなかったところを見ると、どうも誰が出てもダメなんではないかと(^^;
そもそもこの監督の映画の作り方が、俳優のスター性というものに全く重きを置いていないんじゃないかと思う(そういう点ではキューブリックっぽい)。だから、もし続編を作るにしてもこのままジミシブ路線で突っ走って欲しい。
一方で、名も無き一瞬しか出ないような役柄でも妙に印象に残るような場合があって、そこが謎ではあるが好感でもある。
あと、言うまでもなくヒース・レジャーはまだ若くて才能あるのに、惜しい役者さんをなくしました。ご冥福をお祈りします(-人-)
これまでマイベスト悪役といえば、『ジャッカルの日』のジャッカルと『天国と地獄』の犯人であったが、それに並ぶ悪役ぶりなのは間違いなしである。
昨年の『パンズ・ラビリンス』もそうだったが、よく出来た映画というのは色んな場面で様々な見方ができて、いくらでも語りたくなる。まあ、そういう意味でも今年のベストワンは既に堅いか、という感じである。
主観点:9点
客観点:9点
【関連リンク】
《Badlands》
「選択」をキイワードに解釈しています。
《Faisons volte-face !》
誉めてる感想が多いので批判的なのも紹介。うーむ、根本的に着目している部分が異なるようです。
《映画のメモ帳+α》
歴代バットマン映画の変遷を丁寧に解説してくれて、ありがたや~。
私は前シリーズ「あんまり好きではない」と思いつつも、律義に全部見ているのに自分でも意外。あのタイツ姿のTVシリーズもちゃんと見てたぞ。
そう言えば、トゥーフェイスをトミー・リー・ジョーンズがやってたというのは、完全に忘れてました。
《ツボヤキ日記》
ポスターのアートワークもまた見事。ここでは2枚めと3枚めがいいです。特に2枚めは眺めてると怪電波が脳ミソに向かって飛んできそう。そのせいか、一般には血文字のないヴァージョンの方が使用されている。
ついでにこのポスターもイイッ(^o^)b 訳すと「何マジになってんの?」ってところか。
【ネタバレ感想&疑問】
以下、ネタバレがあります。
未見の方は読まないようにお願いします。
☆ネタバレ警報発令中★
*ヒロインがあのような形で消えたのは驚いてしまった。もしかして、どこからか復活するのではと思ったが、そうするとゴードンと同じ繰り返しになってしまうのでいくらなんでもありえないですなあ……。
*香港の社長はあのまま火あぶりになったということでオッケー? はっきり黒こげ死体を出して欲しかった--あ、そうすると年齢制限に引っかかるからダメか。
*バットマンは「殺人はしない」はずだが、ラストでトゥーフェイスを殺しちゃったのでは? それとも勢い余った「事故」なのだろうか。そこんとこハッキリして欲しい。
*トゥーフェイスの焼けただれた半分の顔はグロテスクなんだけど、目がキョロキョロ動くところはなんだかコミカルで笑っちゃう--いや、笑っちゃいたくなるのがそのまま残酷で恐怖に反転してしまうのにまた感心してしまった。
【ネタバレ追記】
*ミクシィの方でコメントをやりとりしててふと思いついたのだが、主人公が検事のようにダークサイドに落ちなかったのは、ヒロインが最後に自分を選んだという美しき「幻想」を信じ込んでいて、それをよすがにしていたからではないか? もし、アルフレッドが燃やした手紙を読んでいたらどうなっていただろう。
しかし、逆に検事がダークサイドに落ちたのは、彼女の最後の告白を聞いたからこそ怒りが沸騰してブチ切れたためだとも言える。
ここら辺は極めて皮肉な因果関係である。
だがさらに皮肉なのは、ラストで幻想を市民に与えることで希望を維持しようと決意するバットマンが、自らに与えられた(そしてアルフレッドによって真実が隠蔽された)「幻想」には全く気づいていないということだ。
彼のレイチェルに対するあの思い込みはちょっと唐突で驚いたのだが、脚本家たちはわざとこの二つの幻想の対比を意図して描いたのだろうか。
……だとしたら、脚本家兄弟イヤミ過ぎだぜい (´ー`) フッ
そして、バットマンますます気の毒過ぎ(;_;) 幻想を操る彼もまた幻想に操られているなんて--あんまりだーっ
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コメント
さわやか革命さん、こんばんわ
いつもお世話になっております。
拙記事にリンクまで張っていただいてありがとうございます。
2重になるのでTB返しはいたしませんが、大感謝です。
しかし、この映画、どのブログも大絶賛ですね。
私もひねくれ者なので
「どこがすごいんじゃ!」と書いてみたかったのですが
...さすがにできませんでした。
でもブログでこんなに好評なのに
(日本では)映画のヒットに結びついてなさそうですね...。
自分もマギー・ギレンホールのほうがトム妻より断然よかったですね。
この映画は、今回バットマンとジョーカーとハーヴェイ・デントがメインなので
あの役に、美人女優を使うと観客の関心がそれてしまいますからね~。
今後もひたすら地味キャストで貫いてほしいですね。
噂されているアンジーなんてもってのほか。
ジョニー・デップは依頼されても断るんじゃないかな~。
盟友ティム・バートンの影をこれ以上薄くしないために。
今年のベストワンは堅いですか...。
これ、みんな選びそうですね。
私は意地でも違う作品を選びます(爆)
投稿: moviepad | 2008年8月18日 (月) 00時51分
今年のベストワン確定ですかぁ~!
あ~でもあたしもそうかも。
だってもうハマりまくりですからヾ(´ε`*)ゝ エヘヘ
何度観ても楽しめるし、
おっしゃるように色んな見方が出来て、
語ることに尽きない映画ですね!
投稿: miyu | 2008年8月18日 (月) 06時14分
お二人ともコメント感謝!であります。
> moviepad さん
|あの役に、美人女優を使うと観客の関心がそれてしまいます
た、確かに全く別の話に解釈される可能性が(=_=;)
|私は意地でも違う作品を選びます(爆)
うむむ、そう言われると私も「ひねくれ者」の沽券にかけて、別の作品を……
「ゾンビーノ」なんかどうだっ \(^o^)/
と思ったら、あれは昨年の公開作品ですね
> miyu さん
まあ、まだ4か月あるので「ベストワン決定」は勇み足かもです(^^;
12月の末頃に「やられた~っ」という作品が出たりして……。
でも「今の字幕よく読めなかった。もう一度、プリーズ」という事態が結構あったので、あと一回は必ず見たいと思ってます。
投稿: さわやか革命 | 2008年8月18日 (月) 21時12分