「この自由な世界で」:踏み付けられたくなければ踏み付ける側に回れ
監督:ケン・ローチ
出演:カーストン・ウェアリング
イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン2007年
ケン・ローチってもう70歳越えてるのか。それにしては現役バリバリで作品を送り出しております。
ヒロインは30代半ばのシングルマザー。息子を自分の親に預けて外国人職業斡旋会社に勤めているが、セクハラされた揚げ句にクビになってしまう。仕事のノウハウは知っているんだから、と友人と共にロンドンで移民相手の職業紹介所を立ち上げる--と言えば聞こえはいいが、やってることはどう見ても「手配師」というヤツである。
利益を追求するうちに違法行為も犯し、給料支払踏み倒しもお構いなし……と段々エスカレートしていくようになる。さらに金を稼いでブランドものを買い、夜遊びでストレス発散。
しかし、一方で彼女は典型的「悪い女」ではなくて心根の優しい人間としても描かれているから複雑だ。
観客は半分彼女に肩入れし、残りの半分は反感を持って見ることになる。肯定も否定もし切れない宙ぶらりん状態とはこのことよ(x_x)
しかも、全編ドキュメンタリー・タッチで余計な感傷を挟むことなしに描写が続くから、見ていてかなりキツイ。それもかなり索漠とした感触だ。
『ダークナイト』で悲惨な状況の波状攻撃が延々と続いて「カンベンして~(T_T)」状態になったが、こちらでも同じだ。上映時間はずっと短いが、ヒロインがあまりに危ない橋を渡り続けるのに「どうしてそこまでやるんか、もうやめてくれえ」とドキドキして息苦しくなり、疲れ果ててしまった( -o-) sigh...
思い返せば『イースタン・プロミス』もロンドンを舞台に旧ソや東欧から流入してくる移民問題を扱っていた。(ロンドンの光景は同じ街かと驚くほど違っているが)
英国で大きな問題となっているのだろうが、移民問題としてだけでなく非正規雇用の労働問題と考えれば、これはまるっきり日本にも当てはまる。ヒロインのような人間は「先進国」ならどこにでもいるのだろう。
新聞で以前読んだ記事だが、学費が払えなくて大学を中退した若者がどこでも雇ってもらえなくて、唯一拾ってくれたのがサラ金会社であった。給料はよかったが、ノルマをこなして悪辣非情な取り立て行為をしなければならないのに嫌気が差して退職、結局失業状態となってしまったという。良心や人間性を天秤にかけねばまともに稼いでいけぬとはどういうことだろうか。
とりあえず麗しき自由な世界バンザイ \(^o^)/と言っておこうかなっと
主観点:8点
客観点:8点
【関連リンク】
《日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~》
《モ(以下略》
まさしく「弱者が弱者から搾取する」状況です。
《かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY》
ヒロインの立場の分析に同感。監督についても納得の意見です。
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コメント
こんばんは。
記事内リンク、ありがとうございます。
流血の殺人事件がおこるわけでもないのに、ダークナイトやイースタン・プロミスなみにハラハラしましたよね。
よその国の問題というんではなく、日本の状況もダブってくるから、また味わい深いというか、胃痛がするというか・・・。
でも、とにかく、ケン・ローチには拍手です。
投稿: かえる | 2008年9月 9日 (火) 00時19分
コメントどうもありがとうございます。
ケン・ローチ、まさしく「今」の映画を作り続けているのには感心します。まだまだ頑張って作品を送り出して欲しいですねえ。
投稿: さわやか革命 | 2008年9月 9日 (火) 07時24分