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2009年1月31日 (土)

「修羅」:黒と灰のモノクロの情念

090130
松本俊夫映画回顧展vol.1
監督:松本俊夫
出演:中村賀津雄、三条泰子、唐十郎
日本1971年

原作は鶴谷南北の狂言。それを当時の青年座が改作して上演していたものをさらに映画化したものだそうだ。「四谷怪談」同様、赤穂浪士討ち入りの外伝といえる体裁の物語である。
浪人・源五兵衛は主君の仇討ちに参加したいが、それには大枚百両が必要だ。その工面もならず悶々と酒と女にふける毎日で、特に芸者の小万とは相思相愛、切っても切れぬ仲となったのであったが……。

前半はやっと工面できた百両を源五兵衛が騙し取られてしまう経緯、後半は彼の復讐譚である。元の狂言でも恐らく見せ場は、小万と引き換えに百両を差し出すかどうかの主人公の葛藤と煩悶と、そして血みどろの陰惨な殺戮場面だったろうと思われる。
それを受けてかこの映画では「百両」の場面が3回繰り返される。最初は勢いよく金を叩きつけるヴァージョン、次は金を出さず小万を置いてサッサと帰るヴァージョン、そして最後に逡巡しながらおずおずと百両差し出す「現実」(?)ヴァージョンである。
しかし、そのように逡巡するような人間臭い善人(カッコ良いヒーローではない)だからこそ怒らせると余計に恐ろしいというのが、後半の展開につながるのだろう。

冒頭の日没以外はモノクロ映像だが、それは白黒の鮮烈な映像美……というようなものでなくてむしろ黒と灰色の組合わせであり、ほとんどは黒の闇に覆われていて、かろうじてそれ以外の部分がほの見えるかのような印象だ。
冒頭の主人公の住む長屋は、なにか古い日本家屋特有の湿気た匂いが漂ってくるようだ。また、モノクロでも血まみれ場面は恐ろしい{{(>_<)}} ドローっとした独特の質感がある。

主人公を演じる中村賀津雄は、後半においてはまさに復讐のため悪鬼となった形相。ストーリー上の所業も恐るべきものだが、それ以上に佇まいがもはやいかなる怨霊・妖怪の類いよりも、言語道断な悪人よりも、遥かにコワイのである。しかし、それでいて愛した女への未練を断ち切れないのを仄見えさせるのはお見事。
ヒロイン役の三条泰子は、明るく小粋な美人ですっかり私も主人公同様に騙されちゃいました(^^ゞ 民芸の女優さんだったらしいがこの後あまり映画には出てないらしいのが残念である。
あと、唐十郎はもっと歳食ってからしか知らないので、こんなにニタついた生臭~い色男を演じられる人とはつゆ知らず。おみそれしました<(_ _)> 何やらスクリーンから男のエロ気光線が放射されているような気がするほどだ。

2時間14分という長丁場で、しかも朝一回のみの上映であるが、終わった後は善悪を超越した情念のドドーンとした淀みに「観た~ッ(★-★)」という気分になった。
それからもう一つ思ったのは、最近どの芝居を見ても役者(特に若手)の演技に不満を感じてしまうのが常なのだが、この映画ぐらいのテンションの高さの芝居を生で見てみたいということであった。


さて、何故私が「松本俊夫映画回顧展」という特集上映に出かけていったかというと、これまで日本映画で唯一心から「面白い」と感じたのが、この監督の『ドクラ・マグラ』だったからである。他にも黒澤明の犯罪サスペンスものなど面白いと思ったのはあるが、どれも見ていて今イチ体内時計というかテンポが合わないのだ。何故だろ(?_?;
松本作品では今回の上映会の目玉らしい『薔薇の葬列』も過去に見ているが、こちらはドキュメンタリーっぽい部分をまぜたり、パロディっぽかったり(なにせ淀長さんの「解説」が映画の最後に入る(^^;)という作りだ。これも見たのが××年前なんでもう一度見たいが、どうも時間が取れなくて無理そう……
『アラビアのロレンス』の感想で、昔見た作品を見直さなくては、などと書いたもののこれが悲しい現実なのであ~る。でも、『ドクラ・マグラ』は絶対見るぜい!

ただ、松本俊夫という人は本来は実験映画とかアヴァンギャルド作品の方が本業(?)である。私はそちら部門は守備範囲外なので今回はパスします(^.^;
劇映画は4本しか撮ってないのだが、個人的にはもっと作って欲しいと思う。今の日本の映画状況では無理な話か(+_+)

【関連リンク】
「松本俊夫監督インタビュー」

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