「ドグラ・マグラ」:我ガ脳髄ヲ撹拌ス
松本俊夫映画回顧展vol.2
監督:松本俊夫
出演:桂枝雀
日本1988年
この作品はロードショー公開時に観ていて、それ以来久し振りに再見した。実は小説について私は「ドグラ・マグラ」派ではなく、「黒死館」派である。夢野久作の原作を読んだもののどうも、今イチのめりこめなかった。しかし、それに反して……いや、それだからこそか?この映画は非常に面白かった。
あの分厚くて難解な小説をここまでスッキリまとめたというのが、まずオドロキ。巨大な仏像の頭が転がっている精神病院の庭のイメージも強烈だった。それから当時、映画初出演?だった桂枝雀の怪演も話題になった。
さて、およそ20年ぶりに見直してみると、やはりビミョ~に印象が違っていた。
「なんかJホラーっぽい」……これは精神病院(というより「脳病院」と当時風に言った方がエエですかね)の場面じゃなくて、主人公の家の場面で感じたこと。後輩の監督たちに影響を与えたのか、それとも日本家屋を舞台にコワイ話を撮ると同じようになってしまうのか、どうなんだか分からんが。
狂人たちの動作がモロにアングラ舞踏っぽかった(^=^; もちろん、演じてるのがその方面のダンサーなんだろうけど。
もっとも、これはわざと型にはまった「狂気」を演じているのかも知れない。なぜなら、本当の狂気は病棟の中にあるのではないというのがこの物語の主眼点だからだ。いわば「狂気にまつわる妄想」こそが狂気であると。
意外にも結構エロかった
いやー、こんなエロい話とは全く記憶せず。「女の死体を写生」ったって、文章で読めばそんなでもないが、実際に映像で見ると……(^^;) それに近親相姦やら死体姦ネタも充満して、なかなか生々しいエロさです。
全体的に視覚面よりも脚本や演出の方が目立っていた。
入れ子状態になった物語の集積をよくぞうまく処理していて、見ているうちに頭がグルグルしてくる。ただ、それは視覚的なことより脚本の処理にあると思った。それと、これは以前も思ったが編集のテンポが速くてよい。こんな話をマタ~リと進めていたら「狂気」の迅速さが失われてしまうだろう。
それから、不気味さ横溢の音楽も効果的だったのも忘れちゃならんね。
桂枝雀はやはりアヤシサ爆発の怪演だった。夜店の口上をまくしたてて売りつけるいかがわしいオヂサンのよう。
室田日出男も、うさん臭さとまともさが紙一重になってるヌエ的演技をうまく見せていたが、肝心の主人公役の松田洋治は……うーむ、外見もバタ臭くて周囲と合わないし、今一つな感じであった。
今回、再見してみてこの作品の特色は「明晰」であると思った。ホルマリン漬けの標本やら、死体図絵やら、「親の因果が子に報い」な遺伝学の話も、またそれを実現させようとした男の妄執も、全ては極めて明晰に描かれている。
そうでなくては「狂気」は描けないという逆説を、そのまま証明しているようだ。ただ、小説のファンがそれを支持するかは疑問であるが。
脳髄撹拌度:9点
原作度:5点
| 固定リンク | 0
コメント