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2009年3月22日 (日)

「ダウト ~あるカトリック学校で~」:疑わしきは我関せず

090322
監督:ジョン・パトリック・シャンリー
出演:メリル・ストリープ、フィリップ・シーモア・ホフマン
米国2008年

質問:あなたはこの映画を見て考えに変化がありましたか
A-より疑い深くなった
B-他人をもっと信じようと思った
C-何も変らない
D-分からない

※「A」と答えた人へ
トニー賞&ピューリッツァー賞ダブル受賞の芝居を作者が自ら監督・脚本を担当。さらに主要人物4人がオスカー・ノミネートという話題の作品である。
その4人はそれぞれ対照的な性格・立場であり、錯綜する価値観や損得、信条、世代観が複雑に絡み合う。一体、誰の言っていることが正しいのか、疑い出せばキリがない。

※「B」と答えた人へ
物語を素直に受け取ればカトリック校の校長であるシスターが自分の気に入らない若手の神父に、イチャモンをつけて追い出しを計る陰謀話だ。彼女は神父の疑惑の行動を知るやそれを検証することもなく教義を振りかざし決めつけて罪を確信する。誠に狂信のなせる業と言えよう。

※「C」と答えた人へ
しかし、ネット上の感想を見れば素直な「校長悪者説」の意見は三分の一である。別の三分の一は「見ているうちに段々と神父が怪しく思えてきた」という感想だった。
確かに、頑固な教条主義者のように見える校長が実はそうでもない人物なのが徐々に明らかにされていく。むしろ融通が全くきかず柔軟性に欠けるのは若いシスターの方だろう(校長がジョークを言ったのに全く理解してない)。それに反比例するように神父の疑わしさは増してくるのだった。
ここら辺のM・ストリープとP・S・ホフマンの演技は見事--というか、この二人ならこの程度はお茶の子サイサイといった所だろう。もっともホフマンは肉が付き過ぎでとてもバスケのコーチが出来るようには見えんが……(いや、それとも「大食」の罪を暗示している?(^=^;)

※「D」と答えた人へ
見ていて驚いたのは、校長が神父を校長室へ入れた時に、彼が躊躇することなく校長の椅子へ座ってしまったことだ。確かに教会内の位階は上といっても、ビックリである。この行動には校長が年齢が上で校内の立場はトップであっても、位が下でしかも女なんだから自分が上座に座って当然という意識が露呈される。つまり、神父はラディカルな若い改革者のように見えながら、一方でいざとなれば権威主義・男権主義振りかざす(二人の「対決」場面でも、その手の差別的言辞を吐く)、善良にはほど遠い人物なのが暗示されている。
さらに、彼が少年たちを集めて話をしている場面も何やらホモ・ソーシャル的でイヤ~ンな気分である。

というわけで、この物語の中の誰に共感し信じるかは観る者それぞれによって違ってくるだろう。以前、『奇跡の人』を十代の若者が見ると感情移入するのは主人公のサリバン先生ではなくて、ヘレン・ケラーの方だという話を聞いたことがある。それと同様だ。年齢が若い人は神父に共感するだろうし、子どもを持つ人は少年の母親に感情移入するかも知れない。
しかし、もはやオバハンである私は鬼校長の方にいたく共感してしまった。やっばりトシのせいですかねえ もう好かれずともいいから、このように強権をビシバシ振るって周囲を従わせたいもんだぜっε-( ̄ー ̄)ムフッ(ストレス溜まっております(x_x))


ただ、そんな善悪がモザイク上に散りばめられた性格設定も全て作者の成せること。作者が設定した箱庭の中でウロウロと考え惑わされているという歯がゆさは否めない。
それにねー、視力の衰えた老シスターをかばうことと、同性愛の傾向を示す少年に手を出すことを、あたかも同等の行為と見なしているような作者のレトリックには到底納得行かないんである(それが彼の主張したい本筋ではないことは承知しているが)。

質問:あなたが信じたのは誰ですか?
A-校長
B-神父
C-若いシスター
D-母親
E-作者
F-誰も信じない


主観点:6点(考えているうちに段々腹が立ってきた)
客観点:8点(役者の演技はみなさん申し分なし)

【関連リンク】
《まどぎわ通信》
演出が凡庸というのも同感です。

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