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2009年7月18日 (土)

「夏時間の庭」:そして庭だけが確かに残った

090718

監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ
フランス2008年

ノーマーク状態の作品だったけど、他のブログの感想を読んで興味がわいて行ってみた。単館上映なんで公開から1か月ぐらい連日満員御礼だったようだが、私が見た頃にはさすがにもうすいていた。

冒頭、広大な庭で元気よく遊ぶ子供たちの姿が描かれる。縦横無尽に走り回る彼らをカメラは追いかけ回す。やがて屋敷の主人である、子供たちの祖母が亡くなってから物語は動き始めるのだが、そこに至るまでを結構長く時間を取っていたのは予想外だった。

画家である大叔父の作品を始め、ルドンやコローなどの有名なアーティストの作品が飾られ、使用されていた大きな屋敷を母親の死後、どうするか--ここに至って三人の息子・娘の意向の食い違いが明らかになる。そして、ずっと屋敷を守ってきた母の隠されていた真の姿も……。

世間にはよくある、成人したきょうだいが遺産相続でもめる話と言える。しかし、その遺産が文化財級がゴロゴロとなると、いささか趣きが違う。
オルセー美術館20周年企画として、実際の美術品を貸出して全面協力。スクリーンの隅のあの花ビン、あの戸棚--みんなホンモノだぁ~(!o!)
そしてさらに驚くのは、にもかかわらず「絵画や工芸品を美術館に飾るなんて詰まんないことよ」というのがこの映画のテーマの一つであることだ。

屋敷で使われていた椅子や机、食器、そして壁の絵画--全てが生き生きとして日常になじんでいるが、同じモノが美術館に飾られているのを見るとなんと生彩に欠けて詰まらないこと。まるで、抜け殻を眺めさせられているようだ。それを映像で実際に証明してしまっているのだから何とも言いようがない。
よくもこんな内容に美術館側が納得したものだ。日本じゃ考えられない。さすが、文化の国おフランスだと妙に感心してしまった。

家政婦のエロイーズばーちゃんが「あたしゃ、こっちの花ビンの方が好きですよ」と長年愛用していたガラス製の花ビンの正体が判明した時、一番の審美眼の持ち主は彼女だと多くの観客は納得するに違いないだろう。

チラシや宣伝に「大感動!」とか「驚きのラスト」とかあったので、どんな展開になるかとドキドキして見てたら、なーんだ ┐(´~`)┌ そういうことですか。
そんな話じゃないだろうって気がするが……。

美というものと時代の変転、そして人もまた移り変わっていく、ということを穏やかな筆致で淡々と描いた作品である。画面の隅々まで神経が行き届き、最後は静かな感動が訪れる。
もっとも、私が個人的にそういう作品を一番に好きかというとまた微妙なのであるが。

長男の娘がドラッグ所持を見つかって補導されるという件りでは、父親が注意というより「見つからないようにやれ」みたいなことを言ったのは少し驚いた。フランスの知識階級というのはそんな感じなんだろうか。
次男役をやってたのが近年のダルデンヌ兄弟作品に出演しているジェレミー・レニエだと後で知ってビックリ。やはり役者ってのは化けますなあ……(-ω-;)

あと、本筋に関係ないけどルドンがあんな絵を描いていたとは知らず。「装飾画」って壁紙のデザインみたいなもんなんざんしょか(^^?


主観点:8点
客観点:8点

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