「バーダー・マインホフ 理想の果てに」:革命を言うは易し、行うは難し
監督:ウーリー・エデル
出演:マルティナ・ゲデック
ドイツ・フランス・チェコ2008年
映画ファンの間では二つの出来事で話題に上った作品である。一つはアカデミー賞の外国映画賞にノミネートされた(で、日本の『おくりびと』に負けた)こと。もう一つはつい先日、公開中に配給会社が倒産してしまったことだ。おかげで、これから上映予定だった地域はどんどん中止になっているらしい。こりゃ、大変だ~。
さて、ここしばらく「感動系」の映画に連続して突撃したもののほとんど玉砕してしまった私であったが、これはヤッタネ!(^_-)b やはりシミジミ感動系よりこういうヤツのが自分に合ってるぜい
ドイツの学生運動から出てきた過激派バーダー・マインホフ・グループというのは、名前ぐらいはさすがに聞いてるが詳しいことは知らず。この映画は彼らの起こしたこと、そして逮捕されてからの顛末を実録風に描いたものである。
あまりに基礎知識に乏しいので、こういう時の唯一手元にあるネタ本の雑誌「WAVE」の「特集・テロ」を開いてみた。刊行は1987年、なんとベルリンの壁崩壊以前だ。ページはどれも真っ黄色--というより茶色くなっているぞ(@∀@)
「学生はヴェトナム戦争に反対し、大学へ戻っていった元ナチ党員の教授の排斥を要求。アメリカ大使館への投石やデモが続いた。大衆新聞を牛耳る右翼資本シュプリンガー、保守系政治家、警察が加わった学生への挑発と「学生狩り」の嵐は、ユダヤ人迫害を髣髴とさせた。」
このような状況下で起こった、イラン国王夫妻への抗議デモに対する警察の襲撃が冒頭に描かれる。これが迫力タップリでカメラワークなどお見事としか言いようがない。思わずコーフン、じゃなかったドキドキしちゃったぜい。続く学生集会の熱狂ぶりの描写も同様である。
その後、グドルン・エンスリン&アンドレアス・バーダーのカップルが中心となった集団のテロ活動が次々と描かれていく。……のだが、一方で彼らの思想・主義・主張・背景などはほとんど語られない。同時代に起こっているヴェトナム戦争やパレスチナ問題が「動機」として引き合いに出されるけど、それ以上のものはない。
途中から左翼系ジャーナリストであったウルリケ・マインホフが加わるも、画面上からは彼女の名がグループ名に入るほどの大きな役割を担っていたようには見えないのも謎。
結局のところ、「×月○日爆破事件」「*月△日銀行襲撃」「※月◇日第1回公判」などと行為を即物的に綴っていくのに終始するのであった。
そのそっけなさが却っていさぎよく、150分という長丁場もあっという間に過ぎてしまう。
メンバーの獄中死については当時から諸説あったと記憶しているが、自殺とも当局による謀殺とも、どちらとも断定していないように描いている。
バーダーはこの映画で見る限りではモロに男権主義の固まりみたいなヤツでイヤ~ンな印象である。実際はどうだったのか。「彼にとって重要なのは、政治でも思想でもなく、大型のスピードの出る外車をぶっ飛ばすことだった。(中略)その彼を変えたのは、RAFの実質的な作戦行動指揮者を務めたグドルン・エンスリンとの出会いだった。」--らしいんだけどね。
で、今年の初めに見て、さっぱり理解できなかったエルフリーデ・イェリネクの芝居『ウルリーケ メアリー スチュアート』を、この映画を見れば少しは分かるのかと期待していたが、やっぱり理解できなかった。トホホ(x_x) なぜ、あれほどマインホフが責められなければならないのかやっぱり不明だ。
音楽については冒頭ジャニス・ジョプリンで、終わりがボブ・ディランというのはあまりにベタ過ぎ。もう少しなんとかしてくれい。
以前、小倉千加子が少子化の傾向について日独伊の旧敗戦国に共通したものがあると分析していた。過激派学生の先鋭化についてもやはりこの三国は似ているのだろうか?(細部は異なるにしても) だとすればこのような事態を生み出したのは戦後体勢の矛盾そのものだったのかね
それにしても、上映館のシネマライズは暮れから正月時期には『ファニーゲーム U.S.A.』、お盆のかきいれ時にはこの映画……と、イヤミとしか思えないラインナップなんだけど(^^;営業の方は大丈夫なんざんしょか。えっσ(^_^;)私はイヤミなのは大歓迎ですけどね。
主観点:9点
客観点:8点
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