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2009年8月13日 (木)

Bruce Cockburn”SLICE O LIFE”

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サイドバーの「聴かずに死ねるか」でも紹介している、カナダのベテラン・シンガーソングライター、ブルース・コバーンの二枚組新アルバムである。デビュー盤から既に40年も経っているが、弾き語り形式のソロ・ライヴを出したのは初めてのようだ(バンド形式では過去に出している)。

さすがにデビュー時からではないが、長年聴いてきた私にしてもそれほど内容に期待していたわけではない。何しろもはや64歳であるし、前作のアルバムは可もなく不可もなくの「並」状態だった。が、実際聴いてみると……

恐れ入りましたっ! <(_ _)> ペコリン

というほどの出来。すいませんすいませんと思わず謝っちゃうぐらいだ。
複数の会場で行われたライヴをつなぎ合わせたものなのだが、うまく編集されているのと客席とのノンビリした感じのやり取りが収録されているせいか、一夜の公演をそのまま収録したように聞こえる。
しかし、演奏の方は先鋭極まりない。特に二枚目の冒頭、ブルース風というより呪術的にさえ思える鋭いフレーズの反復に終始する"Wait No More"から、荒廃した都市の光景を静かに歌った"The City Is Hungry"、オリジナルは9.11事件の直後に作曲された力強いメッセージを含む"Put In Your Heart"と続くあたりは、おそろしいほどの迫力に満ちている。

正直言って、私がここ数年に聴いたあらゆるジャンルの音楽の中で、最も心を打たれたものである。そしてたった一人の人間による表現がこれほどの力を持つことに、心から感服した。いや、驚愕したと言った方がいいだろうか? だから恐れ入ってしまったのである。
元々優秀なソングライターであり、歌い手としても魅力的な声の持ち主だが、こうしてアコギ一本の弾き語りで聞かされると、さらにギターの並々ならぬ腕前にも改めて驚かされる。ギターの音の背後に別の楽器の音が聞こえてくるような気さえするほどだ。
曲・歌・ギターの三つとも揃ってのボルテージの高さにもはや脱帽状態である。

興味がある方はユーチューブでこれが見つかったのでお聞き下せえ。
前作のアルバム時の写真では白髪と共に真っ白なヒゲもじゃ状態で、もろにジーサンぽくなっちゃっててちょっと泣けたが、今回はヒゲもなくてスッキリ若返ってたイメージになってたんでよかった(*^^*)


さて、彼の長いキャリアを調べようとしても、残念ながらネット上ではまとまった日本語での記述はほとんど見つけることはできない。本国カナダや米国のサイトならあるだろうけど……。あんまりちゃんと調べてないがこちらのページぐらいなものか(ここのリストの後にもう一枚アルバム"Life Short Call Now"が出ている)。
ランディ・ニューマンあたりもそうだが多分、この年代のアーティストを最初から聴いてたような人は、世代的にネットに縁遠い人が多いんだろうか(?_?) だから見つからないのかも知れない。

私がブルース・コバーンを聞き出したのは、1984年の"Stealing Fire"からだ。きっかけは当時ちょうどMTV勃興期で、いかにマイナーなミュージシャンでもヴィデオ・クリップを作ればTVでかかったのである(REMなんかもそうやって知ったバンドだった)。

そのTVで初めて聴いた曲は"If I Had A Rocket Launcher"である。歌の内容は「ヘリコプターがやってくる。今日は2回目だ」と中南米の村を襲う武装ヘリの光景に始まり「一体、何人の子どもが死んだのか、誰も知るものはいない。もしこの手にロケット・ランチャーを持っていたら、あいつらに思い知らせてやるのに!」という誠に激越なものだった。なんでも、どこかの放送局では「暴力を奨励する」などと放送禁止になったとかならなかったとかいうウワサも納得な強烈さだ(もちろん、テロを奨励しているのではなく当時の中南米での紛争の背後にいた米国を暗に抗議したものである)。
このビデオもユーチューブにあるが、改めて今見ると結構青二才ぽい感じなんでちと意外だった。もっとも、現在の私は当時の彼の年齢をとっくに越えているせいで(^^;そう見えるんだろうけど。

"If I Had A Rocket Launcher"はこのライヴ盤でもアンコールで歌われている。でも、激越な感じよりもむしろ哀愁を含んでいるような印象が強いのが不思議である。そういえば、"Put In Your Heart"も原曲が9.11に対抗するような前向き力強さで歌われていたのに、ここではむしろ切実な響きを感じさせる。長い歳月の間に、世界も彼の歌も変化したのだろうか。

以前新聞の記事で読んだことだが、人間の声帯の筋肉の動きがピークなのは二十歳ぐらいなのだという。その頃まではいかに歌いまくって酷使してもすぐ筋肉が元の形に戻るらしいのだが、歳を取ってくると声帯を休ませないと元に戻らないのだそうな。しかし、不思議なことにどんなジャンルの歌手であろうと二十歳そこそこで人の心を揺り動かしたりシミジミさせる者はほとんどいない(というか、個人的にはお目にかかったことがない)。そこには正しくテクニックとは全く別のものが存在するのだろう。

そんな彼の作品だが、最近日本で再発された初期のアルバム数枚以外は入手しにくい状態である。アマゾンで見ても80~90年代のものは絶滅寸前だ。リアルのCD屋でもブルーレイのせいで売り場縮小となったHMV某店なんか全く役に立たない。先日、しばらくぶりに渋谷のタワーに行ったら、さすがに結構揃っていたが……。

彼は過去に二度(?)ほど来日しているようだ。ニール・ヤングの前座として来日の時は私もチケットを買った。もちろん、お目当てはブルースの方である。しかし、N・ヤングが来日中止して公演もお流れになってしまい残念無念に泣いたのであった。もっとも、彼だけは小さなホールでライヴをやったらしい。しかしネットも何も存在しなかった時代、後になってから知ってまたもや泣いたのである(T^T)クーッ

U2が自作の中で歌詞を引用したこともあるほどのミュージシャンズ・ミュージシャンのブルース・コバーンだが、一体この目で、いやこの耳で銀色の雨のような美しいあのギターを聴く事ができる機会がめぐってくるだろうか?

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←これは当時購入した"Stealing Fire"のヴィニール盤である。ジャケットは二種類あるようだ。
やはり若いです……。

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