「キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語」:貢献者か収奪者か?
監督:ダーネル・マーティン
出演:エイドリアン・ブロディ、ジェフリー・ライト
米国2008年
実はこの時代の音楽には全くうとい。何せマディ・ウォーターズの音楽を耳にしたのが『ラスト・ワルツ』を観た時だってんだからどうしようもない。
かような私σ(^_^;)であるからして少しでも知識の足しになるかしらん--なんてことも含めて興味があったので行ってみた。
……のはずだったが「かなり事実と違う」という情報を事前に聞いて早くもちょっと期待度減
第二次大戦直後に音楽業界に足を踏み入れた、東欧系移民であるユダヤ人のレナード・チェスが自らの名前を冠したブルース・レーベルを設立。一世を風靡するも1969年に経営権を売却して死去するまでを描いている。
といっても、実際の主人公はチェスよりも、ジェフリー・ライト扮するマディ・ウォーターズの方だろう。映画のほとんどは彼の視点から描かれている。
この期間というのは社会的に価値観の大きな変動があり、音楽的にも様々なジャンルが勃興した時期であった。前半ではそういう部分が描かれていたんだけど、後半になってエタ・ジェイムズ(ビヨンセ)が登場するとチェスとの恋愛話が中心になってしまい、スタジオの外界のことはあまり出てこなくなってしまう。公民権運動など色々起こった時期だと思うのだが……(?_?)
その恋愛話も描写がぬるいというか、判然としないというか、一体二人の関係がどの程度のものだったのか見ていてよく分からない。業界雀がやかましく噂するほどだったのか、それとも世に忍ぶ恋だったのか まだ存命している関係者がいるから遠慮したのかしらん。
しかも、そのシーンの描き方が二人の顔の大ドアップの切り返しが延々と続くもんだから飽きてしまった。私はこういうのを見せられると「ああ、もう尻の穴でも何でもいいからとにかく顔以外の映像をみせてくれい」とか思っちゃうのである。
この時期は音楽的には黒人ミュージシャンが全米的に人気を得てきたとはいえ、当然ビジネスは白人が握っていたわけだから、そこをどうとらえるのかは難しい問題である。宣伝ではミュージシャン達にチェスがキャデラックをプレゼントしたのを美談としていたが、映画の中では「ギャラから差し引いた」とか言ってたぞ。それじゃプレゼントとは言わないんじゃあ……
作中での歌は実際に役者達が歌っているそうでビックリ。達者なもんである。先日観た『セントアンナの奇跡』同様、中堅~若手のアフリカ系役者の活躍ぶりが見られる。
もっとも、ビヨンセはさすが本業だけあって(演技はともかく)やはり抜群に歌が上手いのはナットクです。
それにしても、マディがこんなにいい人とは知らなかった(ただし、女ぐせを除く)。実物のイメージからは想像できません(^^;
最近出た「レコーディング・スタジオの伝説」という本を立ち読みしたら、ストーンズがチェスのスタジオを訪ねてマディに初めて会った時、彼は天井のペンキ塗りをしていたという(これはよく知られた逸話らしい)。なんでこんな面白い話を映画で使わなかったのかはこれまた不明である。
ということで、全体の結論は『ドリームガールズ』同様「芸達者な美男美女が活躍する歌絵巻」ということでよろしいかな。
教訓は「酒癖・女癖はトラブルの元」ってとこか。
音楽度:9点
歴史度:5点
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