監督:ケン・ラッセル
出演:オリヴァー・リード
イギリス1971年
ミロス・フォアマンの『宮廷画家ゴヤは見た』を観たのがはや一年前。その時に「神父役のハビエル・バルデムは、『肉体の悪魔』のリメイクを今やるんだったら主人公にピッタリだなあ」と思った。で、昔一度だけ見たビデオを再見しようと思ったのだがなかなか機会がなくて、今ごろようやく引っ張り出して見直したのである。
『肉体の悪魔』と言っても同名の文学作品とは関係ない。オルダス・ハクスリーの小説とさらにそれに基づいた芝居を原作としている。しかし、映画の冒頭にはほとんどが実話である--というただし書きが登場する。
この作品が不幸だったのは、欧米では冒涜的な映画としてカットを余儀なくされたこと。そして日本ではポルノまがいの映画として宣伝されてしまったことだ。おかげでその後「幻の作品」と化してしまった。
所はフランス、ルーダンという町、時はルイ十三世治世下。この町の有力者、司祭のグランディエは男らしさムンムンな美丈夫で、町中の女は彼にハアハア(*'∀')=3しちゃっているのであった。もちろん、彼の方も遠慮せずに手をつけまくりな破戒僧である。
女子修道院の尼僧たちも例外ではなく、ほとんど顔も見たことがないのに噂だけでコーフン状態(何せテレビも写真もない時代ですからな)。院長に至っては妄想で恍惚境に入ってしまうほど
院長のジャンヌが嫉妬と妄想が高じて、グランディエが悪魔の手先となってヒワイな行為をしたと訴え出ると、町の自治権を奪おうと画策する国王派勢力によってたちまち彼は逮捕されてしまう……。
と、物語の背景は中央集権化を図る国家と地方自治都市の対立というかなり政治的なものなのだが、スクリーン上には悪魔払いの儀式で恐るべきパニックに陥った尼僧たちにによる狂躁&淫猥が渦巻くという次第である。
いやもう、画面の至る所でヒワイかつ冒涜的なケンちゃん節炸裂 あー、やっぱりわたしゃケンちゃん大好きだなあと \(^o^)/と思わずニタニタしながら見てしまった。
狂躁場面にはこの作品の数年前に公開されたフェリーニの『サテリコン』の影響も大きいようだ。ケンちゃんが刺激を受けたのは間違いないだろう。
肝心のグランディエはこの騒動に一切関りなく、脅迫、審問、拷問をはねのけ悪魔崇拝をきっぱり否定し、町の自治の危険を警告するが時既に遅し。
それでも審判法廷で彼が弁論を始めると市民は聞き入ってしまうから、その影響力は大したものだ。判決の日に彼は髪の毛を剃られ、みっともない囚人の姿で登場し、人々はそれを見て哄笑するが、にもかかわらず彼が口を開けば聞き入らずにはいられない。ここに主人公の本質が表わされている。また演ずるオリバー・リードの説得力ある演技もお見事としか言いようがない。
さて、彼が死刑場に引きずり出されると周囲は見物人でいっぱい。脇では陽気な音楽で踊ってる奴らもいる。近くのバルコニーからは知人や町の有力者が哄笑しながら主人公の火あぶり見物を決め込んでいる。
……と、ここに至ってこの場面をどこかで見たような気がする(?_?;
なんと『宮廷画家ゴヤは見た』の終盤の死刑場面とほとんど同じではないか 主人公の「子」がバルコニーから死刑を眺めるという設定も同じだし、彼が立つことができずに座ったまま死刑を受けるという体勢も同じ。ここまで来ると偶然とは思えない。
さらに、その後のラストシーンで決定的に
主人公の愛した女が白く長い舗装された道を画面の奥に向かって去っていく--というのがまたクリソツなのであった。
こ、これは(-o-;)
私が『ゴヤ』を見て、神父を演じるハビエル・バルデムから『肉体の悪魔』のグランディエを連想したのは決して偶然ではない。まさにミロス・フォアマンはラストを丸々引用していたのである。
そう思えば、『ゴヤ』で唯一納得が行かなかった、それまでは卑劣なる変節漢であった主人公が、なぜ死刑に際して意見を変えなかったのかという疑問が解けた。監督としては、なんとしてもグランディエ同様に死刑台の上にあっても自らを曲げなかった男を描きたかったのだと思える。
果たしてそれが彼の経歴と関係あるのかどうかは推測するしかないが……。
そういう意味では『宮廷画家ゴヤは見た』は『肉体の悪魔』の「リメイク」と言えるかも知れない。いや、名ばかりリメイクがほとんどの中でこれこそオリジナルの意志を生かした真のリメイクですかねえ( -o-) sigh...(ただ、ケンちゃんほどのシニカルで諧謔的な面はないけど)
本作のテーマは自由と信仰だろう。本来この二つは相対するものではないはずが、狭量化した宗教は簡単に権力と結びついて個人を弾圧する側に回るのである。それが寓意的、かつ猥雑に描かれている。
作中でジャンヌはグランディエを「悪魔!」と罵倒する。しかし、この映画の原題がThe Devilsで複数であるからには、何者を示しているのかは明らかだろう。
もちろんケン・ラッセルならばそれだけではなくて当然「純愛」が登場する。だってロマンチストですもん
セットのデザイン担当にはデレク・ジャーマンが起用されている。これがまた極めて効果的で素晴らしい。モノクロを基調として白いタイルと鉄の格子を多用したデザインは時代背景に関らずモダンなものだが、町を取り囲む城壁や修道院に使われ閉塞感や重厚さを出している。
それから音楽ファンも注目なのは、冒頭のルイ十三世が催す宴である。なんと王様本人がヴィーナス誕生の場面をあられもない衣装で女神に扮して演じる(^-^;(彼はホモセクシュアルだったという噂がある)。そしておまけにバロック・ダンスまで踊っちゃうのだ。
これはルイ十四世が太陽神に扮して踊った逸話をもじったのだろうが、それにしてもダンスも音楽も映画の制作当時の古楽普及度を考えるとかなりに本格的だし、おまけにその背景の舞台がちゃんと本式のバロック劇場の形になっているのも驚きだ。
ラストのクレジットを見ると、劇伴音楽でなく劇中で奏でられる当時の音楽の担当はD・マンロウ指揮ロンドン古楽コンソートであった。思わず納得
ということで古楽ファンも要チェックと言っておこう。
さて、公開当時の海外版にはカットを余儀なくされた103分と105分のヴァージョンあったようだ。私が持っているビデオは109分。しかし、現在gooのサイトで期間限定ストリーミング配信されているのは115分……(?_?; この6分間の差は何?
数年前にカットされた部分を復活した完全版が海外で発売されたらしいのだが、もしかして こりゃ、見てみなくてはならんかのう。