「南京・引き裂かれた記憶」:裂かれた記憶はいま合一するか
私がこのドキュメンタリーに興味を持ったのは、新聞か雑誌のインタヴューで監督の祖父がこの作品を作るきっかけだったというのを読んだからである。
その祖父は旧日本軍の兵士だったが、酒を飲むと人が変わったように暴れ、戦争中の体験を話すことはなかったものの戦友会にはよく行っていた--というのだ。
私の父親も全く同じだったのでいささか驚いた。父親は満州へ行かされシベリア経由で帰って来たが、やはり酒を飲むと性格がガラッと変わり、戦争中のことは一切話さず、しかし戦友会には嬉しそうによく行っていた(母親は戦友の妹だという縁で結婚)。かなりの類似点ありだ。
もっとも、酒癖については家系かも知れないので(^=^;なんとも言えない。(先日もその子孫の恐ろしい行状を聞かされたばかり)
それがいつの間にか気付かないうちに公開されていた。他所の映画館でチラシを見付けてビックリ(!o!)急いで見に行った。
内容は南京大虐殺について、同時期同地区にいた加害者・被害者について直接インタヴューをしたものだ。元日本兵6名、中国人7名という内訳でほとんどが実名で語っている(一人だけ仮名だが顔は出している)。
実際にインタヴューを行なっているのは、十年がかりで証言集めを続けている女性教師で、カメラはその後をついて行くという次第。
冒頭はその教師によるナレーションで「南京大虐殺」に至る経緯、そして日本国内での真偽論争が簡単に紹介される。ここら辺は正直、社会科の教材っぽい(^-^;
その後はもっぱら双方の立場へのインタヴューによって一つの事件の実像を浮かび上がらせる。それは揚子江の川岸に捕虜を列を作って並ばせ、どんどん銃撃して死体を川へ落としていったというものである。
もう一つ重点が置かれていたのは中国人女性への強姦事件だ。民家や市街で日常的に行われていたことが双方の証言によって裏づけられる。インタヴュワーの教師は極めて細かい普段使われていた言葉や行動を繰り返し尋ねることで、双方から見た事実を確証を高めていくようにしてるようだ。
登場する事例では年齢8歳から70歳、「強姦したのは……50人ぐらい」という証言もあった
私が印象に残ったのはこの記事にも書いたように、被害女性の方は強姦によって心身ともに傷つけられそれが今に至るまで治らないということである。兵士の方にとっては五十分の一に過ぎないかも知れないけどさ。
テーマ的に見ていて面白いとは言いがたいものだが、取材に応える人々の話には恐るべき迫力があった。しかし一方で、恐らくほとんどが自宅で家族の前で証言している元兵士のじーさん達が特殊な人間ではなく、日常に生活する普通人であるのもまた印象に残ったのである。
思えばその数日前に見た『パリ・オペラ座のすべて』とは、同じドキュメンタリーといっても正反対のようだ。こうまで、描かれている世界が違うものかと感じたし、取材方法も「オペラ座」の方は一切インタヴューはしていない。
だが、あとでよくよく考えてみれば淡々と取材対象に迫るという点では共通しているのかもと、思い直した。それこそがドキュメンタリーの基本ですかね。
観客は同じ題材のこちらの映画の上映時とは全く違って若い人(ほとんど男性)が多かった。
証言度:9点
日常度:7点
【関連リンク】
「南京・史実を守る映画祭」
こちらなら900円で見られます(^^;
ロジャー・スポティスウッドがこんな映画を撮っていたとは知らず。レンタルになっているようなので借りて見よう。
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コメント
情報、ありがとうございました。
渋谷アップリンクにて、南京・引き裂かれた記憶、見ました。池袋シネマ・ロサにて、アンヴィル、見ました。どちらも、見てよかったです。
ありがとう
投稿: tiger-hawk | 2009年12月12日 (土) 00時15分