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2010年1月21日 (木)

ヘンデル 歌劇「アドメート」:ヘンデルには暗黒××が良く似合う!?

演出:ドリス・デリエ
出演:ティム・ミードほか
指揮:ニコラス・マギーガン
演奏:ゲッチンゲン音楽祭管弦楽団
ダンス:斎藤公義&マム・ダンス・シアター
2009年5月ゲッチンゲン国際ヘンデル音楽祭(初演:1727年)
*TV放映

正月休みにホットカーペット上でゴロゴロしながらリュリのバロック・オペラ「カドミュスとエルミオーヌ」のDVDを見た。で、さて次は何を見ようかという段になって、11月頃にNHK-BSで放送されたヘンデルのオペラを録画しといたことを思い出し、よ~しこの勢いで見ちゃうぞーと続けて突入したのであった。

これは演出がかなり話題になった舞台らしい。時代背景はギリシア神話に基づく物語なのだが、人物の衣装や化粧・小道具など全て日本趣味で統一されているのだ。タイトルロールの王アドメートをはじめ男性はちょんまげ風のかつらをつけてるし、王妃アルチェステは日本髪もどきに長いカンザシを付けている。鎧兜の類いはクロサワ時代劇風だ。エルコーレ(英雄ヘラクレス)に至っては力士の出で立ちでシコを踏んだりしちゃう。
もっともかなりデフォルメされたデザインで、しかも全体的にモダンなタッチなので、パロディっぽさはなく重厚な印象さえ与える。

幕開けは主人公は不治の病で伏せたきりで、陰々滅々とした雰囲気に覆われている。と、うなされる彼を悪夢の中で襲うはなんと暗黒舞踏集団……白塗り半裸のダンサー達なのであった いやはや、「ブトー」まで出て来るとは驚きだ。
殿様、ぢゃなくて王様のアドメートを演じているのは、先日BCJ「リナルド」でも主役を張っていたカウンターテナーのティム・ミードではあ~りませぬか(!o!) ここでトーシロとしては、横向きに寝たりままだったり這いつくばったりしてちゃんと歌えるのかしらん?腸捻転とか起こさないのなどと余計な心配をしてしまうのであった。

さて神託によって、王を助けるために妃のアルチェステは自害する。元気になった王はエルコーレに冥府から妻を連れ戻してくれと頼み、冥府に下ったエルコーレは悪鬼(?)たちをドスコイとうっちゃりながら彼女を救い出すのであった。
ここでトーシロとしては、相撲を取りながらでちゃんと歌えるのかしらん?息切れとかしないのと余計な心配を(以下略)

しっかし、その間アドメートは元の婚約者アンティゴナが現われて気もそぞろになる。現代的な規範からすれば「あんたはヨメに命を救ってもらったんだから、あと百年間は禁欲してろ!」と言ってケツでも蹴飛ばしたくなるところだろう。
それを予感してか王妃は身を隠す--なぜなら、彼女は冥府から「嫉妬」を連れてきてしまったのだー{{(>_<)}}
この「嫉妬」が江戸時代の幽霊画みたいな格好。同時に長い黒髪をダラーッと垂らしている様はまるであの、さ、貞子……出た出たデターッ!へ(・・へ)~ コワイよ~ん
この貞子、ぢゃなかった「嫉妬」を演じているのは、振りつけも担当の斎藤公義。恐ろしいです。

しかしこの物語の不思議なのは、ずーっと夫への疑惑と嫉妬を歌っていたアルチェステが、遂に夫のフタマタ愛が確実だと告げられた途端に「やっぱりあの人を信じていこう」みたいに百八十度転換してしまうこと。な、なんでそうなるの(?_?; ヘンデル先生、こればかりは理解できません。

このあたりから舞台上には何やら異様な緊張感がみなぎって来る。なにせ「嫉妬」は妃に退けられたにもかかわらず、しつこく影の如くつきまとってくるし、アンティゴナの婚約復活作戦は着々と進行しているからである。

「妃はどうも戻って来ないようだし、せっかくだから元婚約者と復活愛しちゃおうかな~」とやにさがったアドメートがアンティゴナと結婚の儀に至る--と、それまでほとんどセットがなかった舞台上にロココ調の背景と柱が出現。柱の影からアンティゴナに横恋慕する(というより、彼女に適当に利用されてた?)弟王が刀に手をかけて暗殺の機を狙うのであった。……その光景はまるで「松の廊下」ではないですか!
もはや気が気ではない。嬉しそうな愛の二重唱も緊張感でハラハラドキドキして聞く羽目になってしまう。

間一髪、身を挺してアルチェステが「殿中でござる」と暗殺を防ぐと、王は「あら、ヨメは生きてたのね、どうしよう」状態に。素早くアンティゴナは身を引く宣言をして、弟王とくっついちゃってメデタシメデタシとなるのであった。本当にいいのか?あんた、それで
一体、この展開をどう解釈していいのやら。やはり当時の国際状況あたりをなぞっているのだろうか? 極めて不可解である。

だがヘンデル先生の真意はともかく、登場人物全員による大円団の明るい合唱が始まると、一同を尻目に舞台前面を「嫉妬」が跋扈して、ケイレン的な舞踏でステージ上を独り占めするのであった。
いや~、暗黒舞踏と勇壮明快なヘンデルのフィナーレがこれほど似合うとは誰が考えたであろうか! もうビックリである。ビックリ過ぎて笑っちゃうほど(^O^)

かくも不可解な物語を、明確な形に転換させた演出家の手腕はお見事としか言いようがない。
カーテンコールは拍手喝采、足踏み、ブラボーの嵐また嵐となった。
ティム・ミードをはじめ、ソプラノ二人、エルコーレ役など歌手陣もよかった。ただ、弟王役のカウンターテナーは……(以下無言)。
羊役のダンサーは大変そうだった。ご苦労さん賞だろう。

「カドミュスとエルミオーヌ」とは完全に正反対の方向のプロダクションだったが、これまた楽しめた \(^o^)/
この収録にはNHKも関わっている? だったら、地上波でも放送するか、ソフトで出すかしてして下さいよ~。頼んます(^人^)

【関連リンク】
《アルチーナのブログ》

《テニスとランとモーツァルト》

《In fernem Land unnahbar euren Schritten....》

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コメント

不思議と違和感の無い演出でしたよね?
片膝ついて、殿に申し上げているのもなんだか合っていたし・・
エルコレも四股を踏むのが上手かったですね。
とはいえ、演出が気になったのと、歌手も結構、聴かせてくれたのでストーリーが全く頭に入らなかった私でございます。

ティム・ミードは演技付きの方がより良いのでは?と『リナルド』行っていない癖に勝手に思いました。

あ、そうそうフー・ファイターズ、聴きたくなってyoutubeで探して聴きました。好きだった曲はOh,Georgeでした。すっかりタイトルを忘れていました・・

投稿: アルチーナ | 2010年1月22日 (金) 10時21分

いいなあ、これTV放映してくれて。ぜひ見てみたいものなんです。
演出のデリエ女史には、映画Cherry Blossoms HANAMIという、後半は日本が舞台の「東京物語」風のちょっと変わった映画で、びっくりさせられました。映画でも、ブトーは、重要な鍵で日本のシンボルなんです。公園のテント暮らしでブトーやってる日本人の女の子と、日本びいきでやはりブトーやってた妻を亡くしたドイツ人のオヤジとの心の交流という。。。
デリエ女史の日本オタクぶりは、なかなか筋金入りのようです。オペラの演出もここまでやっちゃうと、痛快。

投稿: レイネ | 2010年1月22日 (金) 21時22分

事前にどんなものか知らずに、とりあえず録画しておけーみたいな感じだったので、予期せぬ面白さに大満足致しました。

 >アルチーナさん
ティム・ミードは、前半の病苦、後半のしれっとフタマタ愛をしちゃうところなど妙にはまっていましたね。
なるほど「リナルド」よりずっとよかったです(^^)

"Oh,George"というとファーストアルバム、ですか? 一昔前といってもあっという間ですなあ……。

 >レイネさん
どちらかというと「ブトー」の方を見せたかった?ような気もするほどでした。
日本だと却ってマイナー、というかアングラとして見なされているのが、海外では日本的なるものを代表する文化のように受け止められているのは不思議です。

「貞子」の姿に、映画のジャパニーズ・ホラーが日本の伝統的な怪談を継承している、という説に納得してしまいました。ガイコクジンに教えられ、ですね。

投稿: さわやか革命 | 2010年1月23日 (土) 22時04分

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