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2010年1月28日 (木)

「かいじゅうたちのいるところ」(字幕版):かいじゅうの皮をかぶったにんげんと、にんげんの皮をかぶったかいじゅう、こわいのはどっちだ!

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監督:スパイク・ジョーンズ
出演:マックス・レコーズ&かいじゅうたち
米国2009年

センダックの絵本を映画化!と言っても、個人的にはS・ジョーンズってどうも苦手なタイプの監督だ。あまり期待しないで行こうと思った。
原作はストーリーなどあって無きが如し。あっけらかんとして、他愛のないユーモアに全編満ちている。どちらかというと「かいじゅう」の造形や絵のタッチに重きを置いて眺める絵本だろう。未読の人は本屋で立ち読みしてみるがいい。5分もかからない。
さて、そんな「あっけらかん」さを期待していったのだが……。


 ★☆注意!☆★
この映画を大好きな人、感動した人、高く評価している人は以下を読まないことをオススメします。
大変、精神衛生上悪い文章が続きます。読んでから文句言うのは禁止(^-^;


まず、始まって意外だったのは主人公の少年の年齢が高かったことである。原作だと5、6歳ぐらいか? 映画の方は小学校高学年といってもいい。でも、行動は原作と同じくらいの年齢なのだ。
こんな大きな子が冒頭のトラブルまず大泣き--これじゃ、姉の彼氏がドン引きしちゃうのも当然だろう。しかも、床に寝転んで母親の靴下を触るに至っては、フロイト先生ではないが近親相姦の匂いがプンプンするではないか。もっと小さい子がやるならいいけどさ。

かように現実界の描写は見ていて居心地が悪い。途中退場したくなる(>_<)のをぐっとこらえるのであった。
だが、舞台が「かいじゅう」界へ移ると……そこはもっとひどかった。

かいじゅう達は孤独だ。いつも一緒で離れられない。しばらくは仲よくやっているが、段々とうまく行かなくなってきて、互いに傷つけ合わずにはいられなくなる。最後には罵り合い、みんなで協力して作ったものを破壊してしまう。それでもやっぱり離れられない。どこにも出て行けない。
そしてまた一同はくっついて仲直りする。これの繰り返しだ。こういうのを「ヤマアラシのジレンマ」と言うのだろうか。

いくら寂しくてワォーンと鳴いても彼らの孤独は癒されることはない。なぜなら、彼らはかいじゅうだから孤独であり、孤独だからかいじゅうなのだ。
彼らは自らの孤独を癒す者を「王」にするが、そんな事が可能な者はいない。だから「王」を殺して破壊と再生を繰り返すのである。
うーむ、なんでこんな暗くて陰惨で救いがたく残酷な話にしたのかね。見ていてゾッとしてしまった。とても「ほのぼの」とか「あったかい」などという風には思えない。

特にかいじゅうのリーダー格のキャロルは思い通りに行かなくて、かんしゃくを起こした揚げ句、友人の××をもぎ取ってしまった件りにはビックリした( 'Д')ポカーン いくら架空の世界の話だからって、恐るべき暴力性である。こんなの小さなお子様が見たらショックを受けるだろう。

ミクシィのレビューに、少年の不在の父親がこのキャロルであり、彼が好意を持っている女かいじゅうのKWが母親を表わしていて、少年の両親は実はDVが原因で離婚をしたのではないか--という解釈をしていた人がいた。確かに、かいじゅう達の世界はDV家庭のような複雑で荒廃したイメージがある。
とはいえ、そのレビューの後半にあった、少年が成長して家に戻ったという説にはちょっと賛成しかねる。

少年はうまく統治できなかった「王国」を放り出して、かいじゅう達が孤独なのは母親がいないせいだとし、自分には母親がいるもんねと現実界に戻ってきてしまうのだから--成長もなんもしてない。
ラストの少年の笑い顔は妙に不愉快で、私は「愛とは家庭内だけで流通する通貨である」という言葉(確か多木浩二の)を思い出してしまった。
私はつくづく考えた。愛される者の傲慢さよ--それこそが「かいじゅう」に違いない。

あと、致命的なのは子役の少年が一種類の表情しか出来ないこと。怒ってる顔、困ってる顔、考え込んでる顔、みーんな同じ 口の周囲をちょっとふくらまして……しまいには見飽きてしまった。

平日の夜に見に行ったら一番大きなスクリーンなのに客は4人しかいなかった
その前に見た「カティンの森」も暗かったが、こちらはまた別の陰惨さ・残酷さでウツになってヨロヨロと映画館を後にしたのである。


主観点:3点
客観点:5点

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