パーセル「アーサー王」:津波より先に押し寄せた「非難」
音楽監督・指揮:エルヴェ・ニケ
演出・構成:伊藤隆浩
管弦楽&合唱:ル・コンセール・スピリテュエル
会場:神奈川県立音楽堂
2010年2月27・28日
結果的に古楽系では、早くも今年最大の話題騒然作となったパーセルのオペラ公演である。思えば昨年はパーセルのメモリアル・イヤーでもあったはずなのだが、ヘンデル先生の陰に隠れて忘れてたような……(^^;)
さて、私は28日の方に行ったのだが、折しも津波警報の真っ最中。会場は横浜とて高台だから関係あるまい--などと高をくくっていたら、なんと電車が動かないのであ~る。それも、湘南新宿ラインは普通に走っていて横浜に到着したのだが、その一駅隣りの桜木町まで行く電車がなかなか出発しない。
プレトーク聞くつもりで早めに家を出てヨカッタと開演時間ギリギリに着いたら、開演を30分遅れに延ばしていたので、プレトークから聞くことができた。
もっともこのプレトーク、聞かなかった方が却ってよかったかも。……と後になってみれば思うのであったよ。
この公演はチケットを売り出した時から「セミ・オペラ 5幕」となっていた。はてセミオペラってなんじゃい(?_?; ホールオペラというのとは違うのか?
などと疑問に思っていたら、桂冠詩人ドライデンの芝居が元に存在していて、それに付けられた音楽らしい。オペラと「劇付随音楽」ってヤツの中間あたりのようである。従って、肝心のタイトルロールのアーサー王や主要な人物が歌う場面は出て来ない。
オケはステージの上に乗っていて独唱者や合唱隊は奥のほうに並んでいる。しかも、芝居の部分は長い(5時間かかるとか)のであらすじ紹介だけでカット 休憩ナシでひたすら音楽だけを進行。こ、これでは演奏会形式にしちゃった方がよかったのではという感が大きいのであった。
加えて両脇に四角い壇がさらに設けられていて、そこでソリストが歌ったり、日本人ダンサー達が出て来てバレエ(残念ながらバロック・ダンスではない)を踊ったりしたのであったが、私は前の方の席だったせいか一度に歌手とダンサーと歌詞の訳の字幕も見て、さらにニケや演奏者達へもちらちら目をやったりするのは大変だった。一体人間が幾つ目を持ってると思ってんだ、ゴルァ(-o-;)などと言いたくなるのは仕方あるまい。
しかも、ダンサーの使い方もなんか今一つセンスなくてヌルイんだよねえ。
ニケは舞台の真ん中で譜面を置かず、踊るように指揮していた。恐らく彼がステージ上で一番広いスペースを与えられていたに違いない。(それだけ狭苦しかった)
弦楽器隊や木管楽器隊の演奏には迫力あり!と感じた。なんか根本的な底力というものが存在しているようだ。ただトランペットは出番が少ないせいか、あまり目立たず。
合唱隊もまた達者かつパワーがあってさすがと感心した。雪と氷の場面で、彼らが壇上でブルブル震えて見せるところは芝居っ気たっぷりで笑わせてくれた。ただ、スピードスケートの真似をしてることには気付かず……。私σ(^_^;)全く冬季オリンピック見てなかったもんでして。
比べて独唱者のレベルは「並」っぽかった。バスの人(俳優のクライヴ・オーウェンに似ている)は活躍していたけど……。あとは左端の方のソプラノがよかったかな。カウンターテナーの人は出身がチリとプログラムに書いてあって、日本で歌ってる場合ではないのではと焦ったが、ご家族に怪我はなかったようでメデタイ。
そして大問題だったのは演出である。これは他の人の感想にも大概書かれていることだが、舞台中央上方のスクリーンに出す字幕や画像やシルエットがいちいちウザイっのである。誰もあんたの意見なんか聞きたくない、いい加減にしてくれ~と叫びたくなるほどのセンスの無さなのだ。
プレトークで「音楽のジャマをしないように……」なんて言ってたが、立派にジャマをしているじゃないのさっ(思わず殺意(▼-▼))。
かくしてカーテンコールで演出家が姿を現した時は「ブー」がしきりに飛び、さらには演出支持派(?)の「ブラボー」との、両者入り乱れる状態になったのであった。
演奏会形式でも、衣装付けたりジェスチャー付けたりするというやり方もあるし、ここは余計な演出なぞやらずに、芸達者な合唱隊やニケご本人に出張ってやってもらえば良かったんじゃないの。
もちろん、アンケートにはちゃんと「演出ひどい」と書いて出しましたよ
最後にこの作品自体について。
ニケは今風のミュージカルのように楽しんで欲しいと語っていた。確かに、このように細切れ状態の形ではそうするしかないだろう。
ドライデンの歌詞で描かれているのは英雄譚の部分よりは、いかにも英国風の人間への辛辣な風刺や皮肉が目立つ。牧歌的な内容にしても、そこは素直でなくてひねくれている。単独で歌われることの多い「美しい島」(歌の真意は英国万歳)も、今回それに合わせたようにかなりおちょくったような皮肉タップリなモードで歌われていた。
だが、しかし果たしてここは額面通りに受け取ってよいものだろうか? ニケのパーセルのオペラは「フランス70%、イギリス30%がベスト」という発言も、これはあくまでフランス側の言い分である。英国人が果たしてそれに賛同するかどうかは疑問だ。(何せ両国はたかだかウン百年前は戦争をしていたのだ)
ここは是非、英国側の演奏による生舞台を鑑賞してみたい。ただし、演出はケン・ラッセルみたいなキッチュかつ辛辣な皮肉屋にお願いしたいもんである。
パーセルの歌劇系作品の公演はこれまで演奏会形式も含めて日本人によるものしか聞いたことがない(多分)。完全な形では北とぴあの音楽祭での『ディド~』ぐらいか。
まあ、ヘンデルと違ってパーセルでは知名度が低くて集客できないということもあるだろうけど。やはり本場モンを聴いてみたいのう~。
ついでながら、改装後の神奈川県立音楽堂に行ったのはこれが初めて。外見やホール内はどこが変わったんかね?という感じだが、トイレはキレイになって数は増えていた。(それでも収容人数には見合わないだろう)
でも、座席が狭いのは相変わらず。昔の日本人がみんないかに小柄だったということですねえ。
【関連リンク】
《Once a trumpeter.....》
《オペラ備忘録》
←「役たたず」だったアーサー王の剣
| 固定リンク | 0
コメント