イタリア映画祭2010「やがて来たる者」&監督座談会:イタリア7人のサムライ
監督:ジョルジョ・ディリッティ
出演: マヤ・サンサ
イタリア2009年
今年はLFJにも一公演しか行かないし、ゴールデンウィークどうすべかなーと考えていたが、イタリア映画祭というのを有楽町でやるではないか!--ということで、チケットを買うことにした。
正直、今まで映画祭というのは敬遠して来た。なぜかというとしばらく待っていればロードショー公開されるパターンが多かったし、上映場所が必ずしもいい映画館とは限らないからである。しかし、この不景気でマイナーな作品はしばしば一般公開されないままになってしまうし、有楽町朝日ホールはまさに映画を観るにふさわしいホールではないが、ガマンするしかない。
作品選択は内容紹介を見てテキトーに選んだのが本当のところである(^=^;
上映前に簡単な監督の挨拶があって「やがて来たる者」が開始。
これは一口に言ってしまえば、スパイク・リー監督の「セントアンナの奇跡」と似た状況をイタリア農民の立場から描いたものである。ただし、「セント~」とは地方と時期が少し違うとのこと。第2次大戦の末期、連合軍は登場しないが、占領者のドイツ軍とパルチザンが小規模な小競り合いをしている。
しかし、そのような状況に関係なく農民の生活は回っていく。春になれば種をまき、秋になれば収穫、家畜にはエサをやらなければならない。そのような農村の毎日が丁寧に描かれていく。
だが、段々と状況は悪化。主人公の少女の家族からもパルチザンに参加する者が出るし、戦闘や爆撃が近くでも起こり、さらに都会から戦禍を逃れてくる人々が流れてくる。
そして、やがて恐ろしい惨劇が起こるのだ。
結末は衝撃的なのだが、そこに至るまでがいささか長過ぎる。あらかじめ、ラストに事件が起こると知ってて見てないと(いや、知ってたとしても)退屈してしまう。細かい所までこだわった農作業の描写や役者や子役の演技は見事なもんだとは思うんだけど……
もう一つ印象に残ったのは占領者と被占領者の視線の非対称性である。ドイツ兵を見る農民の目は絶えずビクビクしながら警戒し注視しているが、それは単に兵士たちが食料を求めに来ているとか談笑しているだけと分かっても変わることはない。
逆の立場から見た同じような場面が「ハートロッカー」にも出てくる。
主人公が突然行方不明になった(と彼は思っている)少年を探して街中へ出る件りで、唯一英語が通じる知識階級の中年男性が示す態度が似ている。銃を振り回す主人公にへつらうような反応を見せる男性の印象は、主人公からみると不誠実に見えるが、よくよく考えれば当然の反応であろう。占領/被占領という枠組みの中に対等で誠実などということはあり得ないからである。
終了後は監督との一問一答があった。
*日本語字幕の他にイタリア語の字幕が出ていたのは、セリフがボローニャの方言だったため。
*写実主義を重視して作ったが、60年も前の話なので当時を復元するのは難しかった。
*過去の記憶を、前向きな未来へと構築していけるような作品を目指している。
*ある民族の優位性を信じることが、このような悲劇を生んだ。
*日本での公開が決まっている。
なお、質問者の一人が一緒に登場していたプロデューサーを少女の父親役の人だと勘違いしてしまったが、ちょっと細めになったくらいで確かによく似ていた。私もてっきり役者さんだと思ってしまった(^^ゞ
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また、事前には知らなかったのだが、その後に続けて無料の監督座談会が行われるというアナウンスがあった。もののついでということで、聞いて行くことにした。(でも、女子トイレ混み過ぎよ)
壇上には監督が7人並んでいて、司会の質問に順番に答えていくという形。その中で知っているのは「やがて来たる者」のディリッティを除けば、「夜よ、こんにちは」を以前に見たベロッキオぐらい。
司会の仕切りが悪いのか、監督たちの答えはぬるいし、質問自体へも「どうしてそんなこと聞くの?」みたいな感じの答えがあった。さらに質問が二巡めになるとそれぞれの監督個人に興味を持っている人しか聞いても仕方ないような話が続いて、私はちょっとウトウトしてしまった。
と、そんな空気を見て取ったか、そこで爆弾発言をしたのがD・フェラーリオ監督(彼の今回の作品「それもこれもユダのせい」も見たかったが、無理しちゃいかんとあきらめたのよ)であった。
「ここにいる監督たちは《7人のサムライ》と言っていい。なぜなら、一般的なイタリア人のテイストとは合わないものばかり作ってるからだよ!」
なんでもイタリアではこれまでになく映画の観客が増えているが、それはパターン化したコメディでしかも保守的な価値観に基づいたものばかりが人気だとのこと。社会問題は山積みなのに、男女関係の話ばかり。しかもテレビ界に従属した作品が多いという。
……なんか日本とかなり似てますな(^^;)
そして「ここにいる7人はイタリア映画界のマイノリティだ!」と断固宣言したのであった。
彼に対し最年長のベロッキオが返答したりと、議論は少しは盛り上がったようだ。
その後の会場からの質問者は、7人も監督が並んでいるというのに「やがて来たる者」限定の細かい手法について聞いたりして、他に質問することはないんかいと思ってしまった。
でも、イタリア映画界の状況について少しはうかがえたので全体的には聞けてヨカッタと感じた。
【追記】
ロードショー公開の邦題は「やがて来たる者へ」になりました。
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