「カラフル」:人間が嫌いでも口に出して言わないのが大人というものよ
森絵都の原作は日本のYA文学の代表的存在。感想文コンクールの課題作になったり、読書会のネタになったり、さらには彼女の文章は国語の教科書に載るほどらしい--のだが、一度も読んだことがない(^^;ゞ
なんだけど、予告が面白そうなので行ってみた。
あの世へ行く寸前で引き止められた「ぼく」の魂は、天使(多分)から抽選に当たったのでもう一度修行してやり直す事ができると告げられる。そして、自殺した中学生の身体に入ってその少年としての生活を始めるのであった……。
ファンタジー調の設定だが、取り上げられている題材はいじめ、家庭崩壊、援助交際など極めてシリアスにして身近なものである。
しかも最近のアニメのトレンドなんだろうか、『アリエッティ』同様背景は非常に精緻に描きこまれている。二子玉川とか等々力といった実在の場所が登場していて、その辺りを完璧に再現しているとのことだ。雨の街路や川岸の光景は美しい。
主人公たちが自己を肯定的にとらえ直し、家族が再生していく過程は感動的である。いや、感動的なのであるが、それは観ている側が感動するというより、絵に描いた「感動」を見せられているような気分であった。
さらに一番の驚きは、一番肝心の部分を全てセリフで説明していることだった。「あ~あ、そこまで言っちゃうかねー」という感じだ。原作が小説だとこうなるのか(?_?; これでは映像化する意味はないだろう。
振り返れば、『アリエッティ』では肝心なところはなんにも説明されてなくて訳ワカラン状態。かと思えばこちらでは全部説明しまくり……日本の未来が心配です(いや、別にどうでもいいけど)
しかも、自分がさすがにもうイイ歳のオバハンになったせいか、主人公よりも母親の方にかなり同情してしまったのは仕方ないことか。これを見て、つくづく「あー、自分が母親でなくてヨカッタ \(^o^)/」と思った(少子化促進アニメかよ)。
先日、政治家が高齢出産することを公表したが、そうすると60歳代半ばでこの思春期の若者のドロドロした負のエネルギーと向き合わなければならないことを意味している。私なぞ、それを想像しただけで気絶しそうだ。とても真似できません。
エンコーとフリン、どちらが犯罪かといったら法を犯しているのはエンコーである。しかし、この物語の中で厳しく裁かれているのはフリンの母親なのだよね。法の罪よりもモラルの罪の方が重い。それは家族制度を崩壊させるからだろうか。逆に言えば、少女のエンコーは社会システムを破壊することはなく、むしろシステムの維持に一役買っているのか、なんて穿った見方までしたくなっちゃう。
母親は再生産労働に専念することで贖罪しようと試みるが、それは決して認められることはない。この冷厳さは原作者のものか、それともアニメの作り手のものなのか。
数曲の挿入歌がやたらとベタで聞いてて気恥ずかしい。普段、洋楽ロックばかり聞いてる人間だからそう感じるのかと思ったら、こちらの感想を読むと、私だけではないようだ。ホッ( -o-)
観に行ったのは平日の昼間とはいえ、夏休み中である。しかし、物語の対象としているような中高生の姿はなく、客席には大学生風の若い女の子たち、中高年オバサンのグループ(謎)、監督のファンらしいヲタク系男性あたりがまばらにいるだけだった。このアニメはどういう客層を想定しているのか……なかなか難しい。そこへ行くと、『アリエッティ』はマーケティングがうまく成されていたなあと改めて感心してしまった。
まあ、そもそもひねくれ者に合わないモンを観てしまったということで
背景描写度:8点
人間描写度:3点
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