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2010年10月17日 (日)

「彼女が消えた浜辺」:藪の中ならぬ●の中の真実

101017
監督:アスガー・ファルハディ
出演:ゴルシフテ・ファラハニ
イラン2009年

*文末にネタバレ感想があります。

イランの映画というと、『亀も空を飛ぶ』ぐらいしか見たことがない。それ以外で名前知ってる監督ったらかろうじてキアロスタミ、マフマルバフあたり。
この作品は年間興行収入第二位ということで国内で大ヒットしたらしい。監督は既に数作撮っているそうだが、日本で紹介されるのは初めてとのことである。
またつい最近、海外へ脱出せざるをえなかった映画関係者たちを擁護した発言のために、撮影禁止の処分を食らったというニュースが流れた。

冒頭、闇の中にチラチラと白い光の線が見える。私にはてっきりドアの郵便受けを建物の暗い内側から撮っているように見えた(^^;……が、実際にはなんだったのかは見てのお楽しみ。

小さい子どもを連れた三組の家族が海に近い別荘地に遊びに来る。男たちは大学の同期生のようで、女性たちが髪にスカーフを巻き長袖の服を着ている以外は欧米の中産階級とほとんど変らない。
一人、エリという若い娘が交じっているが、これは一同のリーダーシップを握っているセピデーという妻が夫の独り者の弟(多分)に紹介しようと連れてきたのだ。
しかし、リラックスしてはしゃぐ一同の中で、時折エリは浮かぬ顔をしている。そして、とある事件が起こった折りに彼女の姿は煙のように消え失せてしまったのだった……。

率直な感想を言えば、脚本も映像も演出もうまいっ!--ということである。
そもそも、エリがどうなったのかというミステリーの部分が主題ではない。事件前と事件後の人間関係の変貌に描写の重心が置かれている。それまであきれるほどに能天気に騒いでいた家族たちが、一転して疑念に捕われ互いに責任をなすりつけ合う 目を覆いたくなるような状況だ。
陽気でリーダー格だったセピデーの後半の変わり様も目を引く。元々、彼女の場当たり的性格が災いしているのだが、それも前半で描かれている。

荒波が押し寄せる海、うるさいほどに絶えず聞こえる波の音……。そして、エリが凧を揚げている場面の映像も印象的である。
驚いたことに事件の前もその後も、この映画には「快」の場面がほとんどない。常に観る者の神経を逆なでにする。凧を揚げている描写はその唯一の例外なのだ。

トラブルの原因はイラクの社会に根ざすものではあるが、禁忌はいずこの社会にも存在する。問題はその禁忌と真実に人間が対峙できるかどうかだろう。その時、全ては壊れていく。元に戻すことは難しい。ラストはそれを暗示する。

日本じゃありえねえ~みたいな感想も見受けられたが、大きな問題にはならないにしても、日本だってかなり気まずい状況になるんじゃないの。
そのような異文化の、理解を越えた部分と共通部分が同時に観る側に何らかの感銘を引き起こすのは間違いない。
久々に「観たーっ \(^o^)/」という気分になった映画だった。

結構小さい子をほったらかしにしているのに驚く。向こうの国では皆そうなのか?
あと、イランでも「みなしごハッチ」ってやってたんですね。恐るべし日本のアニメ いや喜ぶべきか(^-^;


惑乱度:8点
女優美人度:9点

★以下、ネタバレ感想です★


未見の人はご注意を!


エリの末路について、私はてっきり事故死かと思っていたのだが、自殺したという解釈もあるのを知って驚いた。
しかし、確かにそうであってもおかしくはない。
さらに、終盤のモルグでの死体も本当に彼女のものか怪しいという説もある。あの婚約者は嘘をついたというのだ。映像では若い女ということは分かったが、エリかどうかはハッキリしない。
真相はどうなのか、藪の中、いや波の中である。
どれであれ、エリが救われないのだけは確かだ。これが監督の表わしたかったことだろう。

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コメント

この映画、About Ellyというタイトルで11月中旬から、近所の映画館で上映されます。日本語のタイトルと英語のとは、ずいぶんかけ離れてるけど、元のタイトルは何なんだろうか。(映画館の予告によると、言語はペルシャ語とドイツ語ですが)
重そうな内容なんですね。こちらでは6禁(16禁じゃなくて)で、ポスターは叙情的なので、こういうストーリーとは想像できません。子供向けかと思ってました。

「亀も空を飛ぶ」では、クルド難民児童のあまりに暗い現実を見せられてびっくりしました。13,4歳であれだけの辛苦を経験して大人よりしっかりしてる子供たち。。。
ただ、この日本語タイトル、微妙にニュアンスがずれてるような。Turtles can flyだから、『亀だって飛ぶことがある』みたいなほうがいいと思います。


投稿: レイネ | 2010年10月17日 (日) 23時45分

元のタイトルはたぶん英語の方と同じだと思います。あちらの文字は全く読めないんでハッキリしませんが、邦題はその地味なタイトルを何とかして少しでも客を呼べるものにしようという、配給側の必死の努力が感じられます(^o^; でも内容は英語題の方が合ってるんですよね。
「亀~」も語呂とかの関係で決めたんでしょうか?

|子供向けかと

いやー、お子ちゃま無用の苦い話であります。イラン映画というと、子どもを主人公にしたものが多いせいですかね。

投稿: さわやか革命 | 2010年10月18日 (月) 21時53分

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